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【自宅の歩き方】 フィクション

※この物語はフィクションです。登場する人物など、フィクションです。時事問題にリンクする箇所もございますので、読みたくない方は読まないでください。






okアマンダ、少し気分を楽にして!いい?息をゆっくりはいて、ゆっくりと鼻から新鮮な空気を吸って、体の中を満たして。できたら目を閉じて。目を瞑ってもいろんな色が見えるね?そう、意識して、明るい色を見るようにして。イメージして欲しい、白とか黄色の明るい色を見つけたら、それが視界に広がっていくようにイメージして。okアマンダ。その調子だよ。

そのまま横たわって、待ってて!すぐに戻るから。目を閉じたまま。


カタッ


トン


ギギギ…




okアマンダ!!

さあ、そのもぎたてのオレンジのように輝く瞳を開けておくれ!!





【自宅の歩きかた】


※タブレットかPCで音楽を再生しながら読んでいただけるとより楽しめます。








「ステキ、ねえ、どうしたの?これってまるで違う場所に来たみたい!」

「部屋をきれいにしたんだ、徹底的にね。で、ついでにレイアウトも思いっきり変えた!窓を全開にして、新鮮な空気を入れながら!どうだい、気に入ってくれた?」

「うん、気に入ったってもんじゃないわ!正直に言って、わたしは今最高にシビれてる!ハートの中心にビリビリきてる!ねえ、岡星、あの窓にたなびくカーテン!同じカーテンとは思えないくらい、ステキよ!」

「そうだろ?僕も同じことを感じてた。おんなじカーテンだなんて信じられない気持ちさ!ねえアマンダ、これがこれから僕たちが2人で生きていく部屋だよ。1ヶ月?2ヶ月?そんなことは誰にもわからない。でもその間、出来る限り君を幸せにしたいんだ!」

「ねえ岡星、わたしの意見が正しいとは限らない。でも、わたし幸せになっていいかわからない。」

「カモン、アマンダ!君は幸せになっていいし、そうなるべきだ。」

「だってこんな事態なのよ!心配だし、みんなのことも気になる。」

「そうか、それはとっても君らしいけど、別の話だと思うんだ。僕たちは今、出来る限り安全で清潔で他人との接触をしない生活を求められてる。もちろん僕だって不安だし、隣のジェームスに道端で出くわしても、握手もハグもできない。そんな世界、もちろんツライさ。」

「わたしも、道のこねこちゃんにキスしたいのに、我慢してる。」

「そうさ、みんな我慢してる。」

「わたし、これからの生活が辛いわ…」

「アマンダ、その気持ちはわかるよ。でもね、政府は僕たちに、悲観的になれとも他人に怒れとも言ってない。もちろん経済のいろんな問題はあるだろうけど、シンプルなメッセージだよ。安全で、健康面で個人的にも社会的にもリスクの少ない生活をしばらく続けてってことなんだ。戦争にいって戦ってこいってわけじゃない。世界でこれは戦争だって声が出てきてるけれど、この戦争を終わらせるのは争いじゃないんだ。個人の心掛けと協力、それとワクチンなんかだ。だから、僕たちは普段の生活の中で喜びを見つけ出せるように生きた方がいい。ねえ、おいで、新しくなった僕たちの家を紹介するよ!!」

「新しいお家、ひょっとして、ねえ、岡星、新しくなったのはこの寝室だけじゃないってこと?」

「そうだよ、アマンダ。この部屋はまだあまり触ってない。あまりに君がぐっすりと寝ていたものだから。久しぶりだよ。君があんなに熟睡しているのをみたのは。」

「きっと、岡星が優しく声をかけてくれていたから。」

「あまりにも美しかったから、君の寝顔に誓ったんだ。必ず君をエンターテインしてみせる、ってね!さあ、起きて!」

「ちょっと、岡星、まって!わたしあのかわいいワンピースに着替えてくるわ!今日からこの家を自宅であり、別荘でもあるって思えてきたの。ねえ、衣装だってきちんとして楽しみたいわ!」

「そいつはいいアイデアだ!アマンダ、僕も着替えてくる!じゃあ、15分後に、玄関で、集合!」

「ok、岡星!!」



『ウォークイン・クローゼットの中の君』
Song by 岡星


おぼえてるかい?
初夏のひるまの あのことを
おぼえてるかい?
パジャマ姿の 君をみた

天使かな きっとそうだよ その立ち姿
クローゼット ウォークインで服 探してる

クローゼット・デイタイム (wow wow)
抱きしめて君 くちづけた 
クローゼット・デイタイム (wow wow)
本気なんだね 夏の恋
もうすぐ秋が くるけれど
夢はさめない さまさない

