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リアル以上にリアル。【読書感想文】

避暑地の猫-宮本輝

すごく、素直な作品だって思ったんです。一気に三時間くらいで読めちゃうくらい、読んでいて気持ちよかった。
それくらい、流れが美しかった。

「人生というものはなぜこんなにも芝居のようなのか」

よく聞く言葉だけれど、
それを物語を読むことで擬似体験したのは初めてだ。

ネタバレしない程度に以下、
備忘録ほどの感想文。

映画、小説、ドラマ、舞台演劇。
そのすべての視点を、この物語は持っていた。

主人公、修平の目を通して見える世界が、確かに私にトレースされていた。
私は確かに彼と同じ景色を見ていたように思う。
時に匂いまで香るように。
小説を読んで、その見える景色がスローモーションに、
空気の動きまで繊細に見えるのは初めてだった。

正しさも、間違いもない。
ただそこに、出来事があっただけ。
十七歳の少年の心の動きがあっただけで。

それがとても自然なんだ。
おおよそ、“普通“とは言えないような状況なのに、
「ああ、私でも、そうするだろうな」
と、すっと腑に落ちる。

日照りが続けば雨が降る。雨が降れば山が潤う。
修平の行動がそんな当たり前のことのように思える。

あんまりに切ない、汗で肌が湿っていく感覚。
あんまりに切ない、神から与えられた罪と罰。
それは蜜のように甘い。
罪を重ねながら、欲求を達成していく。
それによって苦しみから少しずつ解放されていく甘美。

でも人間は呪われたようにまた、喜び苦しみを選んでゆくんだなあ。

仕方、ない。
苦しむことの後の達成感って、ものすごい生きている感じがするもの。

昔は、汚れるのがすごく嫌だった。

でも、今は清濁併せ持つのが楽しい。
汚れるほどに、綺麗になる。

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