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恐怖は好きに:『犬神家の一族』


私は親の影響もあって幼い頃から映画鑑賞が好きで、古今東西あらゆる映画を観てきた。
映画も好きだが映画音楽も好きで、音楽を聴いてから映画を観ることもよくある。『風と共に去りぬ』、『カサブランカ』、『ティファニーで朝食を』…この辺のクラシック映画はテーマ音楽が先で鑑賞した。音楽によってその作品の世界観やキャラクターの感情が喜怒哀楽豊かに表現され、感動が増していく。
そんな私には一つとても“忘れられない”、ある意味トラウマだった映画がある。幼い頃、テレビの映画番組で放送されていた横溝正史原作の『犬神家の一族』である。

あらすじ

昭和22年、製薬会社で財を成した犬神佐兵衛が遺言書を遺して死去。遺言書の内容は莫大な遺産の相続者は佐兵衛の恩人の孫娘である野々宮珠世と結婚した者と記され親族は騒然とする。佐兵衛の孫にあたる3人と親族たちは珠世と一緒になるべく企むが、やがて奇怪な連続殺人事件に発展していく。助力を求められた探偵・金田一耕介が事件の謎に挑むのだが……。

出会い

当時やっていたのはリメイクの方だった。最初にレンタルビデオ店で流れていた予告編で知ったのがきっかけ。残酷な殺人シーンや叫び声の連発でそれを見た時からとてもショックを受けた。本当に怖くてたまらなかった。
公開から時間が経ってテレビで放送されると私は見るのも音も聞こえてくるのも嫌で、私以外の家族が見ているところには近づかず別のところでうずくまっていた。それを面白がっていた家族は当時憎くて仕方なかった。
何より嫌だったのがテーマ曲。ダルシマーの旋律が聴こえてくると大泣きしてたほど。それほど映画好きな私にとって当時は恐怖でしかなかった作品である。

感想など

時が経って、なんとなく動画サイトでオリジナルの『犬神家の一族(1976年)』のサウンドトラックを聴いてみた。テーマ曲「愛のバラード」を聴いてまた犬神家ショックを受けた。
ちゃんと聴いたらとても美しい曲だったのである。トラウマだったダルシマーの音が繊細かつ鋭い響で映画全体の核心である愛憎がとても表現されていた。映画を観た方は当然説明しなくてもわかるはず。
そして驚きだったのが、音楽担当はあの『ルパン三世』でお馴染みの大野雄二だ。大野雄二はジャズ音楽家。有名なテレビやアニメ、映画の音楽を多数手掛けている。ルパンの音楽はジャズでカッコよく私は大好きだ。
しかし犬神家はジャズを踏襲、基にしながら斬新な音楽だ。先ほど述べた「愛のバラード」のダルシマーの美しい旋律をはじめ、エレキギター、ベース、エレキピアノ、ドラムを使用したジャズっぽいリズムセクション。とにかく美しくカッコよかった。

これを機に私はオリジナルの『犬神家の一族(1976年)』を観てみた。
黒背景に明朝体の白文字とL字型配置の鮮烈なオープニング。シーンの切り替わりが早く短いカット割り。会話の途中で一瞬だけ挿入される静止画。そしてあまりにも有名な不気味な白マスクを被った佐清、湖から足だけが出ている逆さ死体など映画全編がスタイリッシュで強度なデザインだった。そして大野雄二の音楽。何もかもが完璧でカッコよかった。



日本映画の巨匠市川崑監督の鑑賞者を飽きさせない演出と画作りなど卓越な映画術によって作られた本作は日本映画の金字塔と称されるのがとてもよくわかる傑作だった。リメイクや他の映像作品が劣って見えるほど……。

そして私はかつての恐怖を克服した。今では何度も繰り返して見たり、4K修復版を劇場で鑑賞するほど大好きな作品となった。音楽も何度も聴いている。色んな記憶が鮮烈に蘇り観るたびに魅了される。
『犬神家の一族』は劇中のセリフの通り“忘れられない”作品だ。



あとがき


恐怖や不安というのは何か意外と小さなきっかけで解消され見方、捉え方を変えれば良く感じる。そしてそれがいつの間にか「好き」という形に変わることがあるのだなと思った。そんなことを大好きな映画を通して経験した。

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