まるかみふるき|読書とエッセイ

社会人。労働の余暇に、読書感想文とエッセイを投稿しています。

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最近の記事

孤独を癒すために高い塔に登る

時刻は午前2時、私は卒業論文を書くために資料を机の上に並べ、キーボードを叩いていた。 この研究に先行きがあるのか、それはわからない。どうせたかが卒論だ。大学院に進むわけでもないのだし、ただ教授が考えるボーダーラインさえ越えれば、そこから先のことには意味はない。 そのことが最もモチベーションを奪っているのかもしれない。 教授はこの広大な森を歩き、成果を持ち帰ってこいと言う。私たちは貧弱な装備で無闇に歩き回り、訳のわからないルートをせっせと作っては地図に起こし、その先に何もないこ

    • 何をしても「良い」とも「悪い」とも評価されない職場

      20代も終わろうとしています。 目下最大の悩みは「今の仕事を続けてていいのかな?」という問いです。 なぜそのような問いが生じるのか 今の会社に勤めて7年が経過しました。 その間、私は私がしたことに対して、一度も評価を得たことがありません。 「評価を得たことがない」というのは、「ダメだ」とか「よくない」とかいう意味ではありません。良いとも悪いとも評価されないのです。評価を下す仕組みがないのです。 私は私なりに会社にとって良いことをしてきたと思っています。例えば、担当事業の

      • 「私ブスだから」と話す女性、不幸を列挙するSNSアカウント

        「私ブスだから」と話した女性 その人は「自分に自信が無い」と常々口にしていた。 正直、一緒にいてちょっとうんざりするくらいだった。二言目には「私なんて……」と自分のネガティブな側面しか目に入らないようなことを言い、私や周囲の人が肯定的なことを言っても彼女の耳にはどうやら入っていかないようだった。 ある時雑談していると「私ブスだから」家の外に出るのが嫌いだと彼女が話したので、私は「あなたは全然ブスじゃないと思うけど、自分では自分のことブスだと思うのか」と訊いた。 すると彼女

        • タリーズでフラれた一週間後の話

          地の底でかろうじて生きる 鬱的な気分に襲われ始めて以降、特に辛いのが朝目が覚めた時でした。目が覚めて、また眠りにつくまでの長い長い、意識のある時間が辛いのです。 ドラッグの依存症はこのようなものかもしれない、とこの時考えていました。 スマホの通知、アップルウォッチの振動、彼女を視界にとらえること、彼女の声を耳で聞くこと、あらゆる彼女にまつわる刺激に対し、私の脳は脳内麻薬的な強烈な快感を覚え、パブロフの犬よろしく学習してしまったのです。 そしてそれが完全に遮断された後の感

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        • 読書
          2本
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        • エッセイ
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        記事

          タリーズでフラれた翌日の話

          この記事はタリーズでフラれた話の続きになります。 突然泣き出すようになる 彼女にフラれたその日、私は落ち込むどころかむしろテンションがハイになっていました。タリーズを去り、一人になった後も、どこか非現実的な気分で車を運転し、帰路につきました。 自宅に車を停めた後、私はそのまま車の中でSNSのボイスチャットを始めました。匿名で、誰でも出入り可能な通話アプリとでも思ってください。 そこで「フラれたばかりの男」みたいなタイトルの部屋を作り、ことの顛末を話しました。とにかくすぐ

          タリーズでフラれた翌日の話

          タリーズでフラれた話

          当日 2023年12月12日(火)、私は彼女に別れ話を切り出されました。場所はタリーズで、時刻は19時前後。仕事帰りに会う約束をしていたのでした。 思い返してみれば、店の前で彼女と顔を合わせた瞬間から、彼女のテンションは低く、元気がない様子でした。私は仕事で疲れているのかな、というくらいにしか思いませんでした。 席についてコーヒーを飲みながら話しましたが、彼女は言葉少なで、なんとなく間がもたない息苦しさを感じました。別に、いつも元気におしゃべりをしてないといないというわけで

          どうせ死ぬ三人#042【水野氏ゲスト回】を聴いて思うこと。あるいは考えること

          これは、Spotifyで配信されているPodcast「どうせ死ぬ三人」#042優秀なAIに仕事を奪われた三人【四人目:水野太貴氏】を聴いた感想である。 先に申し上げておくと僕は「ゆる言語学ラジオ」のTシャツも「どうせ死ぬ三人」のTシャツも購入しているくらいには両番組及び両番組の出演者が好きで応援している。 通勤に片道1時間程かかる生活を送っているので、通勤中をどう楽しく過ごせるかがQOLに非常に大きく関わっている。そのような中で、これらの素晴らしいポッドキャスト番組との出会

          どうせ死ぬ三人#042【水野氏ゲスト回】を聴いて思うこと。あるいは考えること

          現代の新しい呪いの言葉「自分の機嫌は自分で取れ」について思うこと

          この言葉には、他者を突き放す冷たさを僕は感じる。自分の進む道の先にいて邪魔だと思った人をなんの躊躇もなくどんっと突き飛ばすような。 とはいえ、この言葉に共感できないわけではない。 確かに、シチュエーションを考えると同意したくなることもある。 例えば、 こんな場面を想像すると、よくわかる意見だなあと思う。 同じようなシチュエーションは身に覚えがある。いつもの会話のつもりで冗談を言ったら、ちょっとキレられたりとか、そんなバリエーションもある。それであっ、こいつ今日機嫌悪いじゃ

