失せる
忘れられていくこと。見えなくなっていくこと。存在が極小へと近づいていくこと。かざした腕が透け、かすかな縁だけがおぼろげに残ったとき。この身はこの身となって、空を川を駆けるだろう。土は土となり、草花は草花となって、そこにあるだろう。鳥は鳥へと変わっていき、虫の羽音は虫の羽音へと変わっていく。雨は雨になって、雲は雲になって、星は星に、月は月に、日影は日影になって、移ろうだろう。この身はこの身となって、肌で一切を見るだろう。嗅いで、聴くだろう。すべてをただ、抱くだろう。
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