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要するに率直に大方の予想通り平たく所憚らずに正直に言ってしまえばその時私は彼に惚れたのである

森見登美彦『四畳半神話大系』を読んで

                        3年A組 そめかわたくま

例えばもし僕が高校生の頃に時間が巻き戻って、高校卒業後に違う会社に就職していたらど今頃どうなっていたのだろう。脱サラして今のようなお店を開業していただろうか。それとも、その就職した会社に生き甲斐を見出し、同じ会社に居続けて、辞めることなく定年まで迎えていただろうか。出会う人々も違っていただろうか。

森見登美彦の小説『四畳半神話大系』は、大学生の「私」がバラ色のキャンパスライフを想像していたのに、そこで出会った悪友の「小津」や“師匠”と呼ばれる同じアパートに住んでいる謎の8回生「樋口清太郎」に振り回されて、憧れの黒髮の乙女「明石さん」にはなかなかお近づきになれず、もう一度1回生に戻って大学生活をやり直したいと願う、大学入学後の選択によって枝分かれした平行世界の出来事を描いた同じ時系列のパラレルワールドのような物語です。

よくありがちな、もしこの道に進んでいればどんな人生になっていたかなど、タイムリープものの話などは大抵違う結末を迎えることが多いですが、この小説では主人公の「私」がどこかのサークルや団体に所属する選択枝があり、映画サークル「みそぎ」に入ろうが、ソフトボールサークル「ほんわか」に入ろうが、大学を影で支配する3つの団体からなる秘密結社「猫飯飯店」に所属しようが、特に団体に属さず樋口師匠に弟子入りしても、ロクでもない運命が待ち受けているのです。

ただし、どんな選択をしても、出会う人たちが同じなのです。

その中でも特に「小津」という、どのサークルに属しようが悪の道に引きずり込む悪友とはまさしく「運命の黒い糸で結ばれている」のでしょう。

ところで気になったのが、主人公の名前が登場せず「私」と表現されている事。これはもしかすると原作者の森見登美彦自身が主人公となってこの世界を彷徨っているのか、もしくは読者がこの小説の世界の主人公に感情移入しやすいようにしているのか、それは分からない。

ただこの四畳半神話大系のクライマックスはというと、どんな選択をしてもついてくる小津のありがたみに気付き、「私」はやがて小津のことを「唯一の友人」と認めるようになり、これまでのやり取りが逆転するという文字通りどんでん返しが妙に泣けるのでした。

もし自分が主人公の「私」と同じように、どんな選択枝を選んでも同じ友人知人や妻に出会えるのであれば、僕は幸せ者である。このまま人生をやり直す事なく、一緒に未来を歩んでいきたいと思いました。


***


最後に、初めて読んだ森見登美彦さんの小説は『夜は短し歩けよ乙女』という作品だったのですが、独特のリズムとセリフの言い回しにちょっとついて行けず途中で読むのを辞めてしまっています。しかし、『四畳半神話大系』のアニメ版をたまたま見たら、一気にその世界観に引き込まれ、どハマりしてしまいました。アニメが終わってから再び『夜は短し歩けよ乙女』を読み始めたらスルスルと何の違和感もなく頭の中で登場人物が駆け巡りました。

要するに率直に大方の予想通り平たく所憚らずに正直に言ってしまえばその時私は森見登美彦ワールドに惚れたのである。(※四畳半神話大系に出てくるセリフから引用)

それからというもの、次々に森見登美彦さんの作品を読破していきました。実は『四畳半神話大系』は最初にアニメ版を観てから小説版を読んだのでした。

アニメ版と小説版では違う箇所があるものの、大まかな設定は同じなので、これから森見作品を読もうかどうか迷われている方や途中で挫折してしまった人は、アニメ版の『四畳半神話大系』から観るのをお勧めします。独特のリズムやセリフの言い回しが頭に入り、他の森見作品の小説をスムーズに読める進めることができます。 


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