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GSCA Japan Summit 「広島県庄原市における『包括的データ活用』によるモビリティ・地域活性化の試み」セッション開催レポート

2022年4月12日、G20 Global Smart Cities Alliance(GSCA)Japan Summit 2022 が開催されました。全国の加盟自治体をはじめ産官学の参加者とともに、スマートシティの実装・実践についてさまざまな領域の議論が行われました。

本投稿では、モビリティに関するセッションについてご紹介します。地域に蓄積されるデータの可能性を活かし、事業者や住民の方々の課題解決に役立てるために、どのようなアプローチが可能なのでしょうか。

写真右から、日高洋祐氏(株式会社MaaS Tech Japan)、神田佑亮教授(呉工業高等専門学校)、石田東生名誉教授(筑波大学)、宮代陽之氏(株式会社国際経済研究所)

登壇者(敬語略、五十音順)

筑波大学 名誉教授/一般財団法人日本みち研究所理事長 石田東生
呉工業高等専門学校 教授 神田佑亮
株式会社MaaS Tech Japan 代表取締役CEO 日高洋祐
株式会社国際経済研究所 非常勤フェロー 宮代陽之(モデレーター)


包括的データ活用による地域活性化プロジェクトの紹介

まず、モデレーターの宮代氏より、広島県庄原市で取り組んでいるモビリティ・地域活性化プロジェクトの概要をご紹介いただきました。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターのモビリティチームは、過疎化に直面している広島県庄原市において、移動データと消費データを掛け合わせたデータ解析を通じて、モビリティの改善ならびに地域の活性化に取り組む実証実験を行っています。その実証から見えてきた知見をもとに、異領域データの結びつけや、地域に裨益するデータの活用について、その可能性と課題を議論してきました。

「地域の決済カードを通じた消費データと、公共交通・自家用車の移動データを重ね合わせ、住民の方々の移動に関わる課題を抽出しています。課題にもとづいてアクションを実施し、事後評価を行うことで、PDCAサイクルをアジャイルに回していく取り組みです。さらに、データの提供元である地域の事業者や住民の方々にとって、分かりやすく使いやすいデータ基盤の構築も目指しています。産官学の幅広い関係者を巻き込み、自由な議論を通じてこれらの目的を実現していくため、月に一度研究会を開催しています。

実は、この広島県庄原市「包括的データ活用による移動・地域活性化研究会」に関わるキーパーソンこそ、今回セッションにお招きしたパネリストの皆さまです。そこで、3名それぞれから自己紹介も兼ねて、研究会という形式や進め方の意義について、次のようなコメントをいただきました。

「100年先の理想的な移動社会の基盤を構築する」をビジョンに掲げ、スタートアップ企業 MaaS Tech Japan を立ち上げ、MaaS(Mobility as a Service)プラットフォーム事業などを推進する日高氏は、本研究会で、頭ではわかっていても忘れがちな大切なことに気けたと言います。

「デジタルデータの収集・分析では、データに取り込めていない層の把握が難しいものです。しかし、本プロジェクトでは、研究会に参加された様々なステークホルダーの方々の生の声から、デジタルで見えていないことが可視化されました」と日高氏は述べました。「私自身、データを見ているだけではいけないなという気づきを得ました」。

交通政策学の第一人者である石田名誉教授は、未来投資会議「次世代モビリティ・次世代インフラ」産官協議会アドバイザーをはじめとする各種会合の有識者として政策の形成・評価に関与してきた体験も振り返りつつ、近年、交通政策においてデータの重要性がますます高まっていることを指摘されました。

その上で、本プロジェクトがグローバルでも先駆的だと評価しました。「消費データと移動データを掛け合わせた総合的なデータ活用は、世界でもユニークな取組みだと思います」。
加えて、「若い方々が積極的に活躍し、面白いアイデアを出している環境がとても良いという印象をもっています」と、フレッシュな研究会の雰囲気を伝えてくださいました。

モビリティ・マネジメントや交通リスク論を専門とし、広島県の呉高専での研究・教育だけでなく、行政の各種審議会でも活躍する神田教授は、データに関するプライバシーとトラストについて言及し、過疎地だからこそのチャンスがあったと分析します。

「データの利用に付随するプライバシー問題を地域の信頼関係で解決できるという点で、本プロジェクトのような取り組みは、過疎地の方が早く実行できるという感覚があります。特に庄原市では、利用者の多い地域独自の決済、交通カードを地元で管理しているため、主に地元との調整でデータの活用が可能でした」とコメントしました。

消費データと移動データのかけ合わせの意義・有効性

本プロジェクトの特徴的なアプローチである、消費と移動データの掛け合わせがもつ可能性や有効性について、パネリストのご意見をお聞きしました。

神田教授は、コミュニティでの議論への発展可能性に言及され、「交通とひとくくりに言っても、バス、タクシー、車など色々な手段があります。消費データとの掛け合わせから、交通手段関係なく消費全体を捉えることが可能です。ここから、『どのような生活ができる地域をつくっていきたいのか』という議論にも発展させられたことが、一つの大きな成果でした」と述べました。

