全室暖房は無駄?

全室暖房の話をするとよく「贅沢だ」「無駄だ」という意見が出ててきます。
これはおそらく多くの方が全室暖房について誤解しているからではないかと思います。

まず、全室暖房するためには高気密高断熱は必須です。

低気密低断熱住宅で全室暖房すれば、非常に暖房費がかかります。
その地域にあった断熱性能があれば、全室暖房にそれほどコストはかかりません。
実際日本で一番寒い北海道で全室暖房が普及しているのはこのためです。

なぜ全室暖房が必要?

なぜ全室暖房にする必要があるのでしょうか。
一つは結露の問題です。
暖房室と非暖房室(暖房していない部屋)がある場合、部屋によって温度差が生じます。
暖房室の暖かい空気が寒い部屋に異動すると、空気が冷えて相対湿度が上がります。
水蒸気は気体なので拡散スピードが非常に速く、小さなすき間にも入ります。

基本的に住宅内で水蒸気の量(絶対湿度)は場所によって大きな違いはありません。(水蒸気発生源近くは除きます)
絶対湿度が同じなのであれば、相対湿度は温度によって変わります。
つまり、暖かい部屋では相対湿度は低く(乾燥している)、寒い部屋では相対湿度は高くなります。
そのため、寒い場所では空気が冷やされ結露しやすくなります。
特に暖房していない部屋の窓周辺、押し入れや納戸などは温度が低くなりますので、結露しやすくなります。

このようなことから部屋間で温度差があると結露の原因となります。
結露するとカビやダニが発生して健康に影響がありますし、木材が腐りやすくなるため住宅の耐久性に影響します。

もう一つは健康への影響です。
最近の研究で温度差が大きいと体に負担がかかることがわかっています。
この温度差の影響をヒートショック(サーマルショック)と言います。
ヒートショックにより血圧が急激に変化すると心臓に負担がかかったり、心筋梗塞や脳卒中の原因になったりします。
冬の入浴や布団から出るときの死因の一つがヒートショックと言われています。
そのため、住宅内では温度差が小さい必要があります。
また、ヒートショックだけでなく、室温が低いことも健康に影響することがわかってきています。
最近になって室温が低いほど血圧が高い、心電図異常が多い、夜間頻尿が多いなどが確認されています。

全室暖房する方法

全室暖房が無駄と言われる原因として、住宅内どこでもぽかぽかの室温になっているイメージがあるのかもしれません。
全室暖房の基本は、結露が発生せず、健康に影響がない室温を保つことです。
そのため、全室暖房は部屋の温度差が全くない状態にするのではなく、数度くらいの温度差があってもいいのです。
全室暖房は住宅内を全部ぽかぽかにすることではなく、住宅内に一定以上低い温度の場所を作らないことが目的です。
また、全室暖房すると体感温度が上がるため、それほど室温を上げなくても暖かく感じます。

セントラルヒーティングにすれば、効率的に住宅全体を暖房することができます。
ただ、残念ながら北海道以外ではあまりセントラルヒーティングは普及していません。
FFストーブやエアコンなど、個別に暖房する場合は、一つの熱源で住宅全体を温めることになるため、温度差を少なくするのは簡単ではありません。
まず、限られた熱源で住宅全体を温めるためには、暖かい空気と冷たい空気の流れを考える必要があります。
たとえば、リビングのFFストーブで全室暖房する場合は、リビングから各部屋に暖かい空気が流れるようにリビングにドアを設置せず、吹抜けを配置したり、ガラリを設けたりして、積極的に暖かい空気が住宅内に広がる工夫をしてください。

どこかの実験住宅で見たことがありますが、直径10cm程度の小さなファン(デスクトップパソコンに付いているファンのようなもの)を各部屋に設置し、必要に応じて空気を積極的に循環させるシステムがありました。
電気代があまりかからず音も静かで、効率よく空気を循環することができる面白いシステムだと思いました。

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