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骨付き羊肉を中東風に仕上げる秘訣はヨーグルトだった

羊の肉は「くさみがある」と言って、食べない人が結構いることは知っている。羊肉の本場ともいっていい中東に行っても、それが変わらない人もいる。一方で、中東に行って、羊肉のうまさにはまってしまう人もいる。私は後者である。

中東から帰って3年あまり、東京から岩手県に移り住んで、羊肉がより身近になった。岩手には羊肉を食べる文化がある。北海道ほどでないかもしれないが、羊肉を独特の鉄鍋で焼くジンギスカンも有名だ。

岩手県遠野市にある老舗のジンギスカンレストラン「遠野食肉センター」が最近、盛岡郊外の矢巾町に、こじゃれた羊料理レストランをオープンさせたことをネットサーフィンしていて知った。レストランには、羊肉直売所も併設されているようだ。これは行ってみるしかない。

幹線道路沿いにある「遠野食肉センター」矢巾店は、白を基調にした明るくひろびろとした店内。これまでのジンギスカン食堂のイメージとはちょっと、いや、かなり違う。

ランチの「生ラムジンギスカン切り落としランチ」というのを食べてみた。例の半球形の鉄皿で焼く。「ひとりジンギスカン」にも対応してくれる。

これに、ご飯と味噌汁、小鉢がついて980円。この店が、これまで羊肉を食べなかった層も顧客にとりこむことができれば、日本で何度目かの羊肉食ブームが来るかも知れない。

店の入り口近くにある即売所もおしゃれな感じだった。ヨーロッパの肉屋といった感じ。明らかに比較的年齢の若い層を意識したつくりになっている。

いくつかの種類の羊肉が並んでいる。目が止まったのは、これ。

「ラムチョップ」とも呼ばれるアバラ骨付きの肉だ。このラムチョップには、とても甘美な思い出があるのだ。イランやトルコでのことだ。

イランには、このラムチョップを豪快に串刺しにして焼いた「シシリク」という料理がある。ロシアにも「シャシリク」という焼き肉料理があるようだが、常にラムチョップである訳ではないようだ。

イランの「シシリク」は、さまざまなケバブで知られるイランの中でもおそらく最高峰の焼き肉料理だ。首都テヘランには、シシリク専門店というのがあって、イラン人やら外国人やらでいつも賑わっている。最もおいしい店として知られていたのは、テヘラン北部の住宅街にある「シャンディーズ」という店だった。イラン北東部ホラサーン州の、羊が名産の村の名前だと聞いた。ただ、この「シャンディーズ」という店の写真をインスタグラムで探そうしたが、なかなか見つからない。同名店はイラン各地にあるようだが、私が行った、その店が見つからない。経営者が変わって、味が落ちたという情報もあるが、定かではない。

ともかく、こんな感じで、豪快に金属串に刺さって出てくる。串から外して、骨をつかんでかぶりつく。このダイナミックな感じもシシリクのポイントだが、肉の味が、なんともいえず、おいしいのだ。ちょっとスパイシーで、肉自体のうまみがすごい。

すごい料理だな、といつまでも心に残っていたが、自分で作ろうと思ったことはなかった。というのも、東京で、羊のラムチョップをみかける機会がほとんどなかったからだ。

もう、これは買ってシシリクを作ってみるしかない。ラムチョップ5本を購入する。1本400円ほどだった。冷凍されていたニュージーランド産の羊のあばら肉を、店員さんが上手にラムチョップに切ってくれた。

問題は作り方。なんとなく、何かにつけ込むのかな、とは思っていたが、それが何かが分からない。こういう時は、イラン通の友人に聞くに限る。イラン在住歴10年近くのイラン・クルド音楽演奏家の北川修一さんに問い合わせる。

私:シャンディーズ風シシリクを作ってみようか、と思っているのですが、味付けに何を使っているか、つけだれに一晩ぐらいつけこむ必要があるのか、など解決できない疑問が浮上しています

すぐ返事が来た。

北川:現状知っている範囲ですが、こしょうをいれた玉ねぎジュースの中に1日浸しておく、というのを聞いたことがあります

さらに北川さんが、ペルシャ語サイトを調べてくれた。

北川:ネット情報では、その後、切った肉をさらにみじん切りにした玉ねぎ、ヨーグルト、熱したサフラン、レモン汁、油、わずかの唐辛子を入れたボウルに最低一晩付け込んで、炭火で焼く、とありました

とてもありがたかった。岩手でサフランを入手するのは難しそうだが、あとの材料はなんとかなりそうだ。特に、岩手のヨーグルトのおいしさは折り紙付き。以前、岩泉町の「岩泉ヨーグルト」や西和賀町の「湯田ヨーグルト」でアラブのヨーグルトチーズ「ラバネ」を作ったりしたのでよく知っている。これはかなりいい材料がそろうかも知れない。

北海道産タマネギと中国産ニンニクをジューサーで液状にしたものと、西和賀町特産の湯田ヨーグルトをまぜて「つけだれ」作る。それにラムチョップを一晩つけた。その肉を、家庭用ガスレンジのグリルを使って焼き、塩コショウを振った。食肉センターの店員の「焼き加減はお好みだけど、中がピンク色なぐらいがいい」というアドバイスを踏まえて、ミディアムレアぐらいに焼いた。

これが、驚くほどおいしかった。羊の独特な脂のうま味は温存されたまま、ヨーグルトやタマネギがしみ出したと思われる甘さを含むうまみが加わる。口の中で味わっていると、中東の思い出が蘇ってくるようでもあった。

特にヨーグルトの乳酸のまろやかなうまみが印象的だった。シシリクのうまさの源泉の多くは、ヨーグルトにあったのではないか。中東の発酵食品の偉大さを、またまた見せつけられることになった。

今度は、元来の中東料理ではないものの、ヨーグルトを入れてカレーを作ってみようかと目論んでいる。おすすめレシピがありましたら、ぜひ、ご推薦いただけたら、と思う。

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