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「詩の誕生」との出会い【記憶】

幡ヶ谷の細い路地にあった。

あまり外食はせずに
ただ夕方は走ったり
トレーニングをした。

週末なので
そのあと少し歩いた。

何処へとも
行きつかない匂いは
ひとつひとつの個性が
消え去って
新しいヘンテコな
色が着いて
彷徨っていた。

空が小さいせいか
そんなことにも
なんとも思わなかった。

つまらなそうに、
でも楽しそうにとも
取れる表情の店主が
大きな窓から見えた。

それは左側だった。
だから左向け左の形になる。

良く見ると
客が1人カウンターで
店主と話していたが
もう留まることは
不自然なので
そのままの流れで
扉を開けた。

先客はうるさかった。
声は大きくないが
内容がうるさかった。
そのうち居なくなった。

店主は小柄な女性だった。
自家製コーラを注文した。
壁に向かって座る席にした。
近くに本棚があったからだ。
鞄に本は持っていたが
本棚から選び始めた。
1番古ぼけた小さめな本を選んだ。
「詩の誕生」と書いてある。

ぼくは初めて開く本は
出版された年を確認する。出版された時代をイメージするのが好きなのだ。昭和55年10月10日第一刷と書いてあった。ページの縁はセピア色になっていた。古い紙の匂いも好きだ。紐の栞が割と前半に置いてあった。

小柄な女性の店主は自家製コーラを持ってきた。透明な炭酸の飲み物が首のあるグラスに入っていた。小皿に「かりんとう」が3つほど添えてあった。ストローは使わなかった。炭酸水の中にニッキの味がした。10年くらい、いやもっと前か。最後にニッキ水を飲んだ記憶が甦った。どちらも美味しくはない。不味くもない。嫌いではないが好きでもない。

「対話」の形で書かれていた。ラジオを聴いているようでもあった。どれもこれも面白い話ばかりするのだけど、特に「自動記述」については食いついた。

口の中が甘いのでコーヒーを頼んだ。フレンチプレスで淹れていた。もう一度、「かりんとう」が出てきた。


※「詩の誕生」対話:大岡信・谷川俊太郎(読売選書)


写真@小林ぶんぶ


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