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【開催報告】GSCA Japan Summit Autumn

2022年9月30日、GSCA Japan Summit Autumnが開催されました。自治体、政府、民間、有識者など130名を超えるメンバーが集い、スマートシティ実装に向けた取り組みの成果や直面する壁についての最新動向を共有しました。議論の空間として円陣の座組みを設置、登壇者と聴講者の壁を崩して、予定調和のない意見交換ができたことも大きな収穫となりました。

スマートシティとG7

冒頭に挨拶に立った山室センター長からは、2022年9月にドイツでG7持続可能な都市開発大臣会合が初開催され、来年2023年には議長国となる日本にて同会合の第二回目が香川県高松市にて開催されることなどが共有されました。スマートシティがG7のアジェンダになっていることを踏まえ、私たち日本センターではG20 Global Smart Cities Alliance (GSCA)を通じてスマートシティをめぐる国際的な議論を引き続きリードしていきます。

スマートシティとIT公共調達

新たなIT公共調達として注目を集めるデジタルマーケットプレイス(DMP)。日本センターの隅屋(アジャイルガバナンス・プロジェクトスペシャリスト)が国内外の動向を紹介しました。自治体DXを進めるうえで避けて通れないテーマであるIT公共調達には高い関心が集まり、会場に設置されたDMPの試作デモには参加者からさまざまな意見やフィードバックが寄せられました。


PIAモデルポリシー実装に向けた現在地/つくば市

自治体DXを進める上で個人情報に関する運営ポリシーを住民に明示する重要性が認知され、プライバシー評価ポリシー(Privacy Assessment Policy、PIA)を実装する機運が高まっています。セッションでは 、国内の先駆けとして「つくばPIAモデル」を構築中のつくば市の事例が共有され、評価対象とするデータの定義と範囲、普及と啓発に向けた活動などについて活発な議論が交わされました。

PIAは法令順守の免罪符ではない。個人情報に対する行政の姿勢姿勢を形として示し、住民と信頼関係を築いていくことが目的だ。

PIAを通じて実現したいことは何か?防災なのか、遠隔医療なのか、モビリティなのか、コミュニケーションしていくうえで起点を明確にすることが大切だと思う。

プライバシーと聞くと、難易度が高そうで、気持ち的に構えてしまう。だがPIAポリシーは行政職員をリスクから守ることにも繋がり、導入に向けた一層の議論が必要である。


オープン・コントラクティング~ニーズ牽引型オープンデータの潮流~

学校給食の調達プロセス全体のデータをオープンにしたら、従来の価格決定スキームが45%もコストを押し上げていたことがわかり、改善したところ給食サプライヤーの数が350%も増加したーーーコロンビアのボゴダ市の事例です。オープン・コントラクティングは、公共市場における競争の促進、金銭対価の向上、効率の改善、真正性と信頼性の向上などを実現するための手段として国際的にも高い注目を集めています。ただし国内においてはまだ「透明化は一般競争入札で担保されている」といった反応や内部抵抗があるのも事実です。オープンデータは日本の公共調達を改革できるのか、はたまた、調達改善という目的志向のデータ公開が日本のオープンデータ活性化につながるのか?自治体、デジタル庁、有識者の各立場から切実な体験共有と熱い想いのメッセージが行き交ったセッションとなりました。

豪雨・土砂崩れで新幹線しか動いていない状況に直面したとき、手元にあった行政のオープンデータとGoogle Mapを連携させて救援活動を実施できた。

オープンデータのなかでも、特に公共調達プロセスを可視化しないリスクはますます大きくなっている。透明性に欠ける自治体の調達には参加しないというベンダーも増えている。またこうした公共調達プロセスの可視化は、調達にかかわる職員を守ることにもつながるだろう。オープンコントラクティングについて議論を深めていく時期ではないか。

国全体で人口減が進行するなか、自治体の運営は限界にきている。未来への投資というつもりでオープンデータを積み上げていくことが生き残り策になる。


スマートシティのビジネスモデル構築を考える Vol. 2

現代の生活をしていくうえで、誰もが必要とする水や電力。この確固たるニーズを踏まえて官民連携で地域インフラ会社をつくり、エネルギーの地産地消のほか、地域インフラを活用したIoT実装連携と新たなサービス提供を行う動きが全国各地で始まっています。ただし、こうした町づくりのビジネスモデルからみえてきている課題は「誰のための事業なのか」「事業主体はどうあるべきか、そのガバナンスはどうあるべきか」という問いのようです。公共インフラとしての持続性を担保しつつ、住民が納得する官民連携やデータからのマネタイズには何が必要なのでしょうか。キーワードとなった「地域づくり」について、様々な視点で議論が行われました。

