カラサキ・アユミ 連載「本を包む」 第3回 「同じ顔」
なんてギラついたカバーだろう。貪るように本を読む人々の表情に思わず視線が吸い込まれる。しかも描かれている全員が同じ顔……。
背には前の持ち主によってペンで小さく〝異邦人〟と書かれていた。本の名札(連載第2回「本の名札」をご覧ください)として長らくお役目を務めていたのだろう。日焼けによる色褪せ具合に年季が入っている。
このカバーには、過去の記憶を思い起こさせるのに十分なキーワードが揃っていた。燻したような茶色、競い合うように本を手に取る表情、似た顔つきの人々……。
学生時代、生まれて初めて古書即売会に出向いた時のことだ。
張り切りすぎて開始15分前に会場に到着してしまった私の眼前には自分の父や祖父と同じくらいの世代の老紳士達が既に十数人会場の入口を陣取っていた。それまで孤独を讃歌しながら古本趣味に埋没していた自分にとって、同じ古本を愛する同志達を間近で見る初めての機会だった。
皆々なぜだか似たような色合いと格好をしており、そのほとんどが茶色またはチェック柄の布に身を包んでいた。ここまで統一感があると、もはや首から上の形態はほぼ同じように見えた。そして穏やかな佇まいとは裏腹に彼らの瞳には炎が灯っていた。
長年古本趣味をやっていると皆こんな風に同じ顔つきになるのだろうか。
杖を手にしていたり、ポロシャツの胸ポケットが首から紐でぶら下げたガラケーでパツパツになっていたり、首に手拭いを巻いていたり、それぞれ自分の十八番アイテムを装備して今から決戦に挑むかのような古本猛者達の姿が、そこにあった。
あの日、彼らに圧倒され危うく古本の戦いに挑む前に戦意を喪失しそうになった自分を思い出してフフフと声が漏れた。
月日が経ち、あれから数々の古本合戦で白星を重ねていった私も今やあの時の老紳士達と同じ顔つきになっているに違いないだろう。
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