原稿用紙

林の影で鎖された旧道の
凍てついた水の溜まりに

どさりと手を重ねて
上着のポケットからくしゃくしゃの
名のない原稿用紙を出して置き

甘くふやけて溶けていく
格子を言葉を

そっとすくって
こくりと飲んだ

ひざのお皿に載った痛みも
遠くのほうから呼ぶ声も
迫ってくるぽかぽかとした熱の束も

すべて無視してのどを鳴らして

薄くて厚い氷ごと
原稿用紙に覆いかぶさる

顔を上げればハトが鳴き
遠くで木漏れ日がちらちら積もって
空では竹がからから響き
乾いた空気のにおいは緑

多くを吸ったふやけを抱き
背を丸めれば
ポケットのなかの短い鉛筆が
肌にふかぁくまぁるく刺さり

頭を振って鼻をすすって
手を入れ細さと短さに
固まった指をじんじんと絡ませれば

冬ざれの一切は
震えた黒い
小さな小さな文字となり

ぎゅっと目を
目を抱かれた

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