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フェリーが着くところ

フェリーに乗って川向こうの町に行くのが好きだ。船に乗ると海が見え、海は天気によって景色が全く変わるし、いつもまるではるか外国に旅をしてるような気になる。

大型客船や工業船や漁船などが海へと、オランダや北欧へと、河口から出て行くのとすれ違う。

我が家は河口にあり、河口は橋がかかっていない。車は少し遠くにできた川底のトンネルを通って行く。

川向こうの町は、フェリーが着くところに古い時計塔のある広場がある。


大きな広場の端に、いろんな色の椅子が並べられ、その上にEMMAUSという看板の文字が目に入ったその瞬間、私は遠い日本のエマウスに思いを馳せた。

私は日本で学生の時にポスターを見て、フランス発祥のホームレス支援団体であるエマウスのボランティア活動に何度か参加したことがあった。

「あのーEMMAUSと看板にあるのはもしかしてフランスの…」と聞いた。

黒い髪の小柄な男性が優しそうな笑顔で答えた。

「エマウスは、アベピエールが創設したんだ」

「え!じゃやっぱり。私学生時代からEMMAUSに関わってた」

でもイギリスEMMAUSがあるなんて聞いたことなかった。

ここで働いている人はボランティアではなくエマウスの家に住んでここで働いて生活している人だそう。


気に入った鏡の配送料を確認したところ、チュネルがーって言って、しばらくして、あ、チュネル=トンネルで、車がトンネルを通るので高いってことか、とわかる。

送料がそんなに高くては買えないと言ったら、店にいたコワモテの同僚を指差して、
「彼の生活費になるから送料は負けられないけど、君、鏡持ってタクシー使えばいいんじゃないの」って言われた。



「イギリスに来て間もないのでタクシーっていくらぐらいするのかわかりません」
「僕もタクシー使わないからいくらかわかんないなぁ。なんで君はイギリスに来たの」
「夫がイギリス人なの、あなたはどこの人ですか」
「僕はルーマニア人だよ」
「あなたこそ、なんでイギリスにいるんですか。もし聞いてよければ?」
「ルーマニアは生活費が高くて給料が安く、暮らしていけなかったんだ。でイギリスに来て働いたけど失業して、しばらくホームレスだった時にエマウスのことを聞いて、コンパニオンって呼ぶ他のエマウスのメンバーと住み始めて、今6年間め」


その日は他にも行くところがあったので、翌日鏡を取りに行くことにしたが、翌日は雨で風も強く、ちょっとした嵐みたいだった。

小さなフェリーで、雨風で行けないかもしれないと以前聞いたことがある。

エマウスに電話すると留守番電話で、2、3日中に取りに行くと伝言を残した。

天気予報を見ると1週間以上雨だ。

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