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カラサキ・アユミ 連載「本を包む」 第2回 「本の名札」
ブックカバーのことを、古い言葉で「書皮」と言う。書籍を包むから「書」に「皮」で「書皮」。普通はすぐに捨てられてしまう書皮だが、世の中にはそれを蒐集する人たちがいる。
連載「本を包む」では、古本愛好者のカラサキ・アユミさんに書皮コレクションを紹介してもらいつつ、短文のエッセイを添えてもらう。
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書店で本を購入する時、店員さんに聞かれる前に「カバーかけてください」とすかさず伝える。袋が有料化した今、鞄の中で本を無傷で守る為には欠かせない存在になった。
外すタイミングは人それぞれだろうが、自分の場合は自宅に帰り着き鞄の中から取り出した時点でお役目御免と外す。
だが世の中には〝外さない〟という選択をする人も一定数いるようだ。
古本屋散策をしていると、均一棚に書店カバーが巻かれたまま売られている古本を目にする機会が度々ある。
この場合、ほとんどはカバーの背の部分に本のタイトルが書かれている。前の持ち主のによって書かれたものだろう。
小さくか細い字で書かれているのもあれば、今回紹介するカバーのように「世界教養全集 3」と太いマジックペンで力強く書かれたものまで実に個性様々だ。
私はこうした〝書名が書かれたブックカバー〟を「本の名札」と呼んでいる。大量生産された単なるブックカバーがその本専用の名札に変身した経緯や、書き手である持ち主のことなど、妄想を膨らませると意外と楽しい。
読了後に書き込んだのか、それとも読む前に日焼けや汚れから守るために書き込んだのか。もしかすると元の本の背表紙がインパクトに欠けていたので本棚でも認識しやすいように工夫した結果の産物かもしれない。
でもそこまでしたのに案外読まずじまいで本棚に並べられ風景の一部と化していたのかも……なんて想像すると何だか微笑ましい。
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この同志社の大学生、几帳面な人物ではなかったのは明白だ。まずは勢い溢れる筆跡。マジックペンで躊躇いもなく書かれており、字のバランスと言い、カバーを外さずに器用に書き込んだようにも思える。
その可能性は濃厚だ。表紙と裏表紙のデザインを見ればわかる通り、天地逆さまに書名が書かれている。このカバーの場合、背だけでは天地が分からない。本棚に逆さまに並べたまま書いた可能性だって考えられる。この名札付きの本を古本屋で見つけた時、やはり本は逆さまに並べられていた。
こんな風に、名札の書き方にも違いや個性があってよくよく観察してみると結構面白かったりするのだ。しかしこの同志社の学生、ずいぶん魅力的な人物ではないか。
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文・イラスト・写真/カラサキ・アユミ
1988年、福岡県北九州市生まれ。幼少期から古本愛好者としての人生を歩み始める。奈良大学文学部文化財学科を卒業後、ファッションブランド「コム・デ・ギャルソン」の販売員として働く。その後、愛する古本を題材にした執筆活動を始める。
海と山に囲まれた古い一軒家に暮らし、家の中は古本だらけ。古本に関心のない夫の冷ややかな視線を日々感じながらも……古本はひたすら増えていくばかり。ゆくゆくは古本専用の別邸を構えることを夢想する。現在は子育ての隙間時間で古本を漁っている。著書に古本愛溢れ出る4コマ漫画とエッセイを収録した『古本乙女の日々是口実』(皓星社)がある。
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