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経営幹部と対峙するシナリオフレーム

プロジェクトをデリバリーしている期間中、定期的にトップクライアントと面談を持つのだが、この時間が好きである。ここで言う面談とは、関係各位を大勢集めてプレゼンする報告会等とは異なり、週に1度か隔週に1度程度の頻度で、クライアント企業の社長(もしくは準じる取締役)と1対1で対峙して、プロジェクトの今後の展開を語り合う場を指している。当然ながら、この時間を有意義な物とする為に、シナリオを練って臨んでいる訳だが、その対峙シナリオを描くためのフレームについて紹介したいと思う。

1.何の為に「会う」のか?

コンサルタントのミッションはただ一つ、依頼受けた組織の「変革を実現させる」ことにある。それ以外は全て「準備」であり「パーツ(部分)」に過ぎない。そして、組織が有する最も大きな”変革のテコ”は「トップ」である。全社であれば社長、事業においては経営幹部ということになる。

「トップ」の参加と振る舞いが変革の実現に与える影響は大きい。無論、参加と言っても「反対ではない」という程度の状態と、「熱烈に求めている」という状態では、組織に与える影響度はまるで異なる。従って、「トップ」の熱量と役割理解を高め、”打つべき一手”を奮ってもらえるように仕立て上げることは、変革請負人であるコンサルタントの責務と言える。

その為には、貴重な面談の場(経営幹部の時間は常に希少資源である)を単なる進捗報告に留めてはならない。ここまでのあらすじを的確に伝え、これからの行く末を示して、変革のストーリーに「トップ」自らが参加したくなるまでに盛り上げるのである。パートナー職のこういった動きは、現場のデリバリーチームを支援する為にも不可欠だと信じているし、そして繰り返すが、何より好きなのである。

2.俯瞰から始まるBaPaFaP

私は、この「熱量と役割意識を高める面談」を組み立てる際の構造を”BaPaFaP”と呼んでいる。このシナリオフレームは大小7つのステップから成り、その通りに組立てられないときも勿論あるが、原則を具体化した構造を持っておくことは重要だと考えている。

BaPaFapに基づけば、面談は、まず俯瞰(①Bird‘s eye view)から始まる。サマリー(概要)とかアブストラクト(要旨)とは言い難い。対象組織全体を本当に”視て一覧”できる1枚のチャートを、まず提示する。チャートの内容はプロジェクトによって様々に変わる。マトリクスやグラフを用いることが多いが、組織図や工場レイアウト、凝った作りのドラクエのようなパネルを用いたこともある。

重要なのは、「対象組織の全域を、活動ユニット別に分けて、変革の実現度合いを読み取ることが出来る」ことにある。丁度、チェスや将棋の盤面に相当する。プロジェクトの現状況は、目標の達成に向けてどのくらい近付いているのか? それも、構成する部門別に見れば、躍進しているのはどこか、苦戦しているのはどこか、厭戦に陥っているのはどこかまでが明確に読み取れる。この、箱庭を覗き見るような感覚をトップと共有できれば、面談のスタートとして上々である。共有した後に私は必ず、現局面をどう受け止めたか、トップの思考を尋ねる(②Asking)ことにしている。

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3.War Storyが手触り感を産む

さて、示した現局面が例えどれだけ興味深かったとしても、ここでコンサルタントは語り止めるべきではない。チャートはチャート(図画)であり、動いて見せてくれるわけではない。局面が優勢であれ、劣勢であれ、組織は自動的にそこに至った訳ではない。取り組んだ打ち手が有り、結果を受けて思考し、修正してきた進捗(③Progress)が必ずある。若い頃、現場のユニットがどのように奮闘してきたかを具体的エピソードを用いて語ることを、ファーム用語で「War Story」と呼ぶと習った。ここがまさに「War Story」を語るべき場面であり、それにより「トップ」に変革の手触り感を伝えねばならない。

どのエピソードを「War Story」として「トップ」に語るかは慎重に選択する。ここでも、相応しいものを選べるように3つの基準を設けている、先ず何よりも打ち手そのものが「面白い」こと、次にそれが、変化が全体に広がる、または大きな変化につながる「兆しである」こと、最後に、どうしても立場上、良い部分を伝えたい、社長の関心や仮説に合わせたいと考えがちだが、そこを「おもねらない」こと。

現場が、机上のチャート(図面)に辿り着くまでに、どのような動きを辿って来たのかという”動画”を想起させ、プロジェクトに手触り感を与えることができれば、Progressは成功である。私はここでも必ず、どう受け止められたかトップの思考を尋ねる(④Asking)

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4.1対1の知的遊戯

ここから、面談はクライマックスに進む。来し方を語ったのは、行く末を語り合う為である。目の前の局面を次にどう変化させるのか、構想している次なる仕掛け(⑤Future Work)を披露する。劣勢に応援を出して潰し込むのも一手であろうし、優勢な部隊を加速させる選択もある、或いは全く別種類の仕掛けを重ね合わせて密度を高めるのもありだろう。理が通っていることは勿論、意外性と実効性を兼ね備えた展開を語れるかどうか、ストーリーテラーとして腕の見せ所になる。語り終えた後、やはり私はトップに思考を尋ね(⑥Aasking)、安心を以て受け止められたかを読み取るようにしている。

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練り込まれた次なる仕掛けが準備されていることは、「トップ」を安心させる。そして、それは同時に「大胆」にもさせるということだ。従って、このタイミングで私はこう切り出す、「仕掛けるに際して、社長にも担ってもらいたい役(⑦Participation)がある」と。BaPaFaPを漏れなく踏んで放てば、「トップ」もここで身を乗り出してくる。

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依頼する役回りは様々だ。「次の進捗会議、とにかく”No”で突き返して欲しい」「実行責任を持つ常務と、1時間話し合ってもらいたい」「敢えて”小さな成功”を求めて欲しい」等。そして、コンサルタントの依頼に対する、最も好ましい反応は「被せてくる」ことだ。「トップ」より、「いや、それもいいと思うが、もっと派手にやるなら・・・・・・」「わかった、それもやる。同時に、もう一つ加えた方がいい」等、アイディアを示される展開になれば最高と言える。

時間が許すなら、更に先の展開へと会。その時は、次に・・・・・・」と。展開予想をしながら、二人で打ち手を語り合う、チェスや将棋を打つような知的遊戯に近い時間、私はこれが何より好きなのである。

5.「会う」ことの本質

コンサルタントが「組織を変革する」と口にするのは容易い。しかし、変革の最大のテコを動かす法は持ち合わせているだろうか? 最大のテコである「トップ」を動かすシナリオフレームを持っているだろうか? 人は誰しも、全体を俯瞰し、手触り感に頷き、展開に安心し、大胆になったときに初めて、熱狂的に参加するという理(ことわり)を理解しているだろうか?

デジタルが発達しても、オンラインが隆盛を迎えても、コンサルタントは「会う」ことにこだわる。それはコンサルティングの本質が、魅了することにあるからだろう。

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