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食材をどう活かすべきか

日頃食材と対峙していて1番頭を悩ませるのが、目の前の食材をどう活かすかです。

道場六三郎さんの言葉に「食材を成仏させる」というものがありますが、その言葉の通り一体どう調理してあげたらこの食材は喜ぶのだろうか…

そんなことを思うのであります。



もちろん美味しいものであることは大前提の上での話なんですが、せっかくうちに来て料理を食べてもらうんだから、普段ご家庭ではなかなかできないようなアプローチで料理屋ならではの一品に仕上げるのか?

それとも馴染みのある料理なんだけど、とことんこだわって「これぞプロの味」というものを提供するのか?

いつもこの2択を迫られます。


今日は里芋を炊いていてふと相田みつをさんの言葉を思い出しました(すいません、名言大好き人間なものでw)

トマトがトマトである限りそれは本物。トマトをメロンに見せようとするから偽物となる。


料理の基本にある考え方として、「素材を活かす」というものがあります。

旬を迎えた食材の良いところをめいいっぱい引き出してあげるというような意味合いで使われますが、こと和食においては料理は引き算で考えることが多く、引き算とは、アクやえぐみ、余計な水分や脂を取り除くことを言います。


筍を米ぬかを入れてアク抜きしたり、大根や里芋を米のとぎ汁で下茹でしたり。

白いものは白く、赤いものは赤くしてあげる。

昔の人は本当によく考えたものです。


そういった下処理を施すことで、素材の持つ旨味や本来の味だけを残したり取り出したりすると、あとは特別な味付けは必要ありません。

旬の食材の持つ味わいだけで十分に美味しく仕上がるからです。


また別の考え方として、里芋や大根などの根菜類の場合、下茹でせずに直接味付けをした出汁で煮る「直炊き」という調理法もあります。

直炊きのメリットは素材の持つ雑味も含めて味わうことができる点です。

特に煮物はお上品なものも良いのですが素朴な美味さというも魅力のひとつですよね。

ひと昔前ならお袋の味の定番といえば肉じゃがなどの煮物だったと思います。

「うちのは甘め」だとか「うちのはしょうゆ味で」といった感じでしたよね。

里いもは直炊きすると滑りもしっかり残るので食感も変わってきます。

イカと煮る定番の煮物なんかはこの滑りを残した方が個人的には美味しい気がします。

下茹でしたものと比べると醤油の色が入るので茶色く垢抜けない感じにはなってしまいますが、それがまたいかにも煮物らしくて美味しそうに見えますよね。


このように里いもひとつとっても料理人ごとに考え方は様々です。

うちの親父なんかは「芋を小綺麗にしたところで良さは伝わらない。素朴なものは素朴な仕上がりにしてあげる方が良いんだ」という考え方なので、いつも直炊きでこっくりと炊きます。

一方僕はご家庭ではなかなかやらない下茹でや料理屋ならではの手間隙にこそ価値があると思っちゃうタイプなので白くあっさりと炊くことが多いのですが、今日は僕も直炊きで里いもを炊いてみました。

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(皮を剥き終えたところ)

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(今日はこれをから揚げにしてからカニあん、ゆずをふってお出ししました。)


下茹でしたものも直炊きもどちらの里いもにもそれぞれの美味さがあります。

どちらが正解、不正解ということもありません。

ただ、これだけは変えてはいけないというのが、相田みつをさんの、「トマトがトマトである限り…」というところだと思います。

食材によっては希少価値も違えば単価も違いますので、当然扱いは変わってきます。

ですが、それぞれにはそれぞれの良さや役割があって、それを適材適所にいかに当てはめることができるかが我々板前の技量であり心です。


「この子はどうしてもらいたいのかな?」

そうやって食材を慈しむ心を忘れずに、お客様に喜んでもらえる料理を作っていきたいと思います。


食材をどう活かすか。

板前の永遠のテーマですね。



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