文徒ジャーナルvol.2

Index------------------------------------------------------
1)日経スクープ記事に情報をリークしたバカは誰だ?
2)DHC差別会長がオリコミ広告会社と日テレを批判の愚
3)首相記者会見 江川紹子にできて記者クラブ・メディアには何故できないのか
4)ぴあが11年ぶりの赤字 三菱地所と資本業務提携へ
5)東阪企画元社長の澤田隆治が亡くなった
6)日本の防衛が心配だ!接種予約システムドタバタ顛末
7)防衛相は何故に日経に厳重な抗議をしないのだろうか?
8)講談社「ViVi」がHKT48宮脇咲良卒業の情報流出お粗末!
9)セキュリティ研究の高木浩光がワクチン大規模接種予約サイト欠陥問題を連ツイ
10)今週の東京オリンピック
 10−1)雄弁な海外メディアと不作為の日本メディア5.17
 10−2)IOCと日本のチキンレース!その結果は?5.18
 10−3)逆風はもはや警戒レベルか?5.19
 10−4)心の底から楽しめない東京五輪5.20
 10−5)東京五輪開催に意義はあるのか?5.21

----------------------------------------2021.5.17-21 Shuppanjin

1)日経スクープ記事に情報をリークしたバカは誰だ?

日本経済新聞は5月13日付で「講談社など3社、書籍流通へ参入 出版生き残りへDX」を掲載している。日経のスクープである。次のような文言は実に刺激的である。
《講談社と集英社、小学館は、全国の書店に書籍や雑誌を届ける流通事業を始める。丸紅を加えた4社で年内に共同出資会社を設ける。》
《出版流通は日販グループホールディングスとトーハンの取次2社による寡占状態で、出版社が流通を手掛けるのは異例だ。》
《一方で取次会社の収益は、人手不足による物流費の高騰で悪化。日販とトーハンはコスト増加分の一部を出版大手に転嫁している。》
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2054H0Q1A420C2000000/?unlock=1
共同通信も日経の記事に煽られたのだろう。5月14日付で「出版大手3社が流通進出へ 丸紅と共同会社、年内に」を配信している。
《出版物は、出版社から日本出版販売(日販)やトーハンなどの大手取次会社を介して全国の書店に販売される仕組みが長年の慣行だったが、紙の出版市場の縮小が続き、返品に伴い収益構造が悪化していた。新会社は業界地図を塗り替える可能性がある。》
https://this.kiji.is/765769358404157440?c=39546741839462401
技術系の専門書出版社であるラムダノートを経営する鹿野桂一郎は日経の記事に衝撃を受けている。
《これかなり衝撃だ…。大手取次2社の問題じゃなくて、その2社に命を預けているような小中規模の書店と出版社はどうなってしまうのだろう。》
https://twitter.com/golden_lucky/status/1392944867026767873
ウラゲツは次のように危機感を抱いている。
《記事によれば「中小出版社の出版物の流通も請け負う方針」とあるが、どの書店層をターゲットにするかが問題。すべての書店が対象なら、大規模な帳合変更戦争になる。中規模書店までがメインなら、版元は売上上位300社の参加で十分で、ロングテールは斬り捨てるほかない。小さい書店や版元は蚊帳の外。》
《〈音・一・丸〉連合が他の出版社を糾合しえた場合、欧米のように版元どうしの提携化や子会社化が進むかもしれない。一方で、既存取次はグループ内に複数の書店チェーンを抱えている以上、連合が「どの書店と組むか」が重要になる。出版界は誰しもが勝ち馬に乗りたいが、事態はいまなお混沌としている。》
《音羽・一ツ橋が丸紅と協議して「これなら日販やトーハンと競争しうる」という確信を得たのだとしたら、売上上位書店の上層部には何かしらの相談はすでに行なったはず。既存取次からのヘッドハンティングもやっているかもしれない。スクープとはいえ、内部では相応の段階まで進んでいるはずと見ていい。》
《記事には書かれていないが、丸紅が過半を出資することの背景が気になる。音羽一ツ橋から丸紅に話をしたのが先か、それともその逆か。版元側から商社に持ちかけたなら、商社に相応のメリットを提示できていなければならない。商社が先導したなら、狙いは出版界のツートップを掌握することだろう。》
《音羽・一ツ橋・角川・DNPと組んで取次第三極を救った楽天は今回の事態をどう見ているのだろう。対アマゾンとしては、出版社連合は条件交渉の点で強力だろう。今まで通りの一対一の寝技には持ち込みにくくなる。年内に新会社設立で急展開。食う食われるか。企業小説並みの展開だが、これは現実なのだ。》
