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【能登半島地震】〈社説〉SNSの妄信と闘え

※文化時報2024年2月23日号の掲載記事です。写真は1月29日撮影の珠洲市大谷地区。

 情報は役に立つこともあれば、人を傷つけることもある。復旧の緒に就いた能登半島地震で、宗教を大切にする私たちが引き続き注意しなければならないのは、会員制交流サイト(SNS)との向き合い方である。

 地震発生後、短文投稿サイト「X(旧ツイッター)」では多くのデマが拡散された。家族が閉じ込められたという虚偽の救助要請が流され、善意の第三者が消防に連絡した例もあった。本当に助けを必要としていた人の救助を妨げた可能性があり、悪質な投稿だ。

 災害時には、信頼できる報道機関から情報を入手することが、平時以上に欠かせない。それでも、普段からテレビや新聞に親しんでいない人々は、SNSを頼りにする。発生直後の混乱期なら、なおさらである。SNSを見ないようにと呼び掛けるだけでは不十分だ。

 善意の第三者といえば聞こえはいいが、真偽をよく吟味せず不確かな情報を広めることは、結果としてデマの拡散に加担することになりかねない。悪意をもって発信する人々から、善意が利用されることのないよう心掛けたい。

 木村玲欧・兵庫県立大学教授(防災心理学)は1月19日に日本記者クラブで行った会見で、よかれと思って拡散することを「よかれ拡散」と呼び、「自分は加担しないという姿勢が大切になる」と強調した。一人一人が、発信源の検証や報道・公式ホームページとの照合など、情報を適切に扱える「情報リテラシー」を身に付ける必要がある。

 信じる人の気が知れない、などと簡単に片づけられる問題ではないことにも留意したい。

 「真理の錯誤効果」という心理学用語がある。不正確な情報でも、繰り返されれば、あたかも真実であるかのように錯覚してしまうという心理だ。元から知っている情報を正しいと思い込むことも含まれる。

 例えば、マハトマ・ガンディーが言ったと紹介されることの多い「明日死ぬかのように生きろ。永遠に生きるかのように学べ」は、本人の言葉ではない。少し調べれば分かることだが、それでもガンディーの名言として人口に膾炙(かいしゃ)している。

 総務省は、能登半島地震におけるネット上の真偽不明な情報の例として、2次元コードを添付して募金・寄付金を求める投稿や、不審者・不審車両への注意を促す投稿などを挙げている。復旧・復興期に入った今こそ注意すべき内容だろう。

 気がかりなのは「今回の地震は人工地震だ」といった荒唐無稽な偽情報が、SNSを駆け巡ったことだ。陰謀論を信じ込む人が一定数おり、通常のコミュニケーションが取れなくなる事態は、新型コロナウイルスの感染拡大期にも起きた。

 社会的に信用されている宗教者は、自分がこうした情報に飛びつかないことはもちろん、誰もが妄信に陥りやすいのだと自覚することが重要だ。

 その上で、真実らしく見える情報でもうのみにせず、自分で考えるという習慣を、檀家や信者らに広めるべきだ。たとえ面倒で遠回りに見えても、それが健全なSNS空間をつくることにつながる。

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