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父が死んだ日からの悲喜こもごも③/喪主の決定と弔辞するする問題

大変おこがましいけれど、登場人物は父(橋爪功さん)、母(白石加代子さん)、姉(小泉今日子さん)、叔母(高畑淳子さん)、親戚の夫婦(北村有起哉さん、坂井真紀さん)、兄(大泉洋さん)、私(水野美紀さん)の超豪華メンバーで変換&お送りしております。ドラマ脳で、ほんとすみません!

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1、喪主を務めるのは誰だ

通夜・葬儀、初七日など、ほぼ全般にわたって、何かと挨拶してまわる機会が多いのが喪主。特に葬儀の際には、参列者の前で大抵はマイク越しに挨拶しなければならない。喪主は、故人が高齢だった場合、配偶者よりもその長男が務めるのが一般的と考えられる。しかしわが家のお兄ちゃんは、そう一筋縄ではいかない。

親戚中が「〇〇くん(兄)がすればいいじゃない」と母にアドバイスしたが、彼女は悩んだ末に「じゃあ、お姉ちゃんに」と、一度は姉に頼んだ。長子の姉は長男不在で家のことを任された挙句に、「人前で挨拶するのまで私にやれと!?」と断固拒否。「じゃあ、あんたする?」と、母は私に言ってきた。

ちょっと、ちょっと、そんな感じで決めていいの?

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遠く遠く離れた街で、兄は暮らしている。小学3年生ぐらいまでは、明るくかわいい男の子だったのだが、その後いろいろあり、人づきあいが得意ではなくなってしまった。ずっと実家とは距離を取り、家を出てから法事以外は帰ってきていない。

そんな事情があり、母は彼に喪主を頼むことを躊躇した。姉は「大人なんだから、挨拶ぐらいできるでしょうよ」と言ったけれど、私はあのお兄ちゃんが大勢の前で挨拶するイメージが全然わかなかった。それに、彼のことだから遠いのにJRで帰ってくるに違いない。彼は飛行機が苦手、そして鉄道が好きだから。誰に似たのかマイペース。通夜、いやもしかすると葬儀にすらも間に合うのか、私は少し不安だった。

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少しだけ幼い頃の話を。

兄は小学校の中学年になると、急に背が伸びて少し猫背になった。そのため、竹刀を持ち歩いていた担任の女性に、全校集会の都度、全生徒の前で呼び出されて「背中が曲がっている。まっすぐしろ!(←大袈裟ではなく、この口調です)」と何度も竹刀で叩かれた。あれは酷かった。

あそこまで毎回やられるのはどうなのかと思い、珍しく私は母にその出来事を話した。すると彼女は「恥だ。〇〇くん(兄の同級生)は背筋もピンとしているのに!」と言い出し、帰って来た彼を怒鳴りはじめたのだ。後で「余計な話すんな」と、今度は私がお兄ちゃんにやられるというおまけもついてきて、踏んだり蹴ったりの結果に(苦笑)。

算数や野球より絵や音楽が好きだった彼は、母の思い通りにはならなかった。頑張って2番を取れば「なぜ1番じゃないのか?」と怒られ(平成の世なら「2番じゃダメなんですか?」って言い返して笑いが取れたのに)、「〇〇くんは勉強も1番で家の手伝いもやるというのに、なぜお前はできない?」などと他人と毎度比べられるので、母親の支配から逃げ続けたのは当然といえば当然だ。

2、身内だけど居づらい

兄が喪主を務めることへの不安が拭えない母は、結果的に自分が喪主を務めると宣言した。しかし喪主挨拶の文章が何も浮かばないと言う。「あんた、ほら、それで探して書いて」とスマホを指さしながら、彼女は私に言った。

そんなわけで、父が死んだ日の夜から挨拶の文章を短く考えまとめ、翌朝までに母に渡した。とにかく恥ずかしくないと彼女が思うような文章を。

母は合間をみて挨拶の練習をした。私はというと、通夜・葬儀の準備から終わるまで、周りに「街に出た人は本当に何も知らないのねえ」「気が利かないねえ、街に出た人は」という目で見られていることをヒシヒシと感じながら、「はいはい、すみませんね、街に出て」と心の中で呟き続けていた。IターンよりUターンの方が暮らしづらいと友達から聞くのは、きっとこういうことなのだと思った。

3、弔辞するする問題

さて、喪主問題がどうにか解決した(と思いたい)ところで、弔辞を誰に頼むかがまだ残っていた。これも厄介な問題だ。父が生前親しくしていた人の中で、父の人となりのわかる思い出話を数分で話せる人を探し、承諾を得なければならないから。

まず、近所で一番仲が良く、集落のまとめ役でもあるAさんにお願いしてみた。彼なら人前で話すことにも慣れているし、引き受けてくれると思ったが、断られてしまった。実は、父には昔から一緒に遊びに出かける幼馴染の仲間がいたため、「そちらで弔辞を読みたい人がいるだろうから。それに自分は彼らより年下で、快く思わない人がいるかも」というのが理由だった。ただし「彼らが断ったら、ぜひやらせてほしい」と、Aさんは言った。

ところが母は、困ったことになったと言いはじめた。

「なんで? 幼馴染の中で一番仲良しだった人に頼めばいいんじゃないの?」と私が尋ねると、「だって、お父さんと一番仲良しだったBさんは、個人的にお願いしたら多分断るもん」と言う。そして「その仲間の中でCさんが一番年上だから、最初にCさんにお願いしないとマズイって、Bさん遠慮して絶対言うわ」と続けた。

出た! また年功序列!!

さらに、「だけどCさんはそういう場で話をしたことがほとんどなくて、多分弔辞もうまくいかない。それは幼馴染の全員がわかっているはず」と言うのだ。

それなら、なおさらBさんにお願いしたいじゃないの。 何だ、この無限の遠慮ループは(笑)。

「でも待って! Cさんが断れば、Bさんが引き受けてくれるんじゃないの? そもそもCさんが人前で話すの苦手なら、断るでしょうよ」と私が楽観的に言い返すと、母がため息をついて「絶対Cさん断らんわ。できないことでも“私がやりましょう”って真っ先に言う人だから……」と、うな垂れた。え? なんでも“するする”って言う人なんているの!? 

仕事でも人選は難しいけれど、まさかこんなところで人選に悩むことになろうとは。戸惑うことばかりだった。

そしてこれが、思いもかけない出来事に発展するのだった。(つづく)

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次回は、「いざ、斎場へ」「お兄ちゃんが帰ってこない」などをお送りする予定です。


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