https://twitter.com/uragetsu/status/1393000729560764416
https://twitter.com/uragetsu/status/1393005129045987332
https://twitter.com/uragetsu/status/1393002386797432835
https://twitter.com/uragetsu/status/1393011793195270148
https://twitter.com/uragetsu/status/1393014858728185860
日経や共同通信の記事が事実なのであれば、こうした危惧を中小零細規模の出版社が抱いても不思議なことではあるまい。
さて、どう考えれば良いのか。確かに、この大手三社はともにマンガを最大の収入源としており、この事業における最大利益を志向するのであれば、出版流通にかかわる新会社を総合商社の知見を生かしながら設立するということは理にかなっているだろう。仲俣暁生が呟く。
《マンガ以外もよろしくな。》
https://twitter.com/solar1964/status/1392937728908529665
しかし、日経が書くような既存の取次と正面から競合するような新会社の設立など常識的に考えてあり得るだろうか。明らかに日経の記者はペンを走らせ過ぎている。大手三社の誰かがリークしたのだろうが、もう少し冷静に考えてからパソコンのキーボードを叩くべきではなかったろうか。
例えば楽天ブックスネットワークの成り立ちを考えてみればわかる。それこそ大手三社が水面下で動くことで楽天に大阪屋、栗田の後処理を任せて楽天ブックスネットワークは立ち上がることになった。
新会社を立ち上げるにしても、楽天ブックスネットワークと競合することはあり得まい。しかも、大手三社はトーハン、日販の大株主でもある。大手三社が別の流通企業を立ち上げて、日トー楽という既存三社と競合するということは、よほどのことがない限り、あり得ないのである。
もしかすると誰だか知らないが日経の記者に情報をリークした御仁からして、良く理解していなかったのではないだろうか。ある種の伝言ゲームが成立してしまった?
日経の報道の後、講談社、集英社、小学館は全く同じ内容のプレスリリースを発表しているが、新会社による主な取り組みとして次の二つを記している。
《1 <AI の活用による業務効率化事業>
書籍・雑誌の流通情報の流れを網羅的に把握し、その際、AI を活用することで配 本・発行等を初めとする出版流通全体の最適化を目指します。
2 <RFID (radio frequency identifier)活用事業>
RFID=いわゆる IC タグに埋め込まれた各種の情報を用いて、在庫や販売条件の管 理、棚卸しの効率化や売り場における書籍推奨サービス、そして万引き防止に至る まで、そのシステムを構築し運用することを検討してまいります。
(2のシステムは1の仕組みの「最適化」の精度向上につながるものでもあります。) 》
https://www.kodansha.co.jp/upload/pr.kodansha.co.jp/files/pdf/2021/20210514_PressRelease.pdf
https://www.shueisha.co.jp/wp-content/uploads/2021/05/release210514-2.pdf
https://www.shogakukan.co.jp/sites/default/files/manual/20210514.pdf
このリリースを読めば理解できるように、新たに設立される流通会社は既存の取次業に対立する事業ではなく、むしろ既存の取次業を支援するためのものであることがわかる。
「黒の書店員」が呟く。
《取次を新設するってわけではないのか。さすが飛ばしの日経だな。》
https://twitter.com/BK110/status/1393055253243695107
着目すべきは、集英社と小学館のリリース。【本件に関するお問い合わせ先】として記載されているのは、講談社 広報室のものであることだ。ひょっとして日経に生半可な知識でリークしたのは講談社広報室の関係者なのだろうか?結局、日経も5月14日午後になると、自らの「飛ばしっぷり」に気がついたのか、タイトルもごく平凡な「講談社など大手出版3社、出版流通の新会社設立を発表」として記事を発表するに至る。

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