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檸檬と火起こしと走れ謙也

火を操れる人間は、この火で文明を作った。聖なる火は、全員に生きる勇気と生命の躍動を与える。人間には、真っ赤な血が流れている。まるで、その血を奮い立たせるように火は我々にやる気と底力を与えれくれると謙也は思った。

世界三大宗教である、キリスト教、イスラム教、仏教に大きな影響を与えたと言われるゾロアスター教。イラン・ヤズドの拝火神殿で、聖別された火を管理する神官。ゾロアスター教は善の象徴として火を尊び、信者は火に向かって礼拝を捧げると言われていた。聖火や拝火など火は、神に近い存在だとなのかもしれない。ガスのスイッチをひねれば燃えますがとふと思った謙也だが、「それを言っちゃあ、お終いよ。」と寅さんのように突っ込んだ。一人突っ込みだ。

昨日のことだが、レモンの木をホームセンター「島忠」に行ったが「数本あったのですが、売れてしまって在庫が無くなってしまいました」と担当の中年おばさんに言われた。1400円で売られていたという。「それ前後でいいから取り寄せて下さい」と予約した。「5800円の苗しかないので、とりあえず、取り寄せました」と例のおばさんから電話があった。礼を言って見に行くと連絡した。色々悩んだが結局、断りの電話を入れた。むしろ、お礼を言われた。普通、断りの連絡は来ないらしい。

断った矢先、「くろがねや」と言う近くのホームセンターの近くを散歩していた。普段殆ど立ち寄らないお店だが、何かひき寄せられるように駐車場を超えて、中に入った。花や野菜などの苗が売っていた。しかも種類も多いし、安い。なんだか、びっくり、「ゼンマイや野草、山の草花もあったのよ。なんか感動してしまう」と一緒に行った優子が乾燥していたのに驚いた。

「植木はあるんですか」とレジ係の店員に尋ねたら、石油タンクに遮られた奥にあった。しかも果樹の植木が多い。蜜柑、葡萄、桃、りんご、かきなどに混じって、微かに、レモンがあった。残り2本だけだった。

980円と書いてあった。それを急いで買った。急ぎ必要ないのだが、早く買わなきゃと慌てるものだ。奇跡が起こった。さっそく、持ち帰った。そして謙也は、優子とスコップで穴を堀り、裏庭に植えた。「なんだか嬉しい。安全で、安心出来るレモンサワーが飲める。ちゃんと実が成ったらの話だが」と妙にはしゃいでいる謙也だった。「レモンが成るには、3年待たなければ成らないですよ」と店員に言われていた。

そう言えば、元文化放送のアナウンサーで、深夜放送の番組では「レモンちゃん」と呼ばれ、ラジオのパーソナリティとして大人気だった落合恵子。謙也は彼女のファンだけど、それを意識したわけじゃない。今や作家の落合恵子は、子どもの絵本の専門店「クレヨンハウス」をオープンしたのは1976年。子どもたちが絵本の世界で遊び、大人も一緒に語って学び合える場にと、女性の生き方や食、環境などにもテーマを広げてきたそうだ。

今は、不正や隠蔽など世の中の悪が露呈している中で、絵本という世界を作った落合恵子は、尊敬に値する。悪の小説を読んだ謙也は、太宰治の代表作「走れメロス」を読んでいなかったようだ。今のタイミングで読むと、ミャンマーやロシア、中共と人間を虫けらのように殺す政権の長は、そもそも、狂った悪魔だと謙也は思う。他の先進国だって、似たような感じだろうが、メロスのような純粋無垢な人間が居ても、どうにもならないもどかしさが残る。「走れメロス」は、その難題を突破した話だ。悪魔を人間にもどす。それは、不可能だろうが、世界中に蔓延る悪魔たちを人間にもどせたらいいな、と思ってしまうような話だ。

レモンの木を欲しくなったのも、心を浄化したいと思っているからだと思った。腐敗しきった世の中だからこそ、謙也は綺麗な心を持ち続けいていたいと切に思った。悪霊の住みついた世の中に、レモンのなる頃には、一筋の光が見えそうな気がする。それほど腐った世の中だが、生きてらりゃいいことがあるさと謙也は楽天的だあった。


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