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文の文 1

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文というハンドルネーム、さわむら蛍というペンネームで書いていた作文をブラッシュアップしてまとめています。
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2021年8月の記事一覧

go ahead

go ahead

これまでになんどか手術をした。盲腸もあるが、大きいのは二回。下顎にできた悪性腫瘍と、すべり症を伴う腰部脊柱管狭窄症だ。

手術前、腰痛を抱えた日々の記憶。

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第三火曜日の夜は骨董の教室で.青柳恵介氏が語る
骨董にまつわる楽しいお話を楽しみにしている。

いつも、友人ふたりと日暮里駅で待ち合わせて夕食を済ませてから、教室である谷中の韋駄天さんへむかう。

昨晩もそうだった。日暮里駅前の

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嫁いらず

嫁いらず

NHKの番組、新日本紀行は、昔と今がスライドする番組だ。それを見たときのこと。

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画面に岡山県にある「嫁いらず観音」というところにお参りする大勢のひとびとが映る。嫁いらず、という言葉にひっかかって見入る。

縁日の日、今も昔も、お年寄りがぞろぞろと集まってくる。地元の人々がその接待をしている。

その観音さまの、嫁いらずというのは、嫁がいらないというのではない。嫁の手を煩わすことなく

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日々是好日

日々是好日

そんな日があり、今がある。

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豆腐の味噌汁
小松菜の辛子和え
アジフライ、千切りキャベツ添え
フライドポテト
オニオンスライスサラダ

今日の夕飯
息子2といっしょに作った。
洗米から始まって盛り付けまで。
「中高に」なんて教えたり。

好き嫌いが多くて
味つけが濃いひとなので
どうなることやらと思っていたら
案の定、辛子たっぷり。
味噌汁のだしも
鰹節のおごったものになった。
アジ

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別れ好き

別れ好き

ニガクオモイダスコトのあとのこと。

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エッセイのカルチャーでご一緒した友人がいる。引越ししたのだと電話をもらった。

あたしが嫌われたひとは、共通の友人だったので、一応付き合いが終わった旨と顛末を報告した。

告げ口しているつもりはなかったのだが、それでも話はあたしサイドからの一方的なものとなる。逆から聞けばまた違った話になるのだろうが、少なくともこちらからはこう見えたというしかない

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ニガクオモイダスコト

ニガクオモイダスコト

巻き戻せない時間の中にこんなこともあったな、と思い出す。決して笑顔でなく、思い出す。

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あたしはひとつまずい小説を書きました。それはひとりのおんなのひとを念頭において書いたものでした。

作り話をどんなふうに書けばいいのかわからなくて、そのひとを手がかり足がかりにして物語ってみようと思ったのです。

そのひとの人間性とか内面の問題ではなく、人物の見た目や状況とひとつの出会いを拝借した

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結晶する時間

結晶する時間

ときどき時間は結晶するように思う。

全てがというのではなく、ある一点できらりと輝く。それで終わるものでもなく、それらが集まってもっと大きな結晶になっていくこともある。

幼子が自転車に補助なしで乗れるようになったとき、なんども転んだこと、親に後押ししてもらったことなど、それまでに汗し涙し努力した時間が結晶する。その後も自転車は道を進み、幼子の世界をはるか遠くまで広げる。広がった世界で幼子の時間は

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陰陽師かあ。

陰陽師かあ。

難しいけど、好きな漫画だったな。晴明神社はうちの近くにある。ご縁あるね。

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岡野玲子さんの「陰陽師」12.13巻を買った。ようやく、だ。で、10巻から読み直す。はじめて読むような気分になってしまう。

そうしてやっと12巻を開く。

それにしても、美しい。そしていよいよ難しい。

陰陽師なるものに必要な知識、美しい数字の羅列
天と地の成り立ちの理、平安という時代背景と人間関係、そうし

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商店街を行く❣️

商店街を行く❣️

安売りの広告が入っていたので電車に乗って隣町の商店街へ行った。取り立ててなんということはない古い商店街が長く続いていた。

そこには商いの垣根を越えない店が並んでいた。花屋は花を売り、靴屋は靴を売っていた。

そう間口の広くない古い一軒家が続いて、木の骨組みの上にトタン屋根が乗ったアーケードも続く。向かい側の一軒家の二階の窓に付けられた手すりのデザインが古めかしくて、ほっこりと懐かしい。

定休日

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京都で会ったひとたちのこと 6

京都で会ったひとたちのこと 6

最終回

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クラス会は喫茶店を出て、解散になった。と、ここまで書いてなんだか浮かない気分になっている。続きの話もあるのに、なんだか書きたくない。

以前小学校の同窓会があったときはあんなにいっぱい書いたのに.今回はなぜこんなふうなんだろう、と考えた。

ともに過ごした時間の濃度が違うのだろうなと思う。

おばさんになればその場を盛り上げたり、笑いを取ったりすることはできるし、思いの深さ

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京都で会ったひとたちのこと 5

京都で会ったひとたちのこと 5

杜撰な計画といわれた所以は、そのあとの計画を全くしていないからだ。ホテルやレストランで会食だとか大広間で宴会とかいうふうなことを普通は用意すべきものなのだ。

そうはいっても呼びかけ人となったわたしと友人が一応ここで会食をっと算段していたホテルがあったのだが、そこが思いがけず廃業していて、ご破算になってしまったのだ。

そこで「無常ということ」をなんとなく感じてしまったわたしと友人は、計画しないで

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京都で会ったひとたちのこと 4

京都で会ったひとたちのこと 4

自己紹介をした。みな結婚しているので、苗字が変わっている。ありふれた名前、田中とか山田とか山本(ふたりもいた)だとかになった人もいれば、一族だけしかいないというレアな苗字のひともいた。

飾ることなく、卑下することもなく、ちょっと苦笑交じりに語られるそれぞれの言葉を、語られたことと語られないことを計りながら聞いた。

人生はいいことばかりではない、と知ってみればなんとなくわかってしまうこともある。

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京都で会ったひとたちのこと 3

京都で会ったひとたちのこと 3

つづき

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あたしは一応このたびのクラス会の呼びかけ人のひとりである。大学時代の友人ががんを病んだことを聞いて、生きて会えるうちに会っておくべきひとがまだいるなあと思ったからだ。

とはいえ当時の我らのクラスは、自慢にもならないのだけれど、なんともやる気のない、まとまりを欠いたクラスで、いつも何人かの小さなグループ単位でてんでに動いていたのだった。

だれかがなにかを呼びかけてもどうに

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京都で会ったひとたちのこと 2

京都で会ったひとたちのこと 2

つづき

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京都に帰るとタクシーの運転手さんとよく話す。

今日は女子大のクラス会に行くのだというと「そらもう、にぎやかでっしゃろな」と言われてしまう。

「なんでそんなにしゃべることがあんのやろ、とおもうくらい、ようしゃべりますなあ、おんなのひとは。おうたとたんにしゃべりだして、飯食うてしゃべって、コーヒー飲んでしゃべって、また場所変えてしゃべるんですなあ。昔のことやら今のことやら、

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京都で会ったひとたちのこと 1

京都で会ったひとたちのこと 1

東京在住のころ、女子大のクラス会に行ったおりとこと。

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京都駅はいつからかあたしにはよそよそしい場所になった。新しい駅舎はイベント会場のような顔をしてひとを迎えるような気がするのだ。

それはそれでよいのだし、それにもう古い駅舎のことを思い出そうとしてもなかなか浮かび上がってこないし、目の前のスカッと直線的にデザインされた新しい駅舎の空間に過ぎた日々を重ねることはできないのだけれど、

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