(間奏)

天使かな 天使なんだよ その立ち姿
クローゼット ウォークインで君 探してる

クローゼット・デイタイム (wow wow)
抱きしめて君 くちづけた 
クローゼット・デイタイム (wow wow)
二人の紡ぐ 永遠(とわ)の恋
もうすぐ君に また会える
愛という名の リゾート地
クローゼット・デイタイム


「おまたせ、岡星、いい歌ね!」

「ステキだ、ステキだよアマンダ!信じられない!」

「ありがとう岡星!この麦わらの帽子も似合ってる?」

「もちろん、最高だ!」

「ねえ、どのくらい似合ってる?教えて、岡星!」

「そうだね、こんなのはどうだろう?天体学者が初めて自分だけしかみたことのない星を見つけたときの、世界中の景色が自分の焦点に向かって溶け込んでいく瞬間のように、君とその麦わら帽子は似合ってるよ!」

「岡星、なんか変よ。あなたじゃないみたい。」

「そうかな、でも僕は僕の言葉で君を表現したい。だから余計なもの(どうしてだろう?余計なものという言葉は僕に不必要なほど苦いコーヒーを出す、大学の近くにあった喫茶店の店主を思い出させる)で飾りたくないんだ。」

「ほら、岡星、やっぱり変よ!なに!ちょっとまって、おかしいわ!」

「いったいどうしたって言うんだ?ここには何のメタファーもない。夜の間だけ鳴く姿の見えない鳥もいないし、古くなった奈良漬のような味のする羊羹だってない。完全に僕たちだけの会話だ。」

「さっきからおかしいのよ!あ、なに!?その右手に持っている本!見せなさい!」

「やれやれ」

僕は手にとっていた本を手渡した。それ以外の選択肢は考えられなかった。それは冬の後に春がくるのと同じように、訓練されたリレーの選手がバトンを正確に渡すように、僕の手から離れていった。

「やっぱり。この本だったのね。わたしを待つ間に読んでいたらこんなに影響を受けてしまった。ねえ、もう元に戻った?」

「OKアマンダ。ありがとう。もう大丈夫だ。」

「よかったわ。でも読書はいいアイデアね。いろんな価値観に出会えるし、経験を共有することもできるから。人と接触できない今こそ、おすすめかも。ネットで読むこともできるし、オンライン・ショッピングで買うこともできる。それに読後のあなたの言葉、ステキだった。日常の言葉の表現が豊富になったあなたって、ますます最高!」

「そうだね、たしかに読書はいい体験だったよ。じゃあ、玄関から始めるよ!おっと、まずは手洗いうがい。顔も洗って。そう、どう?この洗面所?ピカピカにして歯ブラシも新しくして、鏡も磨いた!新鮮な気分にならない?」

「すごいわ!ねえ、岡星、この新しい歯ブラシ早速使ってみていいかしら?」

「もちろんだよ。歯ブラシだってそれを望んでる!」

「ああん、この毛先が奥歯に届く感じ、いいわ。思いきっていいブラシを用意してくれたのね。柔らかでいてこの充実感!すてき!ねえ、岡星、この爽快な香り!嗅いでみて!」

「うん、すごくいいよ!まるでミント畑でミント食べて暮らしてるつつましい妖精の家族のティー・タイムみたいだ。」

「お、岡星?あなたやっぱりおかしいわ!またそんなことを。」

「アマンダ、冗談さ!僕は岡星だよ!Haruk…」

「岡星、その名前は出しちゃダメ!」

「安心して!さあ、バス・ルーム、みてくれるかい?」

「OMG!!!どうしたの!!夢みたい!ねえ、こんなことってあるの?」

「落ち着いて、アマンダ。これは夢なんかじゃない。ただ、いつもより少しだけすてきなアメニティ・グッズを揃えた。そして、極め付け、シャワーヘッドを変えたんだ。なるべく大きくて広範囲の水が出るようなものにね。これだけですごくリゾート感がでる!どう、気に入ってくれた?いくよ、シャワーをだしてみる!それっ!」


