脱・新自由主義第六話 日本は小さな政府?政府支出と労働時間に相関!

「水槽の中の魚たちに十分な餌を与えてやれば、魚たちは食べ終わるとそれ以上餌を求めることなく自由に泳ぎ回る。しかし餌の量を絞ると、魚たちは常に餌を待つ体制を取り、我先にと常に餌の取り合いを続けるようになる。」

いきなりですが、私が初めてヨーロッパを旅した時の話しをさせていただきます。それは大学生の頃、ロシアと言いたいところですが、実はフランスとイタリアの旅でした。何も決めずふらりと1ヶ月弱飛んだのですが、セザンヌやマティスが好きだった私はパリからなんとなくプロヴァンスへ。エクス・アン・プロヴァンスやモナコ、ニース等美しい街を点々とし、毎日が刺激的でした。そして日々過ごす中で最も違いを感じたのは、スーツを着たサラリーマンが家族とワインを飲みながら、2時間ほどかけてゆっくりランチする光景。日本にいたら間違いなくプロのミュージシャンレベルの路上演奏家達が奏でるバイオリンやオペラを聴きながら、燦々と輝く太陽の下、家族や恋人とテラスでゆっくりランチを食すフランス人を横目に思い出すのは、渡仏する直前に見た日本のニュース。当時テレビで、お小遣いを節約するため銀座の公園で500円の弁当を食べるサラリーマンがいるというのが取り上げられていました。地球の裏側では20ユーロで家族とお酒を飲みながら2時間ゆっくり過ごすフランス人。自分たち日本人は騙されているのではないかと初めて疑問を持った瞬間でした。

それから数年後、ドイツのベルリンに何年か住んだのですが、そこでも同じようなことを何度も感じました。まず人々の労働時間が少ないし、残業なんて絶対しない。店の営業時間も短ければ、定休日も多い。圧倒的に日本人より働いていないし、それなのに一人当たりのGDPは日本より上。何が違うのか。なぜこんなに働かなくても可処分所得は高く、余裕を持って暮らせるのか。ずっと日本の経済学者やジャーナリストは日本人の生産性の低さを指摘してきました。確かにジョブ型で合理的な働き方が主体のヨーロッパは、日本に比べ生産性が高い部分もあるのかもしれません。しかし海外のデザイナーと仕事をしていて思うのは、私の肌感としては日本人だけ生産性がそんなに低いとは到底思えない。もしそうだとしても、それだけが原因でこんなも差があるはずはない。何か他に原因があるはずだと。

それを解くキーになるようなことをドイツ人から質問されたことを覚えています。そのドイツ人は私に「日本に行ったことがあるのだが、なぜ日本人は一つのものに対してあんなに発展出来るんだ?ドイツには消しゴムといったら一つしかないのに、日本ではキン肉マンの消しゴム、匂いのする消しゴムとか色々あるし、飲み物もドイツにはオレンジジュースは一つしかないけど、日本は何種類ものオレンジジュースがある。なんでなのか?」と質問しました。その時は「日本は常に競争しているから」と答えたのですが、確かにドイツというか、ヨーロッパ中を周ってもジュースはコーラかスプライト、オランジーナぐらいのもので、あとは水か炭酸水、エナジードリンク。コンビニの飲料水の前で迷うようなことは無く、選択肢も物凄く狭い(ドイツはビールの種類は半端じゃないほどありますが笑)のに、日本は競うように1種類のものにたくさんのラベルがあり、更にそこから期間限定のものや数量限定のものなど色々と派生する。お菓子やなんかも日本は圧倒的に種類が多く、ギリギリまで発展させるものが多い。最近では日本のマスコミがそういったことを取り上げ世界と比較し「日本は凄い」と持ち上げる番組が目立っています。なぜここまで発展させなければいけないのか。

そもそもこの長い歴史の中で、なぜヨーロッパにはオランジーナ以外の炭酸オレンジジュースが次々と出てこないのか。私はそこに日本とヨーロッパの大きな違いの原因が隠れていると考えます。答えは簡単、オランジーナの対抗馬が出てくる必要が無いということです。日本人がなぜこれほどまでに新商品を開発し提供するのか。それはそういった競争をすることで発展していくという側面の裏に、そうしなければ企業として生き残れないという大きな理由が潜んでいるのです。それこそまさしく緊縮財政なのではなかろうか、そう思うのです。

