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稀覯雑誌『ADONIS』

ついに、念願叶って、『ADONIS』を手に入れた。
創刊号から順に5冊。初期本である。
これは私の藝術作品を深めるためには是非とも入手したかったのである。

日本初のゲイ雑誌であり、アドニス會の會員だけの少部数の冊子である。

刊行は昭和27年とあるため、1952年である。
この冊子は№63で終結しており、以後、それらの血脈ともいえる同性愛雑誌へとその流れを受け継がれていったのだという。

アドニス會の規則が書かれたペーパーが同封されている。

三島由紀夫、中井英夫、塚本邦雄などのウルトラにメジャーの文学者(まぁ、一般には三島だけか)が寄稿しており、日本三大奇書の中井英夫の江戸川乱歩賞の『虚無への供物』もこの同人誌の別冊に初期版が初出で掲載されたのだ。
江戸川乱歩もまた同性愛の研究者であり、日本文学、いや世界の文学には同性愛の系譜が存在している。
そもそも、藝術とは同性愛にこそ、その真理が眠っており、異性愛とは世俗の最たるものである。

異性愛が藝術されるためには、禁忌タヴーが必要とされる。
つまりは近親相姦、身分違いの愛、赦されない愛、異常性愛。
無論、現実の同性愛と文学上の同性愛は別物であり、恋愛には何一つ変わることはない。ただ、この冊子においては、古代希臘羅馬時代からの同性愛文化の解説や、様々な彫刻における男性の肉体美など、非常に、ウルトラに文化的要素が紙面を彩り、その上品な佇まいは美しさを感じさせる。

何よりも、アドニス會員の方々の投稿欄がこの本の素晴らしさの表出点だろう。1952年というと、今から70年前なわけであるが、この時代も無論今とほぼ変わらず多くの同性愛者がいたわけだが、世間の理解がほぼ皆無であり、ただ1人悩みながら日々を送る人が多かった。
例えば、「迫る結婚を考えると憂鬱で」、的なことが書かれているが、恋愛対象ではない女性と(女性であれば男性と)結婚するということは、まぁ、縛鎖に繋がれるのと同義であり、魂以外の全てが剥奪される、まぁ、戸愚呂のおける冥獄界と同様であろう。
また、相談の出来ない苦痛、誰にも理解されない苦痛、そして、自分はおかしいのではないかと思う苦痛。様々な苦痛を吐露しているが、その苦痛を、境遇を分かち合える場所としてこの同人誌は機能しており、それがどれほどの救いになったことであろうか。

ここにこそ、この同人誌の存在意義があるのかもしれない。
寂しく辛い寄る辺のない心、少年のような繊細な心たちに寄り添う松明である。

稀覯雑誌であるが故になかなか手に入らないが、これを機会にゆっくりと読んでいきたい次第。


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