見出し画像

脱・新自由主義宣言第四話 アベノミクスにおける量的金融緩和とは?

アベノミクスと聞いて皆様はどういったイメージをお持ちでしょうか?もはや経済の話ではなく、昨年流行語にもなりかけた「アベノマスク」が浮かぶ人のほうが多いのかもしれません。ですがTV等で「アベノミクスの異次元の量的緩和により・・・」といった言葉は聞いたことがある方も多いでしょう。

アベノミクスというのは、安倍前首相とエコノミクスという言葉をかけ合わせた造語であり、アメリカのロナルド・レーガン大統領がとった経済政策がかつて「レーガノミクス」と呼ばれたことに由来します。実際の政策はレーガノミクスとは全く関係無く、三本の矢と言われた政策の大きな部分を締めるのは、第一の矢である大胆な量的金融緩和です。その政策は、経済用語ではリフレーション政策(リフレ政策)と呼ばれます。

このシリーズではすでに「銀行の信用創造」について解説してきました。銀行は誰かの預金を元に貸出をしているわけではなく、無から有を作っているという説明は、赤派を読まれている皆様にはもはや常識ですが、世間では依然、異端の経済学とされています。主流な経済学者のほとんどは今でも銀行が我々の預金や、なにがしかの原資(プール金)を元に貸出を行っていると考えており、その原資を増やせば民間にお金が供給されると考えています。そういった考えに基づき、日本銀行が民間銀行の持っている国債を大量に買い入れ、日銀当座預金(マネタリーベース、ベースマネー)をブタ積みにして、民間融資を喚起し、お金の総量を増やすことでインフレターゲット2%目標を達成する、これがアベノミクスにおけるリフレ政策です。

より詳しく解説します。実際には少し複雑な説明が必要なのですが、単純化するため、世の中のお金を、銀行より上のお金と銀行より下のお金の2つに分けましょう。銀行より上のお金とは、政府、日銀、民間銀行の間でやりとりされるお金であり、それは我々民間人が触ることの出来ないお金です。そして銀行より下のお金は、民間銀行が信用創造により発行したお金、つまり私達の口座にあるお金や、財布に入っている現金、タンス預金などもこのお金に含まれます。リフレ政策とは、この私達が触れない上のお金の中で、日本銀行と銀行の間のお金をどんどん増やしていくと、自然と下のお金が増えていくという考えです。より単純に言うと、銀行が日銀に持つ定期預金(国債)を普通預金(マネタリーベース)に交換し、貸し出し出来るお金を増やして、金利を下げ需要を喚起します、ということ。

では果たしてそれで民間のお金が増えるのか。当然貸出金利が下がればお金を借りたい人が増え、民間貸し出しは増えますね。「お金を借りてビジネスをしたいけど金利が高くて」と事業展開に踏み切れなかった資本家は、我先にと銀行融資を受けるでしょう。しかし日本銀行がもっともっとと国債を買い取り、金利がゼロに限りなく近づいてしまったらどうでしょう?金利ゼロでも先行きが不安だから投資したくないと民間企業が思ってしまうような状況下で更にベースマネーを増やしても、金利が底をついてしまったら、何の効果も得られませんね。ゼロより下は無いのですから。モノが売れない!とモノの在庫だけ増やしても、人が買いたいと思わない限りモノは売れません。金利が下がりきった状態でベースマネーを増やすのはまさにこれと同じ。この金利を下げきっても需要が喚起されない現象を経済用語では流動性の罠と言います。そもそも日本の金利はアベノミクス以前より低く、金融緩和前から日本は流動性の罠に陥っていると言われていました。それを解消するため採用されたアベノミクスで、日本は更に罠の奥深くへと嵌っていった、そんなイメージでしょうか。