前置きが非常に長くなりましたが、出だしの「水槽の~」はまさしくマクロ経済で見た大きな政府と小さな政府を例えています。

画像1


このグラフは2019年の主なOECD加盟国の、対GDPで比較した政府支出の量を示しています。(こちらからお借りしました。出典元はOECD.stat)上位にはフランス、北欧諸国等いわゆる「高福祉国家」が並んでいます。日本はOECD平均より下、アメリカよりちょっと上の、いわゆる下位にいます。左に行くほど水槽~で言えばたくさん餌を与えられている大きな政府の国、右は餌を常に取り合いしなくてはいけない小さな政府(新自由主義)の国です。要するに日本は世界第三位の経済大国でありながら、緊縮財政により民間競争を強いられている残念な国と言えるでしょう。

ここでもう一つ考えなくてはならないことは、高福祉国家は国民負担も非常に大きいということ。北欧を中心にヨーロッパ諸国は税金が高いことで有名ですが、ここで間違えてはいけないのは、税を財源にしているから高福祉国家が実現できるというミスリード。逆です。逆なんです。グラフを見ればそのとおり、国が政府支出で公共事業をしたり、公務員を雇ったりして大量に市中にお金を注いでいるから、市中にお金の量が増えすぎないよう貧富の差を調整しながら税金でお金を回収しているんです。税が財源ではない、財源は政府支出で、増えすぎた量が税として回収され、市中に再還流するだけです。たくさん税金を取れる国は、政府がたくさん国がお金を出している国なんです。当然なのです。そして日本は対外純資産世界一の国。簡単に言うと世界一のお金持ちです。そんな国でありながら政府支出はOECD諸国の平均以下、そしてここ数年増税が続いています。それは経済評論家や政治家が、上記のミスリードに引っかかっているからに他なりません。「税をたくさん集めてそれを財源に社会保障を充実させる」なんて言葉は完全に誤りなのです。

対外資産世界一の国が、OECD平均以下の政府支出。要は物凄く儲かっている会社で社用車はランボルギーニ、役員は全員エルメスのスーツ着ているのに、社員の給料は一向に上がらず、3万円のアパート生活を強いられている、そんな国なのです。

それから脱成長を唱える人々に一言。脱成長を実現するためには、これも政府支出が必要です。なぜなら行き過ぎた資本主義を作る原因、これも緊縮財政だからです。市中のお金が少ないため、民間業者は我先にと魚を捕るためあらゆる資源を使い、利益を貪ろうとする。常にお金の心配がつきまとうため、労働時間も長くなり、労働効率も悪くなる=生産過多に陥りやすくなります。

画像2

その証拠に上記グラフ。こちらからお借りした2014年のデータですが、労働時間が短いOECD加盟国上位3カ国であるフランス、フィンランド、ベルギーはそう、先程のグラフで見た政府支出上位3カ国なんです。他を見ても政府支出の量と、労働時間の長さはほぼ相関関係が一致しています(日本は更に諸問題により労働時間が長すぎますが)。要は政府支出が多ければ労働時間も短縮でき、無駄な競争も起こらず持続可能な社会も可能。脱成長=無駄なモノを買うなという主張はわかりますが、それはあくまでミクロでの話。マクロ経済では政府がお金を絞ることは、民間の競争を激化させることに繋がります。脱成長して資源を食い潰したくないなら、政府支出を増やし労働時間を短縮し、民間競争を緩和させること、これに尽きると思います。

ということで今回はOECD諸国の政府支出の割合を元に、日本が経済的にどのような状態であるか検証してみました。以前にも解説しましたが、市中のお金を増やすには、民間が銀行融資を受けるか、国が政府支出するかしかありません。デフレ=需要喪失している場合は、民間がお金を借りないので、政府支出一択です。こんな状況で規制緩和して公務員を削り、需要を全て民間に押し付けても、経済が回復するわけがないのです。財務省は今すぐ緊縮財政をやめて、北欧並みの政府支出をすべきです。そうすれば長いデフレスパイラルから抜け出すことが出来るでしょう。

Kazuma


おまけ

稀代の天才竹中平蔵先生の「財政破綻はカオス」
正しい質問を、間違った解答と詭弁で最後は若干焦りながらも無理矢理規制緩和に繋げる芸当。さすがすぎます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?