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蔵書一代

とは紀田順一郎氏の著作である。

昨年の秋、紀田順一郎の古本屋探偵が創元推理文庫にて復刻されていたので、ようやく購入。それから『神保町の怪人』も合わせて。

舞台は1980年代くらいである。物語は本の探偵として、探求本を探します!という広告を出している古書店『蔵書一代』の主人須藤が依頼人の探している本や人を調べるものだが、著者がなにせ30000冊もの蔵書を持っていた人であるから、その知識量は凄まじい。なので、反対に言うと、あんまり古書に詳しくない人、書痴的な性癖がわからない人にはよくわからないかもしれない。

とはいえ、1冊目の『古本屋探偵の事件簿』は3話の短編で構成されていて、比較的読みやすい。幻の稀覯本を入手したコレクターがそれを図書館に寄託するのだが、それがすり替えられてしまって犯人を探す話や、本に埋もれた屋敷に住む書痴の老人の話など、読みやすい。
2冊目の『夜の蔵書家』は長編である。しかも、戦後にゲテモノ系のエロ本などを編集・出版していた人物を探す話で、まぁ、かなりマニアックであり、ここまでいくと、相当古書とかに興味がある人の方が楽しめる。

そもそもが今から40年以上前を舞台にしているので、男尊女卑の描写など多いが、まぁ、それは時代のものなのでしょうがない。
かつ、ハードボイルドとまではいかないが、男臭い作風の為、まぁ、男性の方が楽しめるだろう。なにせ、専門用語も多く(キキメ、黒っぽい本、白っぽい本、書タレ、など)、なかなか耳慣れないタイトルの本も多数出るため、古書好きがやはり楽しめる作品だが、人間関係などがわかりづらく、なかなか面白くならないまま終わってしまった、と感じる人も多いだろう。

蔵書一代、この言葉は、古書だけではなく、収集癖のある人間にはグサリと来る言葉である。
蔵書は、まぁ、一代限りなのである。どのようなコレクションも、何れは処分を考えなければならない。家族にとっては、価値も不明で汚いものも多い。子供や孫がそれにハマることなど、あまりないのだ。

本、というのは、コレクターが死ぬと一気に放出されるのである。作中でも、古本屋はまずは新聞で死亡欄を見る、というブラックジョークなのか真実なのかわからないが、そのようなことが書かれていた。然し、実際に、死んでしまったら残された人は売るか捨てるかしかない。一括で何百万円にもなるのであれば、まぁ売るだろう。
どこかのタイミングで、断捨離をしなければならない。

私は愛書家とはいえない。それなりに蔵書はあるが、10000冊とかそういう次元違いの蔵書家とは異なる。好きな作家の本だけを蒐めている。そういうのには、金は惜しまない。

けれども、何れは自分の持ち物は処分しなければならない。あの世には何も持っていけない。

人はみな、クロロにならなければならない。手に入れたものは一頻り愛でると、後は全て売り払うのだ(盗めは駄目よ♡)。



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