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俺は、狙撃者(SFショートショート)

 あらすじ
 未来の日本。ある男が政治家の暗殺を企むが……。


 西暦2022年の7月に元総理が改造銃で暗殺されてから、街頭演説する政治家の警護は厳しくなった。
 一方で街頭演説自体減らす動きもあり、テレビやネットでの演説に移行してゆく。
 そのうちテクノロジーが進むと、ホログラムによる街頭演説も増えてきた。
 本物の政治家と等身大のホログラム動画が北海道から沖縄まで、全国の街頭で一斉に演説するのだ。
 立体映像のクオリティが高いため、いつしかホログラムを使ったヴァーチャル街頭演説が全国的に主流となり、実際に街頭に出ての演説はなくなっていた。
 そんななか、任期切れ間近の女の参院議員が一人いるんだけどさ。
 間近に迫った参院選で立候補する時に、街頭演説をホログラムでなく実際にやると宣言したのだ。
 俺は、女に殺意を感じた。ただ感じただけじゃない。この女を殺す決意をしたんだ。
 目立つような事しやがって。俺は元々政治家って奴が、思想の左右や所属政党を問わず全員嫌いだ。
 あいつらは揃いも揃って自己主張の強い目立ちたがり屋ばかりで、昔からいけ好かないと感じていた。
 国民の血税で食ってるくせにスキャンダルばかり起こしやがって。そのくせ世の中が劇的によくなったためしがない。 
 俺は引き出しにしまってあるレイガンで、この女を殺そうと考えたのだ。
 言うまでもなくレイガン含めた銃の売買は22世紀の日本でも非合法なんで、俺は半グレの日本人から買ったのさ。
 安い買い物じゃなかったけど、当時はまだ親父が生きてて金回りが良かったしな。その時は、誰かを殺そうなんて1ミリも考えてなかった。
 ただレイガンをたまに引き出しから出して、眺めて満足してたってわけ。壁に向かって撃つ真似だけをしたりして、アクション映画のスターにでもなった気分でいたってわけよ。
 俺は今じゃあ大抵の日本人がそうであるように一人っ子で、死んだ父親の会社を継いで社長になったが上手くいかず、倒産する前に会社を畳んだ。
 経営が傾くと、周囲の人間は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。つっても蜘蛛は環境破壊の影響で絶滅したから、実際に見たわけじゃねーけどさ。
 女房の奴なんか俺がちょっと殴ったぐらいで『暴力を振るわれた』とか抜かしやがって、可愛い俺の子供を連れて逃げちまった。
 結局離婚したけど、たんまり慰謝料取りやがって腹が立つ。
 俺は他の仕事につこうとしたけど何をやっても上手くいかず、銀行預金は減ってくばかりだ。周囲のダチには『無駄遣いをやめて、真面目に働け』と説教されたけど、余計なお世話だ。
 俺は忠告されるのが、大っ嫌いなんだ。結局友達も1人、また1人とビリヤードでぶつかった玉みてえに離れていき、今じゃ音信不通だよ。
 3Dフォンをかけてもすぐ切られたり、着信拒否の設定されたり、電話番号変えられたり、メールアドレス変えられたりして、連絡つかねー状態さ。



 ともかく俺は、女が回る演説会場を、しばらく巡る事にした。
 さすがに最初のうちは本人も一緒にいるSPもかなり緊張していたようで、女の背後もしっかりと見守っていたんだが、だんだん警戒が緩むのが、傍目にもわかってくる。
 時には候補者の背後を、警備ロボット含めて誰もマークしてない時さえあったんだ。
 俺は、これならやれると確信した。そしてある日候補者の女もSPも、背後を見てない時にレイガンをぶっ放した。
 直後に女が倒れるはずだったのに奴は倒れず、さらに撃ったが、やはり女はそのままだ。
 そのうち周囲の連中が異常を察知して俺から逃げていった。SP達は俺に気づいて後ろを振り返り、こっちに向かってショックガンを撃ちはじめる。
 胸や腹にショックガンの放った電流が命中し、俺の全身に衝撃が走った。俺は手から、レイガンを落とす。
 身体中が麻痺してしまい、もはや銃を握り続けるのは不可能だ。
「どうしてだ。どうして、あの女は死ななかった」
 俺はかけつけた護衛の男に、まだ動く口で尋ねた。
「あの候補者は、ホログラムだ」
 SPの男は笑顔で答える。
「最近演説会場に不審な男が来てるんで、ホログラムに戻したんだ。不審者ってのは、お前の事だよ」

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