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from insanity. ♯2000字ホラー

※グロくて不快です。苦手な方は読まないことをおすすめします。

【本編】

私には、記憶がありません。

私は今、見知らぬ部屋で、木製の、背もたれの付いた椅子に座っています。

私は何故、此処にいるのでしょうか。

何かを思い出そうとすると、脳の奥の方がキリキリと痛んで、何も思い出せないのです。

私は此処で、座ったまま眠っていました。目が覚めると、そこは見知らぬ部屋でした。そして私は、自分の名前も、氏素性も、自分が何処から来て、何故此処にいるのかも、全てを忘れてしまっていたのです。あぁ、私は何者なのでしょう。

悪い夢でも見ていたようで、体に力が入らない。何故だか心身が、すっかり疲れきっているようだ。 

あぁ、このまま眠ってしまいたい。

そう思って、また目を瞑っていたら、ぼんやりと、少しずつ頭の中に、夢で見た情景が浮かび上がって来ました。

夢の中の私は、何処かの家の玄関にいるようです。

足元には、黒猫が寝ています。しかし、4本の足と尻尾は切断されてしまっていて、よく見れば首もありません。バラバラにされてしまい、周囲には、大量の血が飛び散っています。あぁ、なんと可哀想なことをするのでしょう。

夢の中の風景が変わりました。今度はキッチンでしょうか。

服を引き裂かれた女性が、仰向けに倒れています。抵抗したのでしょう、食器が散らかっています。女性は中年のようです。脂肪が少々付き過ぎていて、あまり美しいとは言えません。両の乳房が切り取られ、臍から女性器に掛けて、マグロでも解体するかのように、包丁で真っ二つに捌かれているのです。臓物は全て、だらしなく滑り落ちてしまっています。あぁ、無惨だ。なんと穢らわしい。

また風景が変わり、窮屈なバスルームに移動したようです。

浴槽の水は真っ赤に染まっていて、中にはスーツを着た男性が沈んでいます。先程の女性のご主人様でしょう。首は綺麗に切り離されて、ぷかぷかと浮いています。髭は頬の辺りまで生えていて、まるで清潔感が感じられません。身だしなみがなっていません。右の眼球にはアイスピックが突き刺さり、左の眼球と陰茎もまた、お風呂遊びの玩具のように愉しげに、真っ赤な水面をゆらゆらと漂っています。黄色いアヒルの人形のように、ぷかぷか、ゆらゆら。まるで夏祭りの屋台のようで、とても愉しげです。

階段を上り、2階に向かう。お次はどうやら女の子の部屋のようです。

彼女は高校生でしょうか。目隠しをされ、制服は乱れ、下着を剥ぎ取られた状態で寝転んでいます。先程までの御遺体達と違い、乱雑に扱われてはいません。ハリの有る、若々しく美しい乳房や、色素の薄い小さな乳首。白くて肉付きの良い、舐め回したくなるような太腿も綺麗なままです。あぁ、素晴らしい。

けれども、とてもとても悲しいことですが、魅力的であるが為に、逝く前なのか後なのか、何者かに犯されてしまったのでしょう。男の体液が下腹部を汚しています。律儀な事に、体内で射精することは避けたのですね。生命の種である、白くドロッとした液体が、少女の陰毛に絡みついて、流れることなく留まっている。なんと美々しい光景だろうか。まるで美しい絵画のようだ。

あぁっ、目が覚めてしまった。

素晴らしい夢でした。

覚醒した私の陰茎が、夢に興奮をして、天に向かって、神々を冒涜するように、硬く硬く勃起している。羞恥心に苛まれ、誇らしさに震え、私の瞳からは、喜びの涙が流れています。私は、私は生きているのです。

私は何故、此処にいるのでしょうか?

私は何故、何も着ていないのでしょうか?

私は何故、体中血だらけなのでしょうか?

部屋の中には、血だらけのナイフやナタが、切り取られた乳房や臓物が、私を睨むような眼で見る黒猫の首が、乱雑に散らかっている。

あぁ、よく見渡せば、ここは先程の少女の部屋ではないですか。あの、美しい少女の。

彼女は一体何処に行ったのでしょう?

うっ…

「なんなの…」

あぁ、君は、先程の少女じゃないですか。

憎悪、憤怒、哀傷、絶望、幾つもの感情が、整理されること無く混ざり合い、混沌の眼差しで、私を見つめています。

なんと美しい表情なのでしょう。

全てを失った君の、私の胸にナイフを突き刺して、心までもを喪失した君のその表情は、この世界の何よりも美しいのです。

ほら、私はオーガズムに達し、猛々しく射精しましたよ。あぁ、ドクンドクンと、胸の傷口からは赤黒い血液が流れ、陰茎からは白濁した精液が流れている。

そうです、私は今、生きているのです。

そして、私は今、人生を終えるのです。

これほど素晴らしい人生の終わり方が、他にあるでしょうか。

私には、記憶がありません。

過去の事は、何も覚えていないのです。

最期に、この記憶だけを残して、私は人生を終えるのです。

あぁ、私は幸せだ。

とても幸せだ。

君は、どうだい?

end.

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