日高氏は、「データ分析だけでなく、消費と交通事業をつなげたアクションにつなげることも重要」と指摘されました。「例えば今回、隣接市にあるパン屋さんの人気商品を高速バスで届ける貨客混載事業を実施しました。商品を予約できるアプリを導入したり、バスの路線上にある隣町にも運ぶことで、住民の方々にも小売り事業にも喜ばれ、コミュニティ全体を活性化する複合的な事業にやりがいと可能性を感じました」

これを受けて、石田名誉教授からも「交通や宅配事業の多くは経営が苦しく、マネタイズ力が問われる中、貨客混載やその先のサービスの必要性が注目されています。専門性が強まると目的手段を勘違いしがちですが、本プロジェクトでは、住民の方々が何を求めているのかを意識し、Well-beingに直結する消費や外出と、モビリティの橋渡しができていることが素晴らしいですね。日本型Maasの先進性である『他分野との重ね合わせ』を、強く後押しする取り組みだと思います」とコメントがありました。


データ活用によるアクション実施の可能性

データの分析に基づくアクションの可能性と今後の方向性について、パネリストのご意見をお聞きしました。

神田教授からは「昨年度は、データを見ながらアクションのアイデアを出していく形でしたが、今後はニーズをベースにして議論できたらと思います」とのコメントがありました。同時に「とはいえ、資金や人手不足の中、交通事業がどのようなサービスで対応していけるかは、データから見える地域交通の課題にも着目して考えるべきです」とも分析されていました。

日高氏は「雇用と教育の分野は、もっと希望する仕事や学びを得たいという『基礎的以上』のニーズがあります。今後はこのような分野でも、デジタルの力で機会を提供し、まちの力を高めるような検討をしたいです」と意欲を示しました。

石田名誉教授は、別のアングルとして「トラストに加えて、「fun」つまり面白さや嬉しさを、住民の方々にどう提供していくかも重視すべきです」と提示されました。「個人が提供したデータを、個人の生活や娯楽に役立つようカスタマイズするサービスも必要だと思います」と述べました。

宮代氏からも、実際に研究会でも、データに紐づいたアイデアより、ニーズベースのアイデアが多く、アクション検討も盛り上がるとの共有がありました。「ただ、アイデアを刺激するためにデータは必要ですので、両方に着目しながら、データと紐づいてないアイデアをデータにどう可視化していくかが課題だと学びました」と指摘した上で「雇用と教育の分野や、『fun』の要素は、今後の研究会運営で意識すべき点ですね」とまとめました。


ローカルデータを活用していく上でのチャレンジや留意点

続いて、個人情報を含むデータの活用に際し、プライバシー問題など様々な制限の中で、個人の満足度を高めるデータの利用方法についてご意見をお聞きしました。

日高氏は「一方向にデータを集約するよりも、様々な人がデータをみて発想し提言できる形の方が、アイデアの質も上がります」と指摘した上で、体制についても言及し「事業内のコンフリクトを乗り越え、一体化してお互いのデータを見られるような体制づくりを考えていきたいです」と今後の方向性を示唆されました。

石田名誉教授は、今回の取組みのユニークさを分析し「ディベートではなくシミュレーションのもちよりという日本的な話合いからアイデアが出ている現状はとても興味深いです。今ある中での実現性をあまり気にせず、現地からの気づきを言語化し、どう伝えていくかという方向性が良いと思います」と提案しました。

神田教授からは、メンバーシップとトラストのバランスについて「プライバシー問題などに対しデータの規制を過度に固く決めすぎると、外部の仲間が入る余地も含め、多くの可能性を摘んでしまいます。全国レベルで決定するのではなく、地域ごとのトラストとのバランスで少しずつ規制を緩めていくアプローチが有効なのではないでしょうか」とのコメントがありました。


既存の公共交通事業者への働きかけ

セッション終盤、フロアからの質問を受け付けました。既存の公共交通事業者をMaaSにどう巻き込んでいくかに関して特に意識している点について伺いました。

石田名誉教授は「コロナ禍で経営が大変苦しい中、収入源の増加という直接的な魅力をどう提示できるかが重要です。行政と事業者間の連携不足で、効率的な運用ができていないという大きな課題も踏まえ、問題に詳しい地域の事業者との意見交換も有効です」と応答しました。

神田教授からは「本プロジェクトでは、生身のコミュニケーションを基本としています。行政やコンサルタントではなく、各プレイヤーが主になって調整をかけ、フラットな立場で議論してもらうことで、気づきをより感じてもらえます」との回答がありました。


おわりに

地域の方々が地元の課題に対して主体的に取り組む場を、データというプラットフォームを活かして提供する先進的な事例について、経験を交えてご紹介いただきました。移動と消費という異領域データの掛け合わせに加え、地域内での顔の見えるコミュニケーションの重視など 地域に裨益するための気づきも共有されました。今後も知見を積み重ね、よりよい取り組みを国内や世界の様々な地域で実践してもらえるよう、積極的に発信を続けていきます。


執筆:池田智由希(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター インターン)
構成:工藤郁子(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター プロジェクト戦略責任者)


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