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私事ですが……辞めます

「私事ですが……」

朝礼で手を挙げた私は、大きく吸った息をゆっくり吐き出すように、喋り始めた。

「12月17日で会社を辞めます。出勤するのは今日が最後です」

仕事を辞めることは、ごく一部の人にしか話していない。
突然私が辞めると言ったら、みんなはどんな反応をするのだろうか。

「皆様には大変お世話になりました。ご活躍を願っています」

静まり返っている。
突然のことで、みんな驚いているのだろうか。

「他に連絡のある人いますか?」

朝礼当番が、何事もなかったかのように話を進める。

「無いようなので、今日も怪我に気をつけて、よろしくお願いします!」
「「「お願いします!」」」

朝礼が終わった。
何だろう、思っていたのと違う。

辞めると聞いて驚いた人が、話しかけてくると思っていた。
「辞めちゃうの?」とか「驚いたよ」とか。

けど現実は違った。
みんな、何事もなかったように仕事を始めている。

私に話しかけてくる人は誰も居ない。

なんだろう。
自分の都合で辞めるのだから、仕方がないとは思う。
一人抜けても変わらないだろうとも思う。

けど、少しは寂しがってくれてもいいのではないか……。

そして私は、誰にも挨拶をせずに会社を後にした。

〈了〉

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