世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
Toward a Citizen-Oriented Resilient Smart City - 市民中心のレジリエントなスマートシティに向けて -
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Toward a Citizen-Oriented Resilient Smart City - 市民中心のレジリエントなスマートシティに向けて -

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター

東日本大震災発生から10年が経ちました。しかし洪水や台風、地震など災害は依然として頻発し、近年は大規模化も懸念されています。直近では災害対策とCOVID-19対策との両立が頭の痛い課題となっています。
他方多くの日本の自治体が現在スマートシティを推進しています。スマートシティと聞くとテクノロジーに注目が集まりますが、スマートシティの目的を「社会課題を解決し住民の幸せにつなげる」とする場合、テクノロジーを手段として災害や感染症からどのように住民を守り「レジリエントな」都市を作っていくべきか、まさに今議論が必要な時ではないでしょうか。

グローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット(GTGS)開催記念セッション「Toward a Citizen-Oriented Resilient Smart City - 市民中心のレジリエントなスマートシティに向けて -」では、災害大国日本で「市民中心のレジリエントなスマートシティ」をどのように実現していくべきか、防災における自治体の取り組みや最新の調査結果などを交えて産官学のエキスパートが議論を行いました。

セッション動画を本記事の最後で公開しています!

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登壇者(敬称略)

浜松市長 鈴木 康友
国際大学 グローバル・コミュニケーション・センター 准教授 櫻井 美穂子 
SOMPOホールディングス デジタル戦略部 特命部長 木村 達雄
セールスフォース・ドットコム 常務執行役員 今井 早苗(モデレーター)

「国土縮図型都市」浜松市、二つの大災害を経験した熊本市での取り組み

市域面積全国2位、総延長8,500キロにも及ぶ道路や6,000を超える橋をインフラとして抱え、さらに市域の半分が過疎地域とされる浜松市。「国土縮図型都市」と言われる同市における、レジリエントなデジタルスマートシティに向けた現在の取り組み(※1)について、鈴木市長が語りました。

「 私は国土縮図型の政令指定都市、と言われる浜松が持続可能な都市経営ができれば日本全体のモデルになれると思い都市経営に取り組んでいます。
一昨年に「デジタルファースト宣言」を行い、デジタルの力を最大限に活用して持続可能な都市づくりを推進するための戦略分野を定めました。
民間との推進体制としては「デジタルスマートシティ官民連携プラットフォーム」を設立、この体制をもとに実証実験プロジェクト「ORI-Project」を立ち上げ全国から提案を頂きました。防災分野では避難所の管理アプリ、水位計や冠水センサーを用いた冠水予測などを採択、こうした技術を生かして今後防災対策を進めていきたいと考えています」

「加えて緊急性と言う点からコロナ対策にもデジタルを活用しようと、コロナ発生時に関係者へ通報が行く見守りシステムや混雑状況を見える化する仕組み、コロナ禍の中でも地域のビジネスチャンスを獲得するためのデリバリーシステムも官民連携で作りました」

「まずコロナ、中長期的には中山間地域の課題解決に向けたデジタルの有効活用を重点項目と考え現在取り組んでいます」

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熊本市では5年前に熊本地震、昨年は大洪水とわずか5年で複数の大きな災害を経験しました。木村氏は、最近のSOMPOホールディングスにおけるデータ活用推進の背景とともに、同社が熊本市と進めている防災・減災の取り組み(※2)を語りました。

「保険会社は事故や災害時に保険金を支払う役割の中で、どこで事故が多いのか、どこで災害が起きたらどういう状況になったのか膨大な情報の蓄積があります。こうしたデータは災害だけではなく高齢者対策や福祉対策などにも使えると考え、近年デジタルを積極的に導入しデータを活用しようと動いています」

「今回私どもは熊本市とOne Concern社、ウェザーニューズ社と連携をして、新しい防災モデルを作る実証実験を行っています。洪水の場合は事前に気象や河川の情報をデータベースでまとめて、今後どういうところで洪水が起きるのか事前に把握できるシミュレーションモデル、地震の場合は地震が起きた後に被害状況や被害場所が特定できるモデルを開発、実証しています。このモデルができれば、自治体が持っている避難勧告や避難の仕組みと合わせて、避難時に支援が必要な方に対して自治体を通じた適切な指示や支援ができると考えています」

デジタルデバイドは高齢者だけの課題なのか

浜松市や熊本市での取り組みが示す通り、防災を含む自治体のデジタル化が進む一方で常に課題として取り上げられるのが「高齢者のデジタルデバイド」です。今井氏は、IT企業としてのこれまでの提案経験よりデジタルデバイドは高齢者に特化した課題なのか、疑問を投げかけました。

