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2021年1月の記事一覧
遠い日の京都 「竜安寺はお好き?」
あたしの前を義姉が行く。言葉を交わすこともなく、ひたすら歩く。 その太いけれど足首の締まったふくらはぎを見つめながら 早足で追いかける。九つも年が違えば歩幅も違う。 汗が首筋を伝う。
それは小学5年生の夏休みのことだ。
義姉のふくらはぎから目をあげ「どこいくのん?」と さっきからの疑問を口にする。
と、義姉はすばやく振り返り、 形のよい唇の片端を皮肉っぽくあげて 「行ったらわかる」とだけ
そんな日のアーカイブ 映画感想文 アメリ
さても小粋なもんだった。これがフランスやねえ、と思う。
いろんな評にあったようにやっぱり小道具のセンスがいい。マネっこしたくなるよね。
年を重ねたおんながおんなでいる。それぞフランス!恋に寛大だ。(やきもち焼きの男もいたが)
主人公の眸の動き、その靴とソックス、彼女の歩幅、ピタゴラスイッチのような念の入ったたくさんのたくらみ(ドワーフの旅は特にいいなあ)、八百屋のおっちゃんへのいたずら、同
そんな日のアーカイブ 映画感想文 モンスター
自殺しようとしていた娼婦が同性愛の少女に出合った。そこで終わるはずの命が、であったことで繋がった。
そうしてまた、彼女の人生のサイコロが転がりはじめた。
娼婦のすごろくは13歳から始まっている。いや、8歳で父親の友人にレイプされたときからだ。
彼女がその人生すごろくの岐路でえらんだみちはいつも悪いほうへ悪いほうへと進んでいく。
しかし、そこで少女とであったことで、今度は違うとおもった。
そんな日のアーカイブ 映画感想文 小説家を見つけたら
ショーン・コネリーは大好きな俳優さんだ。まったく惚れ惚れとするじいさんだ。寝巻きすがたがかっこいい。帽子も似合う。
しかし、いつものことなのだけれど、自分が一度見たはずの映画の記憶がなんと偏っていることかと思う。字幕を読んでいるあいだに見落としているものも多いのだろう。
少年がBMWについての薀蓄を言う場面とか、小説家が自転車で曲がるときに手を上げる場面などはああ、そうだったそうだったとよ
そんな日のアーカイブ 映画感想文 ドライビング ミス ディジー
老いてホームに暮らすジェシカ・ダンディをその息子といっしょに彼女の運転手していたモーガン・フリーマンが訪ねる。
いっしょにたくさんの時間を過ごしてきた彼が感謝祭のパイをスプーンですくって彼女に食べさせる。
そんなふうに「ドライビング・ミス・ディジー」は終った。
ジェシカはモーガンを頼りきり、満足げな顔をしていた。そのスプーンのひとすくいひとすくいがどんな言葉よりもたくさんのことを物語る。
そんな日のアーカイブ 21 2005年の小説家 藤田宣永
「雪国」 恋愛の不可能性 講義録
昭和12年に書かれた川端康成の「雪国」は、なかなか難問を抱えている、簡単にかかれた作品である。
島村はワキであり、駒子がシテである。恋愛小説はそもそも女が主人公である。藤田氏夫婦の場合も小池真理子が主人公であり、藤田氏は脇役であるという。
恋愛小説に合うのはほとんど働かない男である。「源氏物語」やラクロの「危険な関係」の主人公は貴族である。
また青春と
そんな日のアーカイブ 20 2005年の小説家 島田雅彦
「ジャパニーズ ウェイ オブ ラブ」
何べんでもいうが島田氏は男前だ。セルゲイなんて名前が似合いそうな男前だ。
本日は色あせたジーンズに生成りのジャケット。その下にナイキのマーク付きの鮮やかなオレンジのTシャツを着ていた。氏が年々自意識のようなものから開放されていってるような感じがするのは、この場になれてきたからかもしれない。いや、それどころか、本日は下ネタを含めて大いに笑いを取っていた。男前
