見出し画像

脱・新自由主義宣言第二話「信用創造」

金細工職人が、預かった金を貸し出す際に金の代わりに「金匠手形」という手形を発行し、それが金の代わりに市中で流通、お金の起源となったお話を前回させていただきました。今回はその「お金の起源となった」という部分を掘り下げていきます。

皆さんの持っているお札には、「日本銀行券」と書かれています。多くの人は、お金は日本銀行が発行していると思っています。ある意味ではそれは当たっています。目に見えるお札は、日本の中央銀行、日本銀行が独立行政法人・国立印刷局に依頼し造っています。ちなみに500円玉等の貨幣は、政府が日本造幣局に依頼し造っています。それではそこで造られた現金、キャッシュが既にお金としての価値を持つのかというと、そうではありません。いわゆる紙幣や貨幣は、造られた段階ではお金としての価値はなく、ただの紙切れでしかありません。それではその紙幣が価値を持つのはどの段階なのでしょうか。

さて、今回のコロナ禍での前安倍政権の施策として、特別定額給付金がありましたね。国民全員一人一律10万円が政府によって配られたのですが、皆さんはどのように使いましたか?10万円を現金として引き出さずにそのまま他行などへの振り込みで何かの支払いに宛てた人、引き出して当店でジャケットを購入してくれた素晴らしい人(♥)用途は様々だと思いますが、あの10万円はどのようにして皆さんの手元に届いたのでしょうか?政府が国債を発行して、民間銀行がそれを買い取って、日本銀行が紙幣を作って、、、と難しいことを考える方も多いでしょう。その仕組みは実は非常に簡単です。公的機関からの振込依頼に従って、民間銀行が皆様の口座に100,000と書き込むだけです。それ以上でも以下でもありません。銀行はただ口座に金額を書き込むだけで、お金を増やすことができます。そして、そこに書かれた金額を我々民間人がATMや銀行窓口で引き出すことで、初めて日銀や政府に造られたキャッシュが価値を持ちます。

画像1

これは特別定額給付金でなくとも、例えばあなたが事業主で銀行融資を受ける際も同じです。民間銀行はあなたの事業計画や返済能力等を与信し、融資するに値すると判断した場合、ただあなたの口座に数字を書き込むだけで預金を創り出すことができます。これこそが銀行の信用創造(Money Creation)です。

多くの主流派経済学者をはじめ、高校の教科書でさえもこれまでこの信用創造を間違って解説していました。ほとんどの本や解説には、まず誰かが銀行にお金を持ち込み、その預金を元手に銀行が信用創造を行い、小さな預金から大きなお金を生み出すことができると説明されています。ですがこれは間違いであり、そもそも信用創造するのに原資などは必要ありません。無から有を生み出すのが信用創造であり、これはまさしく前号の金匠手形の発行と同じなのです。ただ1点だけ大きな違いがあります。銀行にとって私達の預金は全てバランスシート上は「負債」となります。例えば定額給付金も、10万円と書き込んだ時点でそれは銀行にとっては、我々に10万円を払わなくてはならない義務があるため負債として計上されます。それは融資を信用創造する際も同じこと。要するに銀行は、前話の金匠手形同様、信用創造によって自らの負債を生み出すことになります。ですから、融資を受けた側がそれを返済出来ないとなると、負債だけが残ってしまい、不良債権となります。それが積み重なると銀行は破綻してしまいます。

それでは、なぜわざわざ信用創造で負債を生み出すのか。まずはもちろん融資に付随する利子が銀行の利益となるからです。借りる相手がいなければ、銀行は利益を生み出せません。銀行にとっての本当のお客さんは、たくさんお金を預ける人ではなく、たくさんお金を借りてくれる人なのです。あなたがATMに1,000万円を預金しても、銀行にとって利息を払わなくてはならない負債が増えるだけなので、誰も何も言ってくれませんが、もし1,000万円融資を受けたら、銀行の担当者はあなたに深々と頭を下げるでしょう。これが真実なのです。

そしてもう一つ、信用創造をする大きな理由として、資本主義の仕組みが大きく関わっています。今この記事を読んで、銀行の信用創造を不思議に思う人がほとんどだと思いますが、実は我々民間、いわば実体経済におけるお金は、銀行が信用創造しない限り一切増えません。今年度はコロナ禍ということである程度の財政出動が行われましたが、現在の緊縮一辺倒の平時においては、民間の企業が融資を受けない限り、世の中のお金の総量は一切増えないのです。「日銀がお金を刷る」と言う言葉はよく聞かれると思いますが、正しくは「民間銀行が数字を打ち込みお金を創る」です。つまり資本主義の正しい形は、アイデアある資本家に銀行が融資をし、世の中のお金が増え、雇用や供給も増えていくという、成長ありきのモデルなのです。その資本主義の一端を担っているのが銀行であり、そのためノンバンク(預金業務を行わない金融機関)には認められていない信用創造が銀行には認められているのです。信用創造という特権を手に入れる代わりに、リスクを取っても経済を安定、成長させ資本主義を支えなさいと。

ということは、好景気の時は民間企業が融資をたくさん受けて、お金がたくさん実体経済に注がれるのです。しかし逆に不況の時は企業も守りに入り投資を避けるため、銀行から融資を受けようとしません。銀行が貸出をしないと民間のお金が増えないので、モノだけが溢れ、お金が少ない、いわゆるデフレ(デフレーション)になってしまいます。そのデフレの真っ只中を20年続けているのが、何を隠そう我らが日本なのです。

以上のことは経済学上の内生的貨幣供給説(※)という論説に基づいて説明しています。今回はここまで。次回は、最近何かと話題になっている国家破綻についてお話したいと思います。

※イングランド銀行の季刊誌(2014年春号)は「現代経済における貨幣の創造」の中で、銀行は、民間主体が貯蓄するために設けた銀行預金を原資として、貸出しを行っているのは、通俗的な誤解であると指摘している[12]。銀行による貸出しは、借り手の預金口座への記帳によって行われるに過ぎず、銀行は何もないところから、預金通貨を作り出している。銀行は預金という貨幣を元手に貸出しを行うのではなく、その逆に、貸出しによって預金という貨幣を創造している。貨幣を負債の一種とみなす信用貨幣論を前提とし、需要に応じて銀行によって貨幣が供給されるとする理論は内生的貨幣供給論と呼ばれている。(ウィキペディアより)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?