櫻井氏は、先日実施したデジタルガバメントに対する住民ニーズ調査研究(※3)の中で得た、デジタルデバイドに関する興味深い結果を示しました。

「私達も調査前は、高齢者の方がついていけていないという回答がやはり多いのではないかと予測していましたが、蓋を開けてみると年代別の違いがほぼ出てこなかったんです。高齢者であるからデジタルデバイドの対象者である、は私達のステレオタイプであったと感じました。
逆に女性の子育て世代の方がもしかしたらついていけていないと回答している可能性がわかり、詳しい分析が必要であると思っています」

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鈴木市長も同じくデジタルデバイド = 高齢者ではないとし、浜松市での施策を通じて得たデジタルデバイド解消への「工夫」について触れました。

「浜松市ではコロナ対策として、感染対策を施した飲食店の飲食代を抽選で無料にするキャッシュバックキャンペーンを実施したところ、それをきっかけに意外にも高齢者がスマホを持ち始めたんです。別のポイントバックキャンペーンの時も高齢者を含めてスマホの普及率が一気に進み、お店のキャッシュレス導入率も進みました。インセンティブがあればデジタルデバイドは解消できると思います」

「最良の手段」としてのデジタル活用の可能性

レジリエントなスマートシティに向けたデジタル活用の可能性については、各登壇者から大きな期待が寄せられました。

鈴木市長は、働き方におけるオフィス勤務とリモート勤務、飲食における店内飲食とデリバリーやテイクアウトなどコロナ禍によりあらゆる分野での「デュアルモード」が広がっている中で、このモードを支えるのがまさにデジタルの力である、と社会全般へのデジタル活用の可能性を示しました。

自治体による災害対応という点では、櫻井氏はこれまでにない新しいアプローチが必要であり、実現にはデジタル活用が重要との見解を示しました。

「 同じ地域で隣り合う家庭であっても、高齢者と一緒に住んでいて避難に時間がかかる家庭とそうではない家庭があるにも関わらず、このエリアの人は避難してくださいという画一的な情報発信でいいのか、と自治体も感じ始めています。
今後は何を必要としているのか、避難行動にどの程度時間がかかるのか、といった各家庭や個人が抱える状況、「文脈(コンテキスト)」を把握して住民一人一人のニーズに寄り添ったサービスや情報提供、災害対応が必要ではないかと考えています。学術的にはこれを「文脈化(コンテキストライゼーション)」、別の言葉で「パーソナライズ」と言います。
この文脈化を可能にするのはデジタル活用です。自治体が持っているデータを使って、家庭構成や何に困っているかなどを事前に把握し活用することで災害対応に繋げていける大きな可能性があると思います」

木村氏も、熊本市での経験をもとに防災領域でのデジタル活用の可能性に期待を寄せました。

「自治体による避難や防災対策といった災害時におけるリアルサービスという点では日本は最高だろうと個人的には思います。さらに色々なデジタルを活用する、例えば国が持つ河川情報、県や自治体が持つ情報を組み合わせることで新しいモデル、災害の予防に繋げられると考えています」

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レジリエントなスマートシティに求められる官民連携そして自治体の役割とは

自治体によるスマートシティ推進の重要な論点として、官民連携および自治体の役割も挙げられます。今井氏は「自助・公助・共助」の枠組みの中で今後も災害対策は公助に頼るモデルであるべきか、それとも民間がより役割を果たすべきなのか、望ましい官民連携および自治体の在り方について問題提起を行いました。

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木村氏は現在の自治体の役割を考えると、災害対策は自治体との連携がより重要であるとしました。

「災害の場合、最初に皆さんがどこを頼るかというと当然自治体なんです。自治体が色々な情報をもとに避難指示を出す、それを踏まえると我々が今考えているサービスやテクノロジーも我々単独で提供するより、自治体を通じて提供することでさらに効果的、効率的な避難に繋がると考えています。災害対策も我々単独というよりやはり自治体と連携して進めたいと思います」

櫻井氏は自治体か民間かというよりは「共に創る」、共創の時代に入っているとした上で、今後自治体には「ハブ」の役割が求められると語りました。

「世界中の自治体が現在こうしたスローガンを掲げて、持続可能なまち作りを達成しようと頑張っています。今後は自治体と企業、私達みたいな研究者、NPOやNGO、市民といった様々なステークホルダーがまち作りの主体となっていくため、共創ができないとデジタルの活用、一人一人の状況に寄り添った形でのデータ活用も実行できないと思います」

「共創をオーケストラに例えると自治体は指揮者にならなくてはいけない、こういうまちを作りたいというビジョンをまず掲げて市民やステークホルダーと共有する、一緒に歩んでいく姿勢が重要になります。
そのため自治体には色々な主体の人たちとの「コミュニケーション力」、住民がどういう暮らしをしたい、どこを助けてほしいのかという「ニーズを把握する力」「色々な人の色々な意見を一つにまとめる力」といった今まで求められていなかった能力が必要になると思います。議論や意見を行動に移す「解決策に変えていく能力」も求められる気がします。
チャレンジングではありますが、今世界中の自治体が取り組んでいるので日本も頑張っていく必要があります」