※タブレットかPCで音楽を再生しながら読んでいただけるとより楽しめます。







「お湯の出る穴が多いほど湯圧が減るけど、これはすごくバランスがいいわ。柔らかなお湯!」

「気に入ってくれたのなら嬉しいよ!どう?気分は上がってきた?」

「岡星、上がってきたなんてもんじゃないわ!最高潮よ!この興奮、どうしていいかわからない!ねえ、キッチンはどうかしら?みてもいい?」

「もちろん!でも、生まれて初めてトイザらスに連れていってもらった子供みたいに興奮のあまりに気絶しないって約束できるなら、って条件付きだけど。」

「うん、わたし気絶しないわ。」

「さあ、入って、ここが、新しい、キッチンだ!」

「まあ、ものすごくカラフルね!」

「ありがとうアマンダ。ビタミンが大切だから、レモンをはじめ、果物を買ってきてる。それを目でも感じれるように、カゴに入れて常温に置いてある。ほら、よく言うだろ?ビタミン・カラーって。見るだけで気分が優れて、元気が出るよね!熟してきたら冷蔵庫に入れて軽く冷やして、食べる。」

「ステキ!ホテルに置いてあるウェルカム・フルーツみたい!ますます気分が上がってきたわ!」

「レモンなんかは絞ってお水に入れると最高だし、フルーツって本当にいいよね。」

「でも買い物に行かなきゃ!ねえ、政府のくれた布マスクあるかしら?2枚って少ないわよね。5人家族の家だってあるだろうし。」

「アマンダ、買い物へは僕がいく。外出の際は最小限の人数で、この方が持ち込むリスクも、持ち出すリスクも少なくなる。これは君のためでもあり、僕のためでもあり、社会のためでもある。それに人数が少ないほど、買い占めも起こりづらくなるし。前向きに捉えるなら、これは決して少ない枚数ではないって思うんだ。しばらくの間だよ、みんなでショッピングにいくのは必要がない限り我慢しなきゃ。」

「そうね、言われてみればそうかも。じゃあ、明日あなたが買い物に行く前に、必要なものとか、なに食べたいとか、いっぱい話しましょう!ねえ、楽しいわ、こういうのって!ワクワクしてきた!」

「ありがとうアマンダ!そう言ってくれて嬉しいよ!お子様のいる家庭なら、食育などにもいい機会だよね。何事もポシティブな面も見つけていければって思ってる。」

「ねえ、岡星!ずっと言いたくって仕方なかった言葉を言っていい?あなたって、ごく控えめに言って、最高よ!雪解けの季節の北海道の優しい植物のように輝いていて、あなたって、ホントに最高!」

「おいおい。アマンダ、君までどうしたんだい!?それじゃあまるで僕と同じ、Haruk……」

「岡星、そこまでよ!声に出しちゃダメ!ねえ、リビング、みてみたいわ!」

「もちろん案内させて!ほら。これが僕たちの新しいリビング!テレビは見やすい高さに調整した。リビングで過ごす時間が増えるだろうから、すべての配置はストレスの少なさに重点をおいてるよ。観葉植物も買ってきた。成長が楽しめるように、若いやつをね!」

「OK岡星!でもわたしあまりテレビはみたくない。不安を煽るような番組ばっかり、正直みたくない!」

「アマンダ、安心して!不安を煽って視聴率を短期的にとる。そんな話は僕だって気に食わない。でもきっとこんな局だってでてくると思ってる。ニュースは必要な分だけ、その他の時間帯は過去に収録、放送したご機嫌な番組なんかを流しつづけるような局が、さ!だって、よく考えて!その方が製作費がかからないし、気分だって良くなる。楽しい番組をながしつづければみんなが家にいる時間も増えるかもしれない。笑うのってメンタルをすごくパワフルにしてくれる!そんな局がでたら、視聴率はもちろん、必要なCMなんかも打ちやすくなる。長期的には、心に残るテレビ局になりそうな気がしない?」

「岡星!OK岡星!あなた、すごいステキ!かつてないほど愛してる!」

「ありがとう、アマンダ!かつてないほどって、例えば、冬眠からさめたばかりのお腹の空いた茶色いクマが、目覚めてすぐにまるまるとした鮭を見つけたくらい?」

「そう、そうよ!冬眠からさめたばかりのお腹の空いた茶色いクマが、目覚めてすぐにまるまるとした鮭を見つけたくらい、今あなたを愛してる!」

「アマンダ、今僕が心から感謝してることって、君と出会えたことさ!」

「岡星!わたしもよ!ねえ、でもお手洗いに行きたくなっちゃった。もちろん連れていってくれるのよね!?」

「もちろん!さあ、僕のプリンセス、君を抱えてお手洗いまで連れて行くよ!」

「岡星…ステキよ。こうしてみると、その熱い胸板も、たくましい腕も、ステキ。その強靭なフィジカル……って欧米かっ!!」

「ちょっ、ちょっと待ってアマンダ、そんな形相でどうしたっていうんだいきなり!なんだい、その欧米かっ!って。今更なにを言ってるんだ!?ここが欧米かどうかって?窓の外を見るんだ、いいかい、ここはいつもの僕たちの家だよ。」