          現代の新しい呪いの言葉「自分の機嫌は自分で取れ」について思うこと

          文章を書く人には絶対におすすめしたい本 『言語表現法講義』加藤典洋

          僕が映画館に行ったり、本を開いたりするのは、誰かに僕の頬を引っ叩いたり、頭をぶん殴ったりして欲しいからだ。 普段の生活を送る中で得られる視野は恐ろしく狭い。狭いということにすら気がつけない。 物語や知識は、全然違う世界を見せてくれる。ここでいう「違う世界」というのは、フィクションとか、いわゆる現実を忘れさせてくれる幻想というような意味ではない。まさに自分が生きている世界であるにも関わらず、そのことに気づいていない、そんな世界のことを指す。 日々を生きる中で感じることは、そ

          文章を書く人には絶対におすすめしたい本 『言語表現法講義』加藤典洋

          批判的な考えや意見はスラスラ出てくる!

          批判は簡単に出てくるぜ noteやtwitterに文章を投稿するとき、否定的なことはできるだけ言うまい、という信念を持っている(あるいは持っていた(いや、元々別にnoteでもtwitterでも発信する頻度は高くないのだが……))。 なぜそんな信念を抱いているかというと、それを目にした他人を傷つけたり不快な思いをさせたりする可能性が高いからだ。 もちろん、肯定的な意見も誰かを不快にさせることはある。例えば、その人が大嫌いな人を僕が褒める文章を書いているのを目にしたら、「な

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          読書記録『異常(アノマリー)』エルヴェ・ル・テリエ

          はじめに こんにちは、まるかみふるきと申します。 今日はフランスで110万部以上売れた大ヒット小説、『異常(アノマリー)』について語ります。 はじめに申し上げておくと、筆者は読解力不足や器量の小ささのせいで、この作品を楽しく読むことができませんでした。従って以下に記す文章は、この作品をすでに読んでおり、しかもこの作品が好きだという方には不愉快なものになる可能性が高いため、その点を大目に見ていただければ幸いです。 また、未読の方へ、当記事には作品のネタバレが含まれています

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          アンディ・ウィアー『火星の人』に見る人間讃歌

          ※『火星の人』および映画『オデッセイ』のネタバレを含みます。 つい先日、アリストテレスを読む!と意気込んでおきながら、アンディ・ウィアーの『火星の人』を読んでしまった。 もちろん『ニコマコス倫理学』は並行的に読み進めているのだが。 果たして一体何故なのか、「これを読まなきゃ」と思えば思うほどよそ見をして他の本に手を伸ばしてしまう。 しかもこの状況下での読書がよく進むこと進むこと。脇道読書が一番集中できるのは実に不思議だ。 『火星の人』と言えば、2015年にリドリー・スコ

          アンディ・ウィアー『火星の人』に見る人間讃歌

          いつか読もうと思ってずっと読まずにいた本を読んでみる

          ついに、と言うべきか、アリストテレスの『ニコマコス倫理学』を読もうと思っている。 そういうわけで今回は「読もう!」と思う気持ちをnoteにしたためている。いいからさっさと読めよ、と言いたくなるが、「読みたいと思っているのに読んでない状態」について言語化しておきたいと思ったのだ。 難しそうだなあというイメージと、本の分厚さからこれまで読まずにきた。 手にとってチラッと目を通したことはあるが、すぐに読むのをやめてしまった。文字を目で追っても意味が入ってこない。難しげな本を読む

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          遠回りな人生とファスト教養

          今年の夏季休暇以降、あまり本を読めていない。 時間がないわけではないが時間があるだけでは本は読めない。 読んでないことを見つめていると気が滅入るので、逆に今年は何を読んだかなあと振り返ってみると、 『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬 『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子 『クララとお日さま』カズオ・イシグロ 『しあわせの書』泡坂妻夫 『しあわせの理由』グレッグ・イーガン 『いつかたこぶねになる日:漢詩の手帖』小津夜景 今年読んだのはこのくらい。他にもちょっとある

          遠回りな人生とファスト教養

          今日も待つばかり

          10月29日土曜日、鼻にある大きなホクロを取るために美容外科を訪れた。 ネットで予約したのは15時。 早速余談。受付のお姉さんも看護師(?)のお姉さんもみんな物凄く美人に見えた。もちろんマスクをしていたから、顔の下半分は見えなかったけれど、僕が感じたのはパーツの良し悪しではなくて全身の整えられ方、気の配られ方、要は容姿に対するこだわりの強さのようなものだ。そりゃあ、美容外科で働いているんだからとは思うけど。 髪型からネイルから、隙がなく作り込まれていて、会社にいる女性とか、

          ホテルで1人で読書する。〜貴族的インプット奴隷合宿〜

          山の上ホテルは、東京都神田にあるクラシックホテル。 文豪たちに愛されたホテルとして知られ、川端康成や三島由紀夫など多くの作家が「缶詰」になって執筆を行なっていたという。 日々の生活に疲弊しきっていた私はこの夏、夏季休暇を利用して山の上ホテルに宿泊し、ただ読書するだけの時間を過ごすことにした。 観光の拠点としてではなく、ホテルでの宿泊自体を目的とした1泊2日の旅行。 一部の界隈では、インプット奴隷合宿とも呼ぶ。 山の上ホテルでのインプット奴隷合宿について記述する前に、過去

          ホテルで1人で読書する。〜貴族的インプット奴隷合宿〜