人口が減少すれば、地域を支えるインフラコストもスケールダウンしなければならない。補助金削減、公共料金の値上げといった時代を支える地域インフラのありかたは、地域づくりの成否にかかっている。

地元の人たちのコミットは、結局、雇用をうみだしているか否か。これが自分ごとのポイントになる。仮にいいことを行っていても、利用者が増えなければ、誰のための事業にもならない。

ヘルシンキのSmart Kalasatamaでは「One hour more everyday」を掲げ住民参加を促した。DXやデータ活用の結果として、住民に時間を還元するという目標設定から私たちは何かを学べるのではないか。


各地で進むモビリティ政策とデータ連携の可能性

荒尾市の「おもやいタクシー」河内長野市の「くるくる」、庄原市のShobara Modelなど、各自治体における新しいモビリティの実装が相次いでいます。地域主体や官民連携など、モビリティは「共助」の実装地として最先端にあるようです。モビリティとは異なるサービスやソリューションとの掛け合わせによって新たな価値が生まれる可能性など、様々な視点で議論が行われました。

移動弱者に対する支援は、町に優しさを埋め込むこと。結果として、地域が活性化していくと考えている。

モビリティは人を運ぶ道具ではなく、人を連れてくる道具だ。データを重ねれば、守りのモビリティから攻めのモビリティに転換することができる。

モビリティは単体で考えるコンセプトではなく、地域づくりの視点が必要。


自治体におけるヘルスケアDXとAPPA

ヘルスケア分野では予防・健康増進の重要性が高まるとともに、個別化された効果的な医療介入が期待されています。本セッションではPHR(Personal Healthcare Record)実装やヘルスケアデータ利活用の支援を目的としたヘルスケア・データガバナンスのツールキットをご紹介したほか、健康特区である吉備中央町、長崎県で実装稼働している地域医療連携ネットワーク「あじさいネット」、海外よりシカゴ市ニース市カスカイス市の実例をご紹介いただき、PHR実装やヘルスケアデータ利活用に向けた議論を行いました。

患者さんの同意が難しいというが、かかりつけ医が自らお願いすれば、同意を持って医師記録・看護記録などをデータ化し、ネットワーク上で共有できる

行政DXが整備されている国は、その基盤があるから医療DXも進んでいる。


振り返り

今回のGSCA Japan Summitでは、世界経済フォーラム内でHubと呼ばれるセッション方式を導入してみました。これは、よくある基調講演やパネルディスカッションのように、一部のスピーカーが参加者や聴衆に対し一方的に話をするのではなく、会場にいるできる限り多くの参加者がディスカッションに参加し、双方向で意見交換することで、参加者のインプットの総和を増やす機会をつくる新たな会議運営の方法です。

私どものイベントとしては、初めての試みだったこともあり、上手く行ったセッションもあれば、反省点が残る部分があるのも事実ですが、G20 Global Smart Cities Allianceの活動が始まった2019年と比較し、既に多くの自治体・企業が様々な取り組みを行っている中、これまで以上に多くの方を巻き込み、皆が共通で抱えている様々な課題に対し、各自が主体的に、自分ゴト化しながら考えていく機会を作っていくという意味で、重要な機会になってのではと考えています。

尚、本サミットでも話題となった「国連電子政府ランキングのe-Participation部門で日本が第1位を獲得」については、登壇いただいたHal Sakiさんが執筆されたnoteをぜひご参照ください。市民参画の視点をどこまで自治体運営に取り込んでいくかがますます問われているという指摘は、まさに今回のサミットにおいても通底したテーマだったと感じています。

冒頭の山室センター長からも発言があったように、スマートシティがG7のアジェンダになっていることを踏まえ、次回はより国際的な議論を展開していくことを計画しています。乞うご期待ください!


世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
平山雄太(スマートシティプロジェクト長)
ティルグナー順子(広報)

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