そんな日のアーカイブ 19 2005年の評論家 川本三郎
「下町の感受性」〜宮部みゆき原作・大林宣彦作「理由」〜
読売ホールで川本氏にお会いするは3回目になる。声や口調や話の流れがだんだん親しいものになってくるような気がする。
今回のテーマである「愛」は川本さんにとっては苦手なジャンルで、この講演依頼を断ろうとさえ思ったほど、興味がないのだという。しかしひろく愛ということを考えると家族愛も含まれるだろうと思い至ったそうだ。
そういう意味では宮部みゆ
そんな日のアーカイブ 17 2004年の小説家 重松清
「ため口の季節」 講義録
「ため」というのは同年輩、あるいは同じくらいの歳ということであり「ため口」というのは対等にしゃべる、敬語を使わないということである。対等以外のしゃべり方を知らない季節が青春なのではないか。
(重松氏自身は週刊誌で芸能界の書き捨てのような記事を十数年書いてきた。日本・近代・文学を体系だてて勉強してきてはいない。そんな自分が語るのは僭越だが、と前置きして)
青春が
そんな日のアーカイブ 16 2004年の評論家 川本三郎
「白秋―若き詩人の肖像」 講義録
日本では年齢というものが話題になり語られるが、海外の本には何年生まれという明記はない。
近代日本は100年の西洋化を大忙しでやったので、ひとりの人間のなかで時代がめまぐるしくかわり、年齢的ギャップができるので時間というものに敏感にならざるをえなかったのだろう。
それは青春というものにもかかわってくる。
近年、青春という言葉は使われなくなった。青春の価値
そんな日のアーカイブ 15 2003年の詩人 荒川洋治
「最近近代文学、明治の文豪と呼ばれる人の小説を読んでるんです。これがおもしろいの!」と荒川さんの話が始まった。
正宗白鳥や国木田独歩、高見順の名前があがる。 今から思えばどの作家も純情で、それがなかなかに愉快なのだという。
例えば、尾崎紅葉の書いた「多情多恨」の主人公鷲見柳之助は妻るいを失って悲嘆にくれて一日に二度も墓参りをするような男である。
「日に二回もですよ」と荒川さんは念を押す。
そんな日のアーカイブ 14 2003年の評論家
講義と講義のあいだの休み時間に、ふっととなりのひとが交わす会話が耳を掠めることがある。この日、わたしの右どなりにいたのはめずらしくお若い女性だった。黒ぶちのめがねをかけた真面目そうなひとが、その右どなりのきりっとした感じの女性に、ゆっくりとした口調で話し始めた。
「わたしの高校の先輩に坂口安吾がいるの」
「あら、坂口安吾って新潟のひとだったの。知らなかったわ。有名人がいて、いいじゃない。うちはそ
そんな日のアーカイブ 13 2003年の作家 藤原伊織
前日の藤田宣永さんの講演時、藤原伊織さんが会場のよみうりホールに来ておられたのだそうだ。それを聞いてなんとまあ、用意周到なお方だろうと驚いたのだが、藤原さんがほんの少し前まで広告代理店の部長さんをされていた、と知ればなるほどこれがマーケティングというものか、と胸落ちしたりする。
『テロリストのパラソル』という小説で、史上初めて江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞された藤原さんは逢坂剛さんと同じく広告
そんな日のアーカイブ 12 2003年の作家 藤田宣永
今は著名な作家も、かつては、その先を行く作家に憧れた文学少年であった。阿刀田高さんは中島敦を尊敬し、椎名誠さんは井上靖に傾倒した。
長部日出男さんが太宰に憧れたように、浅田次郎さんが三島を好きなように、藤田宣永さんは吉行淳之介の大ファンであった。
藤田氏は最初吉行淳之介という名前をカッコイイと感じ、その作品を読み進み、彼のような小説を書いてみたいと思ったのだった。
恋愛小説の名手だと言われる