ココロノマスク

世界が未知のウイルスに侵され始めてから、かれこれ２年が経過する。

「予防です」と言って年がら年中マスクをしていたあの娘はもちろん、「あたしゃ風邪引いたことないからマスクなんかしないよ」と言っていたあの人も、今では当たり前のようにマスクをしている。

「仕事中はマスク禁止！」だった飲食店のルールも「仕事中はマスク必須！」に塗り替えられてしまった。

マスクをした顔で「はじめまして」と挨拶をして、マスクをした顔で「お疲れ様でした」と別れ、終ぞ素顔を知らないままな一期一会も、世界中で生まれていることだろう。

口元が隠れていても、目元や声色で表情は伝わるかも知れないけれど、世の中には演技が上手な人もたくさんいるからな。目や声は親しみやすさを装って、口は全然笑っていないかも知れない。心のマスクははずしてくれてないかも知れない。そんなことを、考えてしまう。

「予防です」と言ったあの娘も、きっと心にマスクをしていたのだ。
僕にだけだろうか。だとしたら、ちょっと悲しいね。

ウイルスが収まって、みんながマスクをはずす時、あの娘は心のマスクもはずせると良いな。そして、マスクの下が、とびきりの笑顔だったらなお良いな。そうだとしたら、きっと嬉しいよね。