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全国へ広がる魅力化 チームから「文化」へ

本取材は2020年12月に発行した「2017-2020活動報告書」からのインタビューのWEB版です。活動報告書についてはこちらから
島根県海士町から始まった「魅力化」が、全国へと広がっている。「スケールアウト」を目指してきた地域・教育魅力化プラットフォーム(魅力化PF)の3年間の取り組みを、海士町の隠岐國学習センター長、豊田庄吾さんはどう見ているのだろうか。

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学び合う場(=プラットフォーム)の存在 大きかった


 「魅力化」は、それぞれの現場で教育を磨く取り組みです。島前で始まった「魅力化」が、島根県、全国へと広がっているということは、「教育を磨こう」という思いを持った人が各地に増えているということ。短期間でここまで広がるには、魅力化PFの存在が欠かせなかったと思います。
 まず、都道府県の枠を越えた高校へ通う「地域みらい留学」の参加校が全国68校にまで増えました。魅力化に取り組む学校が集まる場にもなっているし、何よりも、子どもたちにとって新しい選択肢ができました。偏差値のより高い進学校ではなく、「地域で学ぶ高校」が選べるようになった。それぞれの学校で取り組むだけでは、これだけの広がりは難しかったと思います。
もう一つは、「学びのあり方を考えたい」という人たちのプラットフォームとして機能したということです。以前は、「魅力化をやりたい」という人が島前へ視察に来て、(岩本)悠くんや私に「うちの地域に来てください」という感じでした。もちろん全ての依頼に応えることはできず、広がりの限界を感じていました。それが今は、そういう人たちに対して「仲間に入りませんか?」と呼び掛けることができるようになった。それぞれの現場のあり方を考えたり、悩みや課題を共有できたりする、「共学共創の場」ができた価値は大きいです。

 魅力化に取り組んでいくと、明らかに教育がよくなります。子どもたちが生き生きとしてくるんです。地域でいろいろな活動をして、さまざまな人と関わる中で、すごくいい表情で自分の思いを語る。そういう場面に全国各地で出会うようになりました。課題発見解決型学習「マイプロジェクトアワード」に、先行して取り組んでいたことも追い風になりました。


つながりが全国へと広がっていく中で、これからの魅力化を担うであろう人が島前、島根県の外にも生まれ始めています。津和野や大崎上島のように、しっかりと地域でチームになっている事例も生まれている。本当に大きな変化だと思います。

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“やり方”ではなく“あり方” 伝えたい

もちろん、難しさも感じています。人の行動や大事にしていること、学校の文化が変わることは簡単ではありません。島前には今もいろんな地域が視察に来ますが、行政と学校の両方が熱い事例はほぼありません。役場がやる気だけど校長はやる気がないとか、学校は熱いのに行政が冷めているとか。みんな、どうすればもう一方を説得できるのかで悩んでいます。
魅力化が機能するために最も重要なことは、「魅力化の本質」をその地域の多くの人が理解しているのかということだと思っています。「公営塾や寮をつくって、コーディネーターを入れ、PBL(課題解決型学習)をやってAO入試で成果を出したら生徒が集まる」というやり方だけ模倣しても、結果が出ないこともあります。

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人は「答え」を急ぎがちですが、「こうすればうまくいく」という唯一解はありません。そうではなくて、魅力化の本質とは、自分たちの「あり方」にあると思っています。「答えを知っている」ではなくて、「自分たちの答えを見つけようとしている」ことが重要です。自分の地域や学校にとって、良い教育とは何かということを、いろんな関係者が膝を突き合わせて対話して、実践して、探究し続けるということです。“how to do(やり方)”ではなく、“how to be(あり方)”。この本質をもっと伝えていきたいです。
大人たちのあり方は、子どもたちへの教育にも影響します。2019年に三菱UFJリサーチ&コンサルタントが発表した調査で分かったことは、「地域の学習環境の質を高めるには、高校、地域社会において生徒に接する大人のあり方が重要である」ということ。ここで言われていることは、子どもに主体的・協働的・対話的に学んでほしいのなら、まずは大人がそうやって学ばないといけないということです。子どもにチャレンジをしてほしいなら、まず大人はチャレンジしなければいけません。地域にいる大人の姿が、学びの土壌をつくります。

