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少し不安、されどファニー

どくさいスイッチがほしい。

僕しかいない世界と、僕だけいない世界を試してみたい。

仕事もない、縛りもない、妨げられない、電気も電車も娯楽もない、綺麗で真っ暗闇な世界。誰もやってこない火災報知器の赤い光を点滅させて優雅灯。銀行のお金を燃やして成金ごっこ。
くだらないと、消えたあの子は笑っていますか。どうでしょうか。どうでもいいですね。こんな世界に勝ちなどないから。駆逐されて朽ちるだけのビル群を見て味も分からない最高級なシャンパンで乾杯。大不正かい。

反転。

いつも通り正常に回る世界。電気はあるし電車も動く。僕のワンルームは僕以外の誰かが住んでいて代わりに灯りを点けてくれるし、いつもの席は僅かな空白もなく埋まる。
結局歯車が1つ抜け落ちたくらいじゃ変わらない。代替が効くから大体でいい。僕が殺した人だって僕がいなくてもきっと誰かが殺してた。だから心配はいらない。呼吸を止めてさらりと消えようか。僕の為した全てを1つずつカット&ペーストで別の誰かに押し付ける歴史修正。
家族に、同級生に、先輩に、後輩に、届けるギフト。安堵。ベストなんだと言い聞かせて適宜終生。山を少しずつ切り崩してどこまでが山だと言い張れるか。全部棄てても僕は僕でいられるのか。んなわけないと上書き保存。パラドクスに背を向けてボタンを押下。何か1つ間違いがあって残滓が一粒でもあればいいのになと笑う。
不正解、でいい。

この問いに解はない。ifの詮無き百鬼夜行。

だけどもし、皆がいなくなったとしても、記憶に残していたい。無かったことにはしたくない。確かな重み。無形の感傷。否定の末の肯定。故に、ここにいる無名。見えなくなれば簡単に無かったことになる風前の灯火。あってないような柵。揺蕩う枯葉のようにただそこにある何か。期待はしてない、今までは。

目に焼き付けろ、大衆。

忘れさせてなんてやるものか。

残れ、遺れ。

何度でも叫び続けるから。声が反響することを望んだ。

3/16 霜村吹空

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