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(北陸・輪島)なぜ少女は《スルメ》を買うのか

数年前のちょうど今ごろ、私は石川県の「のと里山空港」に降り立った。


ペーパードライバーのためレンタカーという選択肢ができず、交通機関を利用し様々な場所を回ったが、そのうちの一つが「輪島」。

「輪島」といえば、朝市。

この朝市は、もともとは海の物と山の物を交換する場 だったそう。

今では観光要素が強くなっており、地元の人が買い物をする場所ではなくなってきいる。


私も観光客なので冷やかし半分に歩く。

目に飛び込んできたのは、タコの干物。

なかなか珍しい、干しタコ。

売っているのは、いわゆる「その地のおかあさん」だ。


私の目の前を、土地の小学校低学年の男女数名が、組んず解れつ歩いている。

ふと、1人の少女が干しタコの女店主と賑やかに話し始めた。


地元民の絡みが面白いので観察をしていると、

どうやら少女がスルメを買っているようだ。

一枚100円。少しおまけをしてもらっているようで、

周りの男の子たちからは、もっとまからないのか、と賑やかだった。

この楽しい光景は何だろう。


私はすぐさま妄想した。

お金を使って買い物をする社会授業なのではないか。


あまり見ているのも良くないと思い、いったんその場をはなれて再びぶらついた。

けど、土産物というのはいつも買うタイミングに身悶えする。

私も干しタコが気になって気になって仕方がないのだ。


「ええぃ、買ってしまおう」

かなり歩いたと思ったが、戻ってみればなんということはない。

さっきのお店に引き戻って干しタコの品定め。

女店主は商売っ毛を出して勧誘してきた。

それは観光客に対する態度だった。


さっきの女の子はなぜ、スルメを買っていたのか?

郊外学習なのか?女店主に疑問をぶつけてみた。

質問が意外だったのだろうか、彼女は商売の顔から地元民の顔になった。


旅行者という「異人」である私に、はにかみながら返ってきた言葉は、

 *異人 については「異人論―民俗社会の心性」小松 和彦 (著) が面白い


おじいさんへのおみやげ、だそう。

土地の人間同士の楽しそうな会話をしていたんだ。

一緒に暮らしている爺さんなのだろうか。

それとも離れに暮らしているのだろうか。

どっちにしても、スルメを渡すような幸せな関係であることは変わり無い。


一枚100円のスルメを買う少女。

40代の女であるわたしは、干しタコ5枚とスルメ一枚を求めた。

女店主はスルメをおまけにしてくれた。


土地のいい光景を見た。




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