「ごめん、ちょっと取り乱してたのかも。窓の外を見るのね。うん。かわいい小鳥たち。お花もきれい!みて!あの車!図太い腕が大きなフォードの窓から出てるわ!って欧米かっ!!」

「アマンダッ!落ち着いて、フォードなんか通ってない。落ち着いて、外を見て!僕の指差す方向を!あれは、あの砂煙を上げて走っているのは、赤い、ボルボだ!」

「だから、欧米かっ!」

「ああ、アマンダ、なんてことだ。そうだ、さっき言ってた、食事の計画をたてよう!ほら、今日の広告だよ!」

「ありがとう、岡星。わたしどうかしてる。ねえ!みて、今日は甘塩銀鮭が特化よ!それに鶏の胸肉も!洗剤だって安いわ!これってどこのチラシよ!ねえ、ここに行きたいわ!リブレ、リブレ京成?京成かっ!乾物類とかけっこういい品揃えの店じゃない!!京成の沿線かっ!!」

「落ち着いて、どうか、落ち着いてアマンダ!そうだ、これを飲んで!きっと落ち着くはずだよ!」

「コーヒー?それにしては甘すぎるわ。けど、美味しい。ってこれ、MAXコーヒーじゃない!千葉の特産缶コーヒー、MAXコーヒーじゃない!京成かっ!京成の駅の自販機で買ってきたんでしょ?おまえ京成かって!!」

「ごめんよ、アマンダ!たしかにそのコーヒーは今の気分には甘すぎた。僕のミスだよ。あやまる!じゃあ、これを飲んで!グリーン・ティーだよ!」

「よかった、甘くない飲み物が欲しかったの!って、甘い!なによこのグリーン・ティー!Arizonaって書いてある!これ、ハワイとかのコンビニによく売ってる激甘のお茶じゃない!!今度は欧米かっ!欧米から一度京成沿線へ行ってまた欧米にとんぼ返りしてるじゃない!ねえ、ここはどこなの?教えて!岡星、本当のことを教えて!」

「答えはこれさ。大きなティラミスを買ってきた。さあ、元気を出しておくれ、僕の大切なアマンダ。」

「ティラミス。美味しい。美味しいわ、これ!でもこんな巨大なティラミス食べ切れるかしら…」

「よかった、巨大なティラミスに反応しなくて…大丈夫、小分けして冷凍すれば好きな時に楽しめるよ。」

「ありがとう、岡星。早めに小分けするわ。まずは箱をかたしましょう。え、COSTCOで買ってきたのね。」

「そうさ、COSTCOだ。よかった、落ち着いてきたんだね。COSTCOにも反応してない。」

「岡星!!なによ、これ!COSTCO 幕張店じゃない!京成幕張本郷駅からバスで行ける、COSTCO幕張倉庫店じゃない!おまえ、京成かっ!」

「目を覚まして!僕は京成でも欧米でもない、岡星だよ!さあ、君の大好きなホール・ピザも買ってきてある、ほら、たべて!」

「ペパロニかっ!」

「大好物だったね、ほら、ホットドックもたっぷりのオニオンとレリッシュをのせてきた!おたべ!」

「大盛りか!」

「こんなの大盛りなんて呼ばないよ。スナック代わりさ!」

「欧米かっ!」

「ソーダももらってきてる。さあ、全部君の好きなもの!」

「大好きかっ!」

「え?」

「大好きかっ!」

「もちろんさアマンダ。僕は君のことが大好きだ!」

「ああっ、岡星…わたし目が覚めたみたい。ひどいことを言ったかも…ごめんなさい!わたしもあなたを愛してる。ねえ、このままベッド・ルームへ連れていって!少しゆっくり落ち着きたいの。何もかもが刺激的すぎて、ちょっと疲れたみたい。」

「いいよ、アマンダ。さあ、寝室だよ。おやすみ、僕の愛するアマンダ。」

「ねえ、岡星。愛してる。おやすみなさい。」

















「ねえ、アマンダ、起きて!」

「岡星…どうしたの?まだこんな時間よ…」

「いいから、はやくこっちへきて!窓の外を見て!」

「きれいな朝陽…」


「アマンダさん、朝だ」












【おしまい】








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