【映画】「ポーランドへ行った子どもたち」感想・レビュー・解説

ちょっと思ってる漢字の映画じゃなかったかなぁ、という感じだった。別に、「どういう映画であってほしい」という期待をそこまで持っているわけではないのだけど、ちょっとなんだかなあ、という感じではあった。

扱われているテーマは、タイトルにある通り、「朝鮮戦争中、戦争孤児となった子どもたちを、東欧の社会主義国家に預かってもらった歴史」であり、映画では、その内のポーランドに焦点を当てている。ポーランドが取り上げられたのは、ポーランドの小説家が実話小説を出版しているからだ。「社会主義国家が北朝鮮の孤児を預かっていた」という史実は、長らく公にされなかった事実であるそうで、実話小説という形で状況を把握でき、映像資料なども存在していたポーランドが選ばれたということだと思う。

監督は韓国人女性。40歳で子どもを産んだこと、そしてちょうどそれぐらいの時期に偶然見た北朝鮮のホームレスの映像に涙が止まらなかったことなどがあり、そのような個人的なきっかけを端緒に、ポーランドでのこの史実に行き着いたそうだ。

彼女は、この『ポーランドへ行った子どもたち』とは別に、ポーランドへ送られた北朝鮮の子どもたちを扱った映画を撮ろうと考えており、そのシナリオを書いている最中だ。そして、並行して役者のオーディションも行っている。

オーディションを受けるのは、韓国にいくつかあるらしい「脱北者学校」の子どもたち。想像を絶する経験を経て韓国へとたどり着いた、北朝鮮から逃れてきた子どもたちを、役者として選ぼうと考えているのだ。

オーディションを受けた子の中に、ソンイがいた。恐らく主役級だろう役に応募した女性で、高校生か大学生ぐらいの年齢だろう。

監督は、ポーランドでの史実を扱った映画を、脱北者に演技をしてもらって撮るつもりでいるが、韓国で生まれ育った彼女は、「北朝鮮」のことをよく知らないことに気付かされた。そこで、映画のロケハンを兼ねたポーランド旅行に、ソンイを誘い出すのである。

この映画は、監督とソンイがポーランドへ向かい、「北朝鮮から送られてきた数千人の戦争孤児たちと教師とのやり取り」を取材する中で、「ソンイがどのような経験をし、どんな感情を抱えて役者を目指したのか」を監督自身が探ろうとする物語。

という感じである。

「北朝鮮の戦争孤児が東欧の社会主義国家で保護されていた」という事実は、恐らくそこまで広く知られたものではないのだろうし、その史実を明らかにしていくことには確かに一定以上の価値はあると思う。しかしこのドキュメンタリー映画の最大の問題点は、「ポーランドでの史実」よりも、「脱北者がインタビューで語る北朝鮮での生活」の方が遥かにエグいということにある。だからどうしても、「ポーランドでの史実」が霞んでしまうのだ。

映画全体において、監督のオーディションを受けた者たちにインタビューする場面は決して多くない。ソンイは、監督との旅の途中で様々に話をする機会があるが、ソンイ以外の者たちについては、1人10秒程度の短い映像が時折挟み込まれる程度の扱いでしかない。

しかし、その脱北者たちの話の方がかなりしんどい。彼らの話を聞いていると、言い方は悪いが、ポーランドで起こったことが「大したことではない」ように感じられてしまう。僕にとってこの点は、とても大きな要素に感じられた。

公式HPには、「韓国で異例の動員を記録した」と書かれているが、それは、韓国の人は北朝鮮の現実を日本人よりも知っているということが大きいかもしれないと思う。だから、純粋に「ポーランドでの史実」に集中できる。僕は、「ポーランドでの史実」よりも明らかに「脱北者たちが語る現実」の方が重く感じられてしまうし、ポーランドの話に集中できなかった。

また、もう1点難しいと感じるのは、この監督がドキュメンタリー映画を撮り慣れていないだろうということだ。別にドキュメンタリー映画に「定型」があるなどと言いたいわけではないし、「ドキュメンタリーっぽさ」みたいなものから外れたことで作品が良く見えることもある。ただこの映画は、「ドキュメンタリーっぽさ」から外れていることが、作品にとってマイナスになっているように僕には感じられてしまった。

で、たぶん「ドキュメンタリーっぽさ」がない一番の理由は、「監督自身が”出役”として前面に出ていること」にあると思う。

マイケル・ムーアや森達也など、ドキュメンタリーの監督自身が映像に出てくるタイプの作品もあるし、彼らはそれで上手くいっていると思う。ただ、『ポーランドへ行った子どもたち』の監督の場合、監督自身が画面に出ることがマイナスに働いているように感じられた。

この映画では、「ポーランドの史実を掘り下げること」と「ソンイを掘り下げること」が同時並行で行われる構成になっているので、必然的に監督が前に出ざるを得ない状況になっているとは言える。しかし、描く要素をどっちかに絞ってでも、監督は”出役”にならない方が良かったんじゃないか、という気がしてしまった。

観ながらずっと、「ちょっと違うんだよなぁ」という違和感を抱き続けての鑑賞だった。

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