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「賞金稼ぎ」(SFショートショート)

  あらすじ
 未来の宇宙を股にかける賞金稼ぎの男。彼は凶悪犯のケインがムザ星にいるという情報をキャッチするのだが……。


 ケインが消息を絶ったのは、地球時間で20年前。奴は伝説のギャングで、殺人、強盗何でもありの凶悪犯だ。
 その首には今も多額の賞金がかけられていた。賞金稼ぎの俺には、魅力的な標的だ。 
 そのケインが、ムザ星にいるという情報が入った。
 ムザの文明は中世の地球レベル。惑星全体が鎖国を敷き、地球の一部の交易業者が細々と貿易してるぐらいだ。
 人口は惑星に一つしかないムザ大陸に集中している。
 大気の成分や重力、気圧は地球に似ており、哺乳類から進化した住民も地球人によく似ていた。
 俺は早速地球から来た商人に扮して、ムザの首都に降り立ったのだ。
「15カンザ(地球時間で、約20年)前にケインという地球人の悪党がここに来たのを知らないか。何か知ってる者には金を出すけど」
 俺は市場や酒場等、人の集まる所に顔を出しては、当時を知ってそうな高齢者に翻訳機を使って質問したが、3Dフォンに浮かびあがったホロ画像を見せても、誰1人心当たりはなさそうだ。
 無理はない。整形した可能性もあるし、そうでなくても歳月と共に風貌が変化してるだろう。
「15カンザ前といえば、丁度戦が終わった頃じゃな。30カンザ続いた戦が終わり、ムザ大陸全土が統一された頃じゃ」
 酒場で飲んでいた、ある老人が解説した。
「戦で大勢の民が死んだが、ある日マルバという男が現れ、あっという間に全土を平らげたのじゃ。それが今のマルバ王じゃな」
 そいつの話は知っていた。どこで学んだか魔道の使い手で、魔法を用いて大勢の敵兵を殺したという。
 また、その魔道で民の病気や怪我を治したので、今も多くのムザ人から慕われていた。
「マルバ様のおかげでこの地に平和が訪れた。ケインとかいう男を捜したいのなら、国王陛下に直訴したらどうじゃ。魔道の力で捜してくれるんじゃなかろうか」
「捜してくれるならありがたいが、一国の王様なら簡単に会っちゃくれんだろう」
「マルバ様が設けた目安箱がある。ダメ元で入れちゃあどうだい」
 俺は勧められるまま、直訴状を現地の言葉で記入して、目安箱に投函した。
 驚く事に地球時間で100時間後、王宮から俺の宿に招待状が来たのである。俺は国王と面会した。
 しきたり通り俺は王の顔は見ず、床に這いつくばったまま、ケインがどんな凶悪犯か説明する。
「わかった。おぬしにケインを引き渡そう。その者の居所なら知っておる。面を上げい」
 言われるままに、顔を上げた。驚く事に、王の顔はケインそのものだったのだ。歳をとって白髪とシワが増えていたが、間違いない。
「マルバ王はケイン? 一体全体どういうこった」
「ここへ俺がやって来た時、ムザは戦国時代だった」
 マルバ王、いや、ケインが事情を語り始める。
「俺は地球から宇宙船で持ちこんだ兵器でこの惑星を統一し、王となった。ここのボスになりたかっただけだが、戦争に疲れた民には、それを終わらせた俺は英雄に思えたらしい」
 ケインは、苦笑いを浮かべて話した。
「地球じゃ嫌われ者の悪党が、ここでは皆から尊敬され、俺の中で何かが変わった。持ちこんだ医療ロボットで住民の怪我や病気を治し、ナノマシンで荒地を畑に変えたのだ。官憲による拷問をやめさせ、公正な司法を整備し、議員は成人なら性別や収入を問わず国民投票で選べるようにした。とは言え、俺がどうしようもないワルだったのは事実だ。殺すなり、捕まえて地球へつれていくなりしろ。ここへ貴様がやってきたのも何かの縁だ」
 ケインの目はホロ画像の若い頃とは別人のように澄んでおり、まっすぐに俺を見つめていた。俺は口から言葉を放つ。
「ケインは見つからなかった。風の便りに20年前の戦争に巻きこまれて、それらしい地球人が殺されたと聞いた……。地球に戻ったらギャラクシー・ポリスにはそう話す」
「恩に着る」
 ケインいや、マルバ王の目に涙が浮かんだ。
「今後もムザの人達のため、まともな政治をやってくれ。もしも貴様が冷酷で強欲な独裁者になった時は地球から軍隊を連れて、お前の事を捕まえに来るぜ」
 俺はウィンクしながら告げて、王宮を後にした。


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