見出し画像

オンライン法要は万能か 住職の違った真意

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、法要や行事をインターネットで中継する寺院が増えている。テレビ会議システム「Zoom(ズーム)」を利用して法要の同時配信を始めた曹洞宗瑞岩寺(群馬県太田市、長谷川俊道住職)もその一つ。法事の新たな選択肢として複数のメディアが報じたが、長谷川住職の真意は〝ネット法要〟の普及ではなかったという。(安岡遥)

施主がスマホ撮影

 瑞岩寺の広い本堂には、長谷川住職と施主の姿のみ。粛々と読経する長谷川住職を、施主がスマートフォンで撮影し、「Zoom」を通じて配信する。自宅から見守る親族が、画面越しに手を合わせた。

 感染拡大の影響で、通常は月に10件ほどある法事の依頼が大幅に減少した。移動中の感染を懸念して遠方の親族を招くことができず、施主と2人だけの寂しい法事になることもあったという。

 長谷川住職は、普段から会員制交流サイト(SNS)で檀信徒と交流するなど、ネットに明るい。「遺族にとって法事は大切な節目。お寺に来られなくても参加できれば」との思いから「Zoom」の利用を提案し、これまで数件の法要をネット配信した。

 新型コロナウイルス感染症の有効な治療法の確立には1年以上を要するといわれる。長谷川住職は「お寺にとっても1~2年は厳しい状況が続く」と予測し、「宗派や政府の対応を待っていては遅い。さまざまなツールを駆使し、臨機応変に対応すべきだ」と話す。

「仏さまに失礼では」

 長谷川住職は、コロナ禍の終息後も、離郷檀信徒や入院中の高齢者を対象に「Zoom」の活用を検討している。「親族全員が地元で暮らしていた時代と違い、今は法事で集まるのも容易ではない。お寺に来られない事情のある檀信徒の選択肢になれば」。施主からの希望があれば、今後も同時配信を受け付ける見通しだ。

 だが、課題は多い。スマートフォンやパソコンに不慣れな高齢者にとっては、「Zoom」のハードルは高い。「大切な法要を撮影で済ませるなど、仏さまに失礼ではないか」と戸惑いの声もあるという。

 対面の法要でしか得られない経験もある。「遺族の悲しみは、体を動かすことで少しずつ癒やされていく」。供花や供物を買いに出掛け、お寺に足を運ぶという行為を促せば、法要もグリーフ(悲嘆)ケアになる。長谷川住職も「私自身、遺族とじかに顔を合わせることで、心が通じ合う」と語る。

「普及させたくない」

 ネット法要は選択肢を増やすが、実際に集まって行う法要の良さはなくなる。長谷川住職は「現状ではネット法要が最善だが、いつでも誰にでも通用する万能の策ではない。選択肢の一つではあっても、普及させたいという思いは一切ない」と断言する。

 その上で、コロナ禍の終息後には「法要を行う必要があるのか、そもそも宗教の存在意義は何なのか、ということが改めて問われる」と指摘。「諸行無常というお釈迦さまの教え通り、予想すらしなかった事態が今後も必ず起こる。宗教者に必要なのは、そのときにできる最善のことを選択する力だ」と強調した。

 私たちが週2回発行している宗教専門紙「文化時報」の中から、2020年5月2日号に掲載された記事を再構成しました。皆さまの「スキ」と「フォロー」をお待ちしております。
 お問い合わせ・ご購読のお申し込みは、文化時報ホームページまで。http://bunkajiho.co.jp/contact.html


いいなと思ったら応援しよう!

文化時報社
サポートをいただければ、より充実した新聞記事をお届けできます。よろしくお願いいたします<m(__)m>