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この夏が終わる前に、あずきバーについて語らせてくれ

あずきバーのない夏を想像してみてほしい。いや、誰も想像することはできまい。

あずきバーのない夏なんて、桜が咲かない春、同然だ。紅葉狩りのない秋。クリスマスのない冬。黒板のない教室。覇気のないライオン。雲ひとつないくもり(?)。オリーブオイルのないもこみち。

本日は私がどのようなマインドであずきバーを購入しているのか、またあずきバーの正体について深く語りたい。

第一に、この代物は日本全国で手に入れることができる優れモノだ。私はいつも近所のドラッグストアで購入する。アイスクリームコーナーの一番端に佇むあずきバー。冷たい空気を左手に感じ、さらに冷たいあずきバー本体を手に、レジへ向かう。

ドラッグストアであずきバーしか買わないのかよと、レジの店員さんに思われたと察するが、ここは堂々と胸を張ろう。なんせこのあずきバーは粋な代物である。

この代物の特徴といえば紫。あずきバーは紫ではなく「赤褐色の小豆色だろ」と思う方もいるかもしれないが、赤茶色と赤紫の中間色だから大きな括りでいったら紫だ。この色は、華やかな色彩を身にまとったアイスクリームと比較すれば、それはそれは地味である。しかし、私に言わせればあずきバー以外のアイスクリームは華美なのだ。目がチカチカしてしまう。

あずきバーといえば、全くそんなことはない。紫色を纏うとは、なんとも粋な代物である。「いき」を定義した九鬼周造も「紫を『いき』な色」とした。つまりこのあずきバーはアイス界の中で最も粋な代物なのだ。粋な理由は色だけではない。

「いき」な味とは、味覚のほかに嗅覚や触覚も共に働いて有機体に強い刺激を与えるもの、しかも、あっさりとした淡白なものである。
九鬼周造『いきの構造』

あずきバーは味覚のほかに、小豆のつぶつぶとした食感、アイスのシャリシャリとした食感が複雑に絡み合っている。小豆の香りが鼻を抜け、甘すぎない味わいが淡白といっていいだろう。やはり、あずきバーはアイス界における「いき」の体現者である。

熱帯夜で溶けてしまうから、早足で家へ帰ろう。それがアイスを買ったときの宿命たるものだ。しかし、あずきバーはそんなセオリーが通用しない。6個のうち5個を冷凍庫へ、1個は早速開封してかぶりついた……

カタイ

カチカチである。なかやまきんに君の胸筋(パワー)。「高校入試の面接は頭を丸めれば受かる」と言った保守的な父の脳味噌くらい硬い。

気になってあずきバーの硬さについて調べてみた。
あずきバーを販売している(天下の)井村屋公式ホームページには、

「歯を痛めないようにご注意ください。」

と記載されており、さらに調べると、あずきバーの硬さは尋常でないことが分かった。

サファイアは鉱物の中ではダイヤモンドに次ぐ硬さといわれているが、その硬さは「HRC 227(※)」相当とされている。 一方であずきバーの硬さは、瞬間的ではあるものの「HRC 320」以上に達する。
管理栄養士 中山沙折
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つまり、あずきバーは瞬間的にサファイアよりも硬い。当時、「ポケットモンスターサファイア」をプレーしていた今は大人の諸君、無念だ。伝説のポケモンも所詮はあずきバー以下という残酷な結果が待っていた(ちなみに僕は「ルビー」派でした)。

ポケモンの話は置いといて、なぜあずきバーがここまで硬いかといえば、一言で表すなら「原材料」のせいである。いや、「おかげ」だ。

あずきバーには食品添加物が含まれていない。あずきバーに含まれているのは、「小豆・砂糖・コーンスターチ・塩・水あめ」の5種類のみ。「卵、乳、小麦、えび、かに、落花生、そば」といったアレルギーは当然含まれない、多様性を加味した代物だ。もちろん、あずきバーには生産者の「愛」やこの究極に暑い夏を乗り越えるための、我々の「希望」も含まれていることだろう。

それにしてもこのシンプル、端的な原料。無印良品が歯を食いしばって悔しがっている様が目に浮かぶ。というか、無印良品のロゴの背景色、つまり「赤褐色というか小豆色」はこのあずきバーが所以なのではないか……と、適当なことを言うと、パリ在住のひろゆきからデータを突っ込まれそうなのでここまでにしておこう。

話が脇道にだいぶ逸れてしまったが、あずきバーがこの原材料にこだわった結果、空気の泡が少なくなってカチカチに硬くなってしまったと言われている。

そこまでして、原料へこだわりがあるなんて。九鬼周造の言葉を借りれば、「意気地」がある。この張りもまた、「いき」の要素の一つである。

「今日、すこぶる暑いからアイスでも食べよっか」
と、女の子に言われてコンビニへ向かったらドヤ顔であずきバーを買おう。女の子が「すこぶる」なんて表現を使うか使わないかの議論はさておき。

「あらまあ、あずきバーを選択するとは、なんて粋な男なのかしら」
となること間違いなしだ。


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