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お盆だから『御先祖様万々歳!!』

押井守の『押井守の人生のツボ 2.0』を購入。

私は意外と押井守本が好きで、最近は映画ライターの渡辺麻紀と対談というか押井守とわちゃわちゃ各テーマに沿って話す、的な構成本が結構出ている。連載を書籍化しているそうだ。

今回は人生相談。仕事、家族、友人、習癖、社会、人生、などのカテゴリーでの人生相談に応えつつ、時にオススメの映画を教える、という。
押井守は今作の中で、僕の小説を読め、麻紀さんも全然読んでないよね?的なこと書いていたが、私も押井守の小説は読んでないと笑ってしまった。

今巻でもいつもの押井守節は炸裂していて、印象に残ったのは、

・映画監督になりたいなら死ぬほど本を読みなさい。映画は後からでも観られるので。本を読まない人間が多すぎ。
・別れのレイアウトは縦で描け。それぞれの目線を別方向に向けるのが別れのレイアウトだ。
・人類は愚かなのは変わらない。変わらないから『アバター』が5まで作り続けられる。

などなど。まぁ、押井節を感じながら読むのがオススメだ。

度々自身の作品についての言及があるが、その中でも昔のOVAアニメである『御先祖様万々歳!!』について多く語っていたが、今作は全6話で、1話30分ほどなのだが、まぁ3時間弱の映画みたいなものだ。

↓大好きなオープニング。放送事故みたいな映像だが、演出である。

主題歌の『御先祖様万々歳!!』は名曲であり、中毒性がある。
この時代の主題歌を聞くと、私はとても切ない思いにとらわれる。
私はまだ4歳くらいだったので…。
この時代のアニメソングなどが、私には郷愁のスイッチなのである。

押井守本人も言うように、今作は演劇のようなレイアウトが多く、物語進行も演劇調で、延々と登場人物たちが心情を芝居がかった台詞回しで会話を進めていく。そこには押井守の主張や思想が並べ立てられて、その独特のリズムがとても気持ち良い。ショットの画面が固定されて、部屋やバー、海の家などを舞台に見立てて、演劇のように見えるように演出されている。

然し、その中でもアニメーションは躍動し、かつ、その舞台立て、書き割りこそが今作の書割の家族を象徴するかのようであり、作劇と内容とがレイヤーとして機能している。

物語としては、主人公の四方田犬丸よもたいぬまると父四方田甲子国よもたきねくに、母四方田多美子よもたたみこのもとに、17歳の美少女が、あなた方の子孫だと言って現れる。
彼女は黄色い花で飾られた黄色の大きなハットを被り、「犬丸お祖父様、あなたの孫の四方田麿子よもたまろこですわ〜。」的な、御嬢様言葉を話しながら家族に居座ろうとする。
彼女はタイムマシンである黄色い飛行船と共に現れるのだが、そもそもそれがタイムマシンであるかは証明されないし、そもそも彼女の言っていることが本当なのかわからない、けれども、家族間に問題のある3人は、彼女の嘘か真かわからない言葉によって、破滅へと向かっていく……的なブラックコメディである。

今作では、もう一人、室戸文明むろとぶんめいなる男が重要人物として現れる。彼は、麿子を追ってやってきたタイムパトロールだと自称するが、彼の正体は5話で判明し、そこが一番の驚きどころだ。

これに似た話としては、2014年のアメリカ映画『プリディスティネーション』がある。タイムパラドクスの映画としては傑作で、私は今作は好きすぎて、同年に公開された『マッドマックス/怒りのデスロード』よりも好きな映画だった。
まぁ、卵か先か、鶏が先か、タイムパラドクスの最大の捻れ、タイムパラドクスの産む奇形の運命を描いた作品で、是非観て欲しい。本当に傑作だから。

『御先祖様万々歳!!』は家族をテーマに描いており、そして、信用の出来ないキャラクターの介入でそれぞれの考えの吐露や関係性の破綻などが見える仕組みになっている、頗る面白い作品であると同時に、麿子という存在そのものが持つ多面性と重層性で、いくらでも解釈できる作品だ。


さて、本の話に戻ると、今作で恐らくはゴジさんこと、長谷川和彦をディスっているところも印象に残った。長谷川和彦は映画監督で、1970年代に『青春の殺人者』と『太陽を盗んだ男』を監督した伝説的な監督で、その後は監督作がない。


小説家を目指し、昔佳作にも引っかかった旦那がずっと働かない、そして小説も最近書いていない、いつかは……的な風で困っているという質問に、押井守氏は貴方の旦那さんはルーザーはいぼくしゃです、と言い切っている。

この質問に長谷川和彦らしき人が引き合いにだされていたのだが、まぁ、『太陽を盗んだ男』は傑作である。私の感覚では、藝術家は藝術を生み出したその時にもう一つの役割を終えていて、藝術家の栄光に触れたのならば、そこに敗北などない、と思っているが、押井守は著書で事あるごとに、監督の勝利条件は撮り続けること、次の作品を作る権利を確保し続けること、と書いているため、傑作だろうが凡作だろうが、駄作だろうが、作り続けることに価値があると書いている。まぁ、勝利条件は人によりけりなので、これは押井守氏の考え方なのであろう。

私はどちらも好きなので、うーん、ディスるならクソ映画を撮り続ける監督をディスれよと思ったのだが、才能はある、と本文中で書いているため、若干のモヤモヤを長谷川監督に抱いている気もしないではない。

↓一番のオススメはこれ。映画好きは是非読んで欲しい。

然し、これは長谷川監督のことではないのかもしれないし、わからない。明言はないが、35年、40年前に有名な作品を2作品撮って……とあるので、まぁほぼそうだろうと思われる。

ただ、最後にはジャン・リュック・ゴダールの『映画監督とは職業ではなく生き方』というのを引き合いに出しているので、どっちやねんと言いたくなる。

然し、押井守氏のこの手の本はウルトラに面白いためオススメだ。2時間〜3時間もあれば読めるので、是非。
小説以外のエッセイ本、対談などの読みやすい押井本を列挙させていただく。


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