魅力化を「文化」に

——次の課題は何ですか?
魅力化が広がり、日本の教育を変えるまでになるには、一部の「変態」が変えるだけではなく、変化が自然に生まれる「生態系」を構築していくことが必要だという思いで取り組んできました。この数年間を振り返ってみると、全国の地域で魅力化に取り組むチームが生まれつつある。一定の成果があったと言えると思います。
でも、「十分」ではありません。例えば、校長を含め、先生たちは数年で異動してしまいます。行政の担当者も首長も、ずっと同じ人がいる保障はありません。今、核となる人がいなくなったら、たちまち機能しなくなってしまう地域が多いのではないでしょうか。
必要なことは、魅力化を「文化」にしていくことです。その地域の文化になれば、人が替わっても続いていきます。例えば、島前の場合はもう、自分がいなくなってもちゃんと回っていくでしょう。それぐらい、文化として根付いていると思います 。

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——文化にするために必要なことは?
一つは、教員研修の中に魅力化を盛り込み、教員の理解を県レベルで上げていくこと。隠岐島前高校では先生が2、3年で変わってしまうので、せっかくいい感じになっても、すぐにいなくなってしまいます。新しい先生には、また一から理解してもらうことから始めなければいけません。でも、県レベルで理解が広がっていくと、人の異動があっても大きな方向性は変わらなくなります。特に、管理職の理解は重要ですね。
もう一つは、地域の側でできることです。例えば、学習センターには卒業生が時々寄ってくれるのですが、学校に行っても「知っている先生」がいないから、学習センターに来ているそうです。その地域で育った高校生にとって、「戻ってこれる場所」は重要ですよね。そう考えると、地域が若者とのつながりを保ち続けるには、その地域に住み続けている人の存在が肝になってくると思います。
その地域の人が魅力的であることも必要なのですが、自分の出身地(福岡県大牟田市)のことを考えても、田舎の人って、地域への肯定感が低いんですよね。何やってもダメだとすぐに諦めてしまう。言い訳をするのが上手くて、誰かが頑張ろうとすると足を引っ張ったりもする。あちこちにある分断がコミュニティの力を弱め、地域の価値が失われている。若者が外に出て行ってしまうのは、その結果だと思います。だから、「帰りたい」と思える地域にするために、この分断をなくし、人と人をつないでいくことやりたいと考えています。

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島前でつながりの核になるのが卒業生です。3年間、この島で学んだ彼らの存在は非常に大きい。彼らとのつながりをつくるために、2019年から卒業生限定の「大人の実践ゼミ」を始めています。大人になった彼らのそれぞれの学びを、みんなで支える場です。今までは、目の前の生徒や地域でやることに集中して力を割けませんでしたが、卒業生の何人かが地域に帰ってきたことで仕組みづくりを始めることができました。
ゼミでは、各地に散らばった8世代の卒業生が、それぞれにやっていることをオンラインで発表して、話し合っています。多くの人が「相談できる人がいなくてつらい」とか嘆いてますね。この間は20分間、ただずっと泣いている人もいました。それを、みんなでじっと黙って見守っていました。すごく豊かな時間だと思いました。安心安全な場があると、自分をさらけ出せるし、「俺は応援しているよ」とか「一緒にやってみたい」とかを自然と言い出す仲間も出てくる。
こういう文化が地域に根付いていくといいですね。小さなものも含めて、挑戦する人がいて、周りに応援する人もいる。とにかく大人が輝いて、地域の担い手になっていって、この地域で暮らしていて幸せだということが、地域の未来につながっていくと思っています。

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隠岐國学習センター センター長 豊田 庄吾
福岡県大牟田市出身。情報出版会社、人材育成会社を経て、2009年に海士町に移住。廃校の危機に直面していた島根県立隠岐島前高校の魅力化プロジェクトに参画し、高校地域連携型公立塾「隠岐國学習センター」を立ち上げる。高校と協働し、新しい学力観に基づく探究的な学びづくりに取り組みながら、人口減少時代の未来を切り拓く「意志ある担い手」を輩出する「現代版松下村塾」を創るべく挑戦中。

2020.12(取材・写真/笹島康仁)

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「自分たちの未来は変えられると信じ、自ら挑戦できる意志ある若者に溢れる地域・日本づくり」を目指しています。そのビジョンに向けて、都道府県の枠を越えて、地域の学校に入学する「地域みらい留学事業」や、県単位での人づくり・人の流れづくりのモデルを創る「しまね事業」を推進しています。