見出し画像

ウサギ税

ウサギといえば何だろう。

ウサギと聞いて咄嗟に思いつくもの。月で餅をつく姿。小学校の飼育小屋。動物園のふれあいランド。………自宅でペットにしている人はそう多くもないのではないか。ちなみにウサギを飼育したことがないので、飼い主が留守中に寂しくて死んじゃったりしないのだろうかとずっと疑問を抱いている。有識者の方は是非教えてほしい。

とかくウサギは愛玩の対象というイメージが強い。なんでも16世紀頃のヨーロッパでは、退屈な馬車の中の時間に貴婦人たちが膝の上で可愛がっていたとかいなかったとか………その少し前まで、お庭に放ってそれを猟犬に狩らせて楽しむものとしていたようですが。貴族様のお遊びはよくわかりませんな。

ウサギはわが国日本でも古来より親しまれてきた。月の模様は餅をつくウサギ。古事記には「因幡の白兎」の話がある。京都の高山寺に伝わる国宝・鳥獣戯画にもウサギの姿が描かれている。

燦陽会・編『高山寺蔵鳥羽僧正鳥獣戯画』より


しかし、ウサギを飼育する習慣は江戸時代までなかったようだ。

明治5(1872)年頃、東京を中心に突如ウサギの飼育が流行りだす。

西洋文化がどしどし入ってきた時代。外国産の珍しいウサちゃんをペットにすることが大ブームとなり、「ウサギ会」と呼ばれるウサちゃん展示即売会も開かれた。毛色や耳の形の変わったウサギは高値で取引され、1羽600円にもなるウサギもいた。もちろん今の600円とは違う。昔の物価に明るくないので詳細を記せないが、とにかく高い。ちなみに当時のお巡りさんの月給が4円くらいだったらしいのでやはり高い。

なので、ま~皆してウサギの飼育にのめり込む。
愛玩目的よりも投機目的でウサギを飼う人が増えた。

一発当ててやろうとなけなしの財産をつぎ込んだものの、上手くいかず無一文になってしまった士族がいた。ウサちゃんは寒さで死にやすい上に、当時は十分な設備もなかっただろう。また、ウサギの売買をめぐって親子喧嘩となり、父親を突き飛ばして殺してしまった息子もいた。ウサちゃん1羽で家族の絆が壊れるどころか死人まで出るのだ。他にもウサギによる利益をめぐる金銭トラブルが多発していた。

行政も「ウサギ会」を禁止するなどして取り締まりに乗り出すが、なかなか収まらない。

特に外国人名義のものが厄介だから、各国の公使館に禁止を願い出ようとするも……外国人の商業活動を制限できないと政府や外務省は消極的。華族や士族の没落防止を理由にしても……今度は司法省(今でいう法務省だね)が華士族だけの禁止はできないと言ってくるし、その上日本人だけの禁止令にも反対だと言う。

もうどうすれば良いのだ。このままでは人類はウサちゃんに支配されてしまうではないか。猿の惑星ならぬ兎の惑星まっしぐらである。(※そんなことはない)

月岡芳年『月百姿』より 77. 玉兎 孫悟空


そこで明治6(1873)年12月、東京府はウサギの売買を認める代わり、1羽につき月1円の税を課す「兎税」の制度を始めた。飼育するウサギについては毎月届け出なければならず、届出がない場合は1羽につき2円の罰金。1羽で月1円でもかなりの重税である。ウサギ愛が試されていく。

このウサギ税により、ウサギの価格が暴落したり、ウサギ会がなくなったり、やがて店からもウサギは姿を消した。ウサギブームは衰退していった。

ウサギによる人類支配(※そんなことは起きない)は防げたが、その人類の愚かな所業は収まっていなかった。

お役御免となったウサギたちは、たちまち殺され河原や空き地に捨てられたり、二束三文で売られたり、鍋料理にされたりした。これぞ人間たちのエゴが生んだ悲劇、現代のペット問題とも似たものを感じる。

しかし、一部のウサちゃん愛好家たちは、その後も高い税金を払いながらペットとして飼育したようだ。現代はどうだ?ペットを飼っていてもいちいち税は課されていない。余程の事情がない限り、最後まで面倒を見れるはずだ。

あ、これ書いた人はペット飼ったことないよ!

ペットに関しても素人、文化学や風俗学に関してもまったくの素人である。あくまで、本で見つけた面白い話を雑談程度に紹介しているだけの記事であることをご承知願いたい。まずいことがあったらご指摘ください。


【主な参考文献】

税の歴史クイズは思い切りネタバレになりました。すみません。

この記事が参加している募集

社会がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?