鈴木市長は自身の経験をもとに、首長そして行政自身がクリエイティブに発想し、率先して取り組みを実践するスタンスが求められると強調しました。

「今回過疎地域向けに移動診療車を作り、看護師を乗せタブレットを積んで患者のお宅まで行き、医師とオンラインで診療と服薬指導を行い、薬はドローンで自宅まで届ける実証実験をやりました。こうした取り組みの時は我々は事業を組み立て、地域と折衝し、民間の技術を使わなくてはいけません。行政も経営者でありプロデューサーでなくてはうまくいかない、そういう感覚を持つ首長は色々なチャレンジをしています。首長の意識や行動が伝わることで職員も変わってきて、最近は色々な事業提案をあげてくれます」

実は重要な「コミュニティ」、「自治体との距離感」

セッションでは「非デジタルの要素」がスマートシティに果たす役割に関する興味深い議論も行われました。鈴木市長は先述の共創に関連して、デジタルなまちづくりでは「住民のコミュニティ組織」が重要なステークホルダーであるとして彼らとの連携の重要性を訴えました。

「浜松の自治会加入率は96%で全国でトップレベルです。自治会組織が強固なので彼らと協働し、応援してもらいながら色々な取り組みを進めています。あまり自治会に頼ると仕事をどんどん持ってくるなと怒られるのですが(笑)そういったコミュニティ組織を維持していくことが大事で、それがないとデジタルと叫んでもその技術を活用する舞台が作れません
要支援者への支援も、まずは要支援者のきちんとしたデータが大事ですがコミュニティとの信頼関係がないとデータを出してもらえません。技術を活かすにはコミュニティの力が備わっていないといけないと思います」

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櫻井氏は先述の調査研究の中で得た別の結果として「自治体との距離感とデジタル化」について触れました。

地域のイベントやお祭り、町内会や自治会の活動に参加したときに自治体との心理的な近さを感じると答えた住民が多く、彼らはデジタル化のニーズも高いことがわかりました。リアルの環境で信頼関係や繋がりを日頃積み重ねていくことの大切さが、正しい方向性としてデータでも検証されたことが興味深いです」

鈴木市長も祭りはコミュニティ組織の下支えになっている点、祭りをきっかけにオンライン会議やホームページ作成が行われているといったデジタルと祭りとの「相性の良さ」に触れ、櫻井氏に賛同しました。

おわりに

今回のセッションを通じて、市民を中心としたレジリエントなスマートシティに必要な数々の知見やヒントが提示されました。浜松市や熊本市での事例を通じて、目の前にある危機を乗り越えかつ将来起こりうる災害に備えるために、テクノロジーを利用した取り組みを進める自治体の「今」を知ることができました。

デジタル活用の可能性という点では、デュアル社会や災害対策の文脈化、パーソナライズといった今後求められる新たなアプローチに対するデジタルへの大きな期待が示されました。一方でインセンティブや住民のコミュニティ組織、自治体との距離感など様々な「非デジタル要素」が整備されていなければ理想的なデジタル活用は難しい点も明らかになりました。木村氏は「単純にデジタルだけを提供してもスマートシティにならない、そこにコミュニティやリアルのサービスをどのように掛け合わせるかが大切」と述べましたが、まさにこの点を凝縮したコメントと言えます。

まちづくりの進め方という点では、官民連携の強化に加えて様々なステークホルダーとの共創といった新たな枠組みが示されました。また自治体はハブやプロデューサーといった新たな役割が求められるなど、各ステークホルダーにもさらなる変化が求められることがわかりました。

最後に、櫻井氏が語った先述の調査研究結果の一つに触れたいと思います。それは「「どのような暮らしを望んでいるか」という問いに対して最も多かった回答の一つが「安心安全に暮らせる」であり、この回答をした方はデジタル化に対してもプラスに影響することがわかった」というものです。

私たち住民の願いはあくまでもシンプルで今も昔も変わらない普遍的なものであり、その「当たり前の理想の暮らし」を叶える手段の一つとして日々進化するテクノロジーが存在する、と言えるのではないでしょうか。

本セッションをきっかけとして、ある意味原点とも言うべき「住民の安心安全を守り、住民の幸せにつなげるスマートシティ」に向けてさらなる議論が進むことを期待します。

本セッションの動画はこちらからご覧ください。

関連リンク

(※1)デジタル・スマートシティの推進 / 浜松市

(※2)AI を活用した防災・減災システムの開発・提供

(※3)デジタルガバメントに関する住民ニーズ調査研究

執筆
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
スマートシティプロジェクトフェロー 
増田 拓也
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