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天然痘ワクチンについて気になること

厚生労働省の専門部会は29日、KMバイオロジクスが製造販売する天然痘ワクチンについて、「サル痘」の発症・重症化予防を目的とした使用も認めることを了承したそうです。

乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」

今回、「サル痘」の発症・重症化予防を目的とした使用も認めることを了承されたワクチンの情報は、PMDAのサイトにあります。

添付文書は、2022年6月に改訂されていました。

改訂された※※の部分は有効期間です。「検定合格日から10年」となっています。では、その前は何年だったのでしょうか?

「検定合格日から4年」になっています。急に6年も延びています!
理由が書かれた資料を探したのですが、見当たりませんでした。これまで使う機会はほとんどなかったと思うのですが、今あるものはいつ製造されたものなのでしょうか。

2020年10月に改訂された※部分は、接種間隔です。

厚労省のサイトにリーフレットがありましたが、一部を除いて接種間隔の制限がなくなっています。間隔をあけていたことには理由があったと思うのですが、なぜ間隔をあけなくてもよくなったのでしょうか。

https://www.mhlw.go.jp/content/000674887.pdf

2020年10 月1日から、ロタウイルスワクチンが定期化され、乳幼児期に接種が必要なワクチンがさらに増えました。それにともなって、間隔の制限をなくしたようです。

https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000588558.pdf

間隔をあけたら接種時期を逃してしまうほどたくさん、ワクチンが用意されているということです。話し合いは2019年から行われていたようですが、接種間隔の制限をなくした時期が2020年10月というのも気になります。

非接種者への水平伝播とは?

そして、最も気になるのが2021年11月の改訂※です。

海外において、本剤とは異なるワクチニアウイルス株を用いた生ワクチン(注射剤)接種後に、ワクチン被接種者から非接種者へのワクチンウイルスの水平伝播が報告されている。

乾燥細胞培養痘そうワクチン 添付文書より

2.改訂理由(自主改訂)
本剤の水平伝播の発生に関する報告および症例情報は入手していませんが、海外の痘そうワクチンにおいて水平伝播の報告があることから、注意喚起することとしました。

https://dsu-system.jp/dsu/304/7328/notice/notice_7328_20211026094110.pdf


水平伝播については、おたふくかぜ生ワクチン「第一三共」の添付文書にも、2022年 1月改訂部分に同じようなことが書かれていました。


海外において、本剤とは異なるムンプスウイルス株を含む生ワクチン(注射剤)接種後に、ワクチン被接種者から非接種者へのムンプスワクチンウイルスの水平伝播が報告されている(2)。
(2)Atrasheuskaya A, et al.:Vaccine 2012;30(36):5324-5326

おたふくかぜ生ワクチン「第一三共」 添付文書より

改訂の概要≪自主改訂≫
「15. その他の注意」の項を新設し、「臨床使用に基づく情報」として、海外において本剤とは異なる Leningrad-Zagreb 株の水平伝播が報告されていることを追記しました。

https://dsu-system.jp/dsu/306/7832/notice/21968/notice_21968_20220125143134.pdf

ワクチンウイルスの水平伝播とは、何なのでしょうか。おたふくかぜワクチンの添付文書に参考文献としてあげられた論文を見てみました。

Horizontal transmission of the Leningrad–Zagreb mumps vaccine strain: A report of six symptomatic cases of parotitis and one case of meningitis

Leningrad-Zagreb株おたふくかぜワクチンの水平伝播
7例についての報告(耳下腺炎6例、髄膜炎1例)
7人の患者は、過去2ヶ月間におたふくかぜにかかった人との既知の接触はなかった。しかし、患者の症状発現の17〜34日前に、ワクチン接種を受けたばかりの子どもと家庭内で接触していた。したがって、ウイルスの感染源として最も可能性が高いのは、最近おたふくかぜの予防接種を受けた家庭内の12-21ヶ月児と考えられる。

http://www.ssu.ac.ir/cms/fileadmin/user_upload/Moavenatha/MBehdashti/Pishgiri_Bimariha/mumps/Atrasheuskaya_2012_Vaccine.pdf

というところから、この7人に対して調査したものでした。ワクチンウイルスの水平伝播とは、予防のためにワクチン接種を受けた人から非接種者にワクチンウイルスが伝播して、非接種者に感染したときと同じような症状や有害事象が起きるということです。ワクチンウイルスが伝播して非接種者も予防できるという話ではなく、伝播によって接種していない人が発症してしまうというから困ります。7人のうち1人は、重症化していました。

7人の患者のうち6人は、発熱や耳下腺炎など、おたふくかぜの典型的な兆候を示した。30歳女性は重症化し、細菌性髄膜炎として入院。

http://www.ssu.ac.ir/cms/fileadmin/user_upload/Moavenatha/MBehdashti/Pishgiri_Bimariha/mumps/Atrasheuskaya_2012_Vaccine.pdf

筆者らは、報告数は少ないが稀なのではなく、不顕性感染(感染していても、感染症状を発症していない状態)を起こすことが多いため、ほとんど認識されていないのだろうと考えているようです。そして、ワクチン接種者の家庭内接触者をモニタリングすることの重要性を強調しています。

この論文は、2012年のものです。それを今になって追記したのは、なぜなのでしょうか。これはおたふくかぜワクチンの事例ですが、天然痘ワクチンについても、海外では同様の報告があるのだと思います。

日本では1976 年を最後に、天然痘ワクチンの定期接種が廃止されています。

それなのにここ1~2年で、天然痘ワクチンの有効期間が6年も延びたり、ワクチン接種間隔が改正されたり、水平伝播の可能性が追記されました。これらの改訂はすべて、新型コロナ後に行われています。

ステロイドなどを服用している人は注意

天然痘ワクチンは、ステロイドなどを服用している人に接種すると、感染を増強させたり、持続させる可能性があると添付文書に書かれています。

乾燥細胞培養痘そうワクチン 添付文書より

新型コロナワクチン接種後の「副反応疑いの報告」を見ていると、いろいろな症状にステロイドが使われています(Vol.20等参照)。もし、水平伝播の可能性があるなら、家族に当てはまる人がいたら天然痘ワクチンの接種が影響するかもしれません。

「厚労省は早ければ来週にも正式承認する。研究目的で医療従事者への接種を進めている」とのことですが、医療従事者が一斉に接種した場合、上記のような患者に影響はないのでしょうか。