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【開催報告】GSCA Japan Summit「各地のモビリティに関する取り組み共有とデータ連携」セッション

2022年9月30日、GSCA Japan Summit Autumn が開催されました。自治体、政府、民間、有識者など130名を超えるメンバーが集い、スマートシティ実装に向けた取り組みの成果や直面する壁についての最新動向を共有しました。

本記事では、モビリティに関するセッションについてご紹介します。
地域課題を解決するモビリティ・プロジェクトには、どのような視点が必要になるのでしょうか。荒尾市河内長野市、および庄原市の取組みを中心に、プロジェクトの円滑な推進に向けた、いくつかの重要なポイントを紹介していきます。

なお、2022年春に開催された「GSCA Japan Summit」のモビリティに関するセッションの様子はこちらからご確認ください。


地域モビリティプロジェクトを成功させるカギは「困りごと」「共助」「インクルージョン」

まず、熊本県荒尾市様より、「おもやいタクシー」の取組みについて紹介がありました。
少子高齢化に直面する荒尾市では、市民の交通利便性の向上を目的として、AIオンデマンド型相乗りタクシー「おもやいタクシー」を運行しています。
「おもやい」とは「一緒に」「シェア」を意味する方言です。他の利用者との相乗りを前提としており、市民同士の「おもやい」による困りごとの解決に取り組んでいます。

おもやいタクシー(脚注1)


続いて、大阪府河内長野市様より、「クルクル」の取組みについて紹介がありました。
河内長野市では、「開発団地での高齢化が進む中で、どのように移動支援すべきか」という課題感の下、グリーン・スロー・モビリティ「クルクル」を運行しています。「クルクル」では、運転や予約受付などを地域住民自らがボランティアで行っており、移動が困難な方の足として地域の困りごとを解決しています。
これらの事例紹介を受け、参加者からは「共助」というキーワードが挙げられました。また、「共助」をもとに取組みを進めることで、今後の人口減少社会においても交通サービスの維持が可能になるという指摘もありました。

この観点は、今後のモビリティを考えるときのポイントとして重要であるインクルージョンの概念に繋がっていきます。
例えば、地域には、がんに罹患して通院が必要なものの運転が困難な患者、免許を持たない中高生等、移動弱者となってしまっている方々がいます。このような移動弱者に対する支援は、「まちに優しさを埋め込むこと」だ、という発言もありました。
モビリティの発展のためには、インクルージョンの観点が重要という認識を共有しました。

南花台モビリティ「クルクル」(脚注2)


「データ利活用」により新たな解決策やマーケットが生まれる

続いて、私たちが広島県庄原市で取り組んでいるモビリティ・地域活性化プロジェクトの概要を紹介しました。

私たち、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターのモビリティチームは、過疎化に直面している広島県庄原市において、移動に関する困りごとの改善および地域の活性化に取り組む実証実験を行っています。
プロジェクトのポイントとして、「包括的データ解析」および「フラットな研究会」について紹介しました。当プロジェクトでは、移動データと消費データを掛け合わせたデータ解析から、移動だけでなく生活の行動特性を把握して課題の抽出を行っています。そして、研究会で普段の会話の延長の形で議論、アクションを検討しています。

詳しくは、下記記事もご参照ください。


事例紹介を受け、参加者からはデータ利活用によりモビリティが地域課題を解決する可能性について言及がありました。データにより課題を可視化、議論することで、新しい解決策やマーケットが生まれるという認識を共有しました。

会場では、データを利用したプロジェクトについて活発な議論が行われました。
議論で共有された認識として、データ利活用の価値が挙げられます。例えば海浜幕張では、駅の人流データを予測・提供したところ、人々が分散して過密が解消され、街に人が流れるようになったという例があります。
また、データの活用・推進に重要なこととして、「法的な側面(独占禁止法・個人情報保護法)にも気を配りつつ、使いやすいフォーマット整備・各社のデジタル化を進めること」に関するコメントも寄せられました。

広島県庄原市 包括的データ活用研究会の様子


モビリティプロジェクトの円滑な推進のために重要なポイント

モビリティプロジェクトを円滑に推進するために、留意すべき点は何でしょうか。
参加者からは、「まちとしての危機感の共有」「人と人とのコミュニケーション」が重要である、という意見がありました。様々な事業者や関係者が関わる街づくりプロジェクトにおいては、まちとしての危機感を共有することで取組みの推進に繋がります。
また、コミュニケーションを通して普段と違う行動を喚起する仕掛け作りを行うことで、町の活気に繋がっていくと考えられます。効果を高めるうえで「場」(会議体など)のあり方も影響する、との指摘もあり、多様な人々が闊達に議論できるような場づくりの重要性についても認識を共有しました。

モビリティプロジェクトの推進には、体制や仕組みも重要になります。会場では、「サービス利用者の範囲を増やしていくために必要なこと」として、「スマートシティ実装に向けた社会的事業については、これまで通り民間が担うだけではなく、公共、あるいは官民両者が組み合わさって取組みを進めていくよう、仕組みの転換が必要だ」という意見がありました。議論が進めば、日本国内における交通の維持なども見えてくる、というお話もあり、またその仕組みには地域の参画が重要である、という意見も上がりました。


おわりに

モビリティに関する様々な取り組みについて、地域課題の解決に対し取るべきアプローチとして「困りごと」や「共助」、「データ」の観点からご紹介いただきました。また、今後のモビリティを考える上では「インクルージョン」が重要な観点となる、という意見も共有されました。今後も、庄原市での取り組みや他自治体様の事例を通して得られた知見を、国内外へと積極的に発信していきます。

「GSCA Japan Summit Autumn」の様子


引用文献

  1. 荒尾市 HP,『2020年 荒尾市10大ニュース』,2020年12月4日 https://www.city.arao.lg.jp/kana/oshirase/shisei/koho/page18084.html

  2. 河内長野市 HP,『南花台モビリティ「クルクル」が始動』,2020年1月7日 https://www.city.kawachinagano.lg.jp/soshiki/30/34689.html


執筆:矢野栞(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター インターン)
構成・監修:伊藤雄亮(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター フェロー)

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