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わが家の猫生活【その六十三/茶畑の向こうから】

母娘猫は、散歩に出かけたり庭や倉庫で昼寝したり、こちらもマイペースな暮らしぶりだった。

狩り上手なハナちゃんは、裏の畑や林に遊びに行ってはいろんなものを持ち帰り、狩りの成果を見せびらかすという猫本来の習慣を身に付けていた。こちらはちっとも嬉しくないよ……。でも猫だからね。仕方ないか。ある時期からなぜかダミ声になってしまったけど、顔も歩き方も性格も、父猫のモモちゃんにそっくりなまま歳を取ったハナちゃん。

これまでにも書いてきた通り、モモちゃんは相当なマザコンで、実母(?)のナケちゃんが交通事故で天にのぼってからは特に、私の母にべったり。縄張りパトロールで不在にしていても、庭や畑で母の声がすればどこからともなく帰ってきて、「ばあちゃん!」「ばあちゃん!」と大喜びでスリスリ。私にすり寄るスリスリ具合と明らかに違っていた。そんな彼は、軽トラックの音や話し声など、母を敏感に察知しては帰ってくるのだった。

これはハナちゃんも同様で、「ハナちゃーーん」と庭先から母が呼べば、それに応えて「ガオーーン!」と鳴き、お尻をふりふりしながら帰ってきた。

どの猫さまも、ここに帰ってくれば、ごはんもある、寝床もある、撫でて遊んでくれる誰かがいると分かっていたからだ。実際は、人間が遊んでもらってるっていう……。

ハナちゃんは目の前の茶畑から帰ってくる確率が高く、そういうところもモモちゃんと同じだった。茶畑は道を挟んだ向こう側。滅多に車が通らない限界集落とはいえ、猫さまがそこを横断してご帰還の際は少々ひやりとする。

茶畑でごろんごろんと遊んだのか、時折落葉や枯草を付けたまま。これが山に入ったのなら、「ぬすっと」というくっつく植物をたくさんつけて帰るからすぐにバレる。

「あっ、ハナちゃん! 山に行ったの? あんまり遠くに行ったらダメじゃろ!」と母に叱られながらも、「ガオーーーン!」(おそらく、わかった、わかった。で、ごはんは? ごはんある? の意味)と鳴き、足もとでスリスリしまくる。

母猫にごはんを横取りされることが多かったハナちゃん。時間差でごはんを食べるようになり、ずいぶん大きくなった。骨格がしっかりしていたからか、はじめましての人には大抵オスと間違えられた(苦笑)。他の猫さまより靴下は長めで、白い部分も小ぎれい。

髭がしんなりし始めて、毛並みも悪くなり始めたのはいつ頃からだったか。元の飼い主・隣人のヒロさんが亡くなってから一緒に暮らし始めたので年齢がよくわからないけれど、わが家に来て10年、いや11年経った頃からか?

「最近、ハナちゃんがごはんを食べない」と心配する姉に、「キョンちゃんに、またごはんをぶん取られて気落ちしてるんじゃないの?」と私。一喜一憂して、翌々日ぐらいには「魚あげたら食べた~!」とホッとして、また電話してくる。

そんな風に、ハナちゃんの老いを実感することが増えていった。「でもキョンちゃんの方が年齢は上だよね、母親だから」と私が言うと、姉は「キョンちゃんは性格がずる賢いから長生きするはず」と言う。いやそれ、何の根拠?と思ったが(笑)、家族はずる賢くてしぶとさのある母猫より、喧嘩もしない穏やかな娘猫の心配をしていた。(つづく)


写真は、裏戸が開いているとすかさず部屋に入ってくるハナちゃん。この後、ライちゃんに火を噴かれて退散……。

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