そもそも中央銀行システムは、金利で景気をコントロール出来るという考えのもと採用されています。ベースマネーという民間銀行の預金(普通預金)には、金利がほとんど付きません。ですから銀行は持っていても無駄なので、金利の付く国債(利子付き定期預金)を買うわけです。しかし国債が日銀に買われてしまい、ベースマネーを持たざるを得ない状況になれば、民間銀行は金融投資をしたり、民間に貸出して利益を稼ごうとします。貸したいので銀行は金利を下げます。高金利の中、世間が不況に立ちいった段階で銀行が金利を下げたら、金利が下がったおかげでまた再び民間企業が融資を受けようとします。こうして景気回復の方向へ向ける、金融政策にはこうした効果があります。しかし日本は超長期のデフレーション。金利はほぼゼロ固定の状態で、いくらベースになるマネーの数字を増やしても、不況下で民間が融資を受けて新たな事業を展開しようとは思いません。むしろこのコロナ禍では廃業しないための軍資金としての融資が増えるだけで、それはデフレ脱却には全くつながらないものなのです。

このようにアベノミクスの異次元の金融緩和は、先程も述べたよう、店で例えれば、「モノが売れなければ在庫を増やせば売れるだろう」というような「お金のプール論」に基づいた考えでしかありません。元々貨幣はモノでは無くただの負債の記録でしかないので、上のお金の数字をいくら負やしたところで、下に降りてくることはない。この外からの圧力(金融政策)で民間のお金をコントロール出来ると考えるのは、外生的貨幣供給説と言います。逆に我々がここで語っている「銀行の信用創造を経ない限り民間のお金は増えません」という考えは、内生的貨幣供給説。どちらが正しかったということは、リフレ政策の現状を見れば明らかですね。

ということで結果アベノミクスの8年で、インフレターゲット2%どころか、消費税増税によって消費は落ち込み物価は上昇せず、残ったのは日本銀行が買い取った大量の国債と、ブタ積みになった日銀当座預金、その上日銀がETFと呼ばれる投資信託を購入し、株を買い支えているので、富裕層にお金が流れ貧富の差が拡大。「トリクルダウン」という言葉も皆さん聞き覚えがあると思います。富裕層が儲かれば、そのお金が一般層に降りてくるとう意味なのですが、株が上がり続ける中、富裕層は儲かったお金を更に金融資産に投資したり、大企業は内部留保をたっぷり溜め込んでしまい。。。もちろんトリクルダウンは起こりませんでした。そして終いには財務省の「国の借金一人あたり900万円」という緊縮宣伝文句まで生み出してしまいました。前号でも説明したよう国債は借金ではないのですが、国債残高が積み上がると、その分人々が将来のツケを想像し、出費を控える傾向があり(リカードバローの中立命題)、結果景気が回復いないままコロナショックへと突入、リフレ政策はデフレ脱却には全く効果がないということがこの8年間で証明されたのです。

ということで今回はアベノミクスの金融緩和についてお話させてもらいました。当記事を読まれお金のしくみについて興味を持たえた方は是非、元衆議院議員、前参議院議員の中村哲治さんが主催するオンライン講座「基礎からわかるお金のしくみ」へお気軽にご参加ください。一緒にマクロ経済を学んで、真実を知って行きましょう!

KAZUMA


おまけ
アベノミクスはアメリカの経済学者ポールクルーグマンの量的緩和政策提言に基づいて採用されたとされていますが、実はそのクルーグマン本人が2015年に、日本の生産性が想像以上に低かったため、量的緩和は日本には有効ではなかったと認めてしまっているのです。しかしこの恒久的な金融政策に踏み切った日銀は、この不況下で今さら金融を引き締めるわけにも行きません。しかもアベノミクス下に置いては、金融緩和しベースマネーを増やしながら、一方で消費増税をするという、まさにアクセルとブレーキを両方踏むようなちぐはぐすぎる経済政策をとってしまいました。クルーグマンはその後日本の消費増税に反対、また財政収支など気にせず財政出動せよと提言を180度変えていますが、現在菅政権に置いては、このポジションに中小企業淘汰で悪名高いデービットアトキンソンが就いています。いつまで日本はこのような人たちに翻弄され続けるのでしょうか。。。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?