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美しい映画。美しい色。美しい文章。


私は大変映画が好きである。

映画でも、ストーリーを重視する人、映像を重視する人、その作品ならではのセンス・オブ・ワンダーを期待する人など、様々だと思う。私は、どれか一つでも特筆していたら素晴らしいと思う。

美しい映画は数あれど、これは!と思ったのは『暗殺の森』である。

『暗殺の森』は1970年のイタリアとフランス、西ドイツの合作映画で、
監督はベルナルド・ベルトルッチである。この映画がベルトルッチが29歳の時の作品で、彼はこの後、『ラストタンゴ・イン・パリ』を撮る。
『ラストタンゴ・イン・パリ』は私のベスト10に入る作品で、『暗殺の森』同様、まことに美しい映画である。
『暗殺の森』は寒色が多用されていて、これは『ラストタンゴ・イン・パリ』とは異なる。撮影監督はどちらもヴィットリオ・ストラーロが手掛けていて、彼の映像の美しさには息を飲む。映画には撮影監督が重要なのだ。そして、照明。映像には欠かせないものだ。

『暗殺の森』の原題は『適応主義者』というもので、ファシストの青年マルチェッロが主人公である。
彼は大学時代の恩師のクアドロ教授の身辺捜査のためにパリへと向かう。
クアドロ教授は反ファシズムの活動をしている。彼はファシスト党に順応するために、クアドロ教授の暗殺に加担する。

ストーリーの全体を丁寧に紹介する気力はないので大雑把に書いたが、私はこの映画における透徹するほどに冷たい色彩感覚にやられた口だ。


ドミニク・サンダとステファニア・サンドレッリのダンスシーンの美しさは、窓と窓外とでトリコロール色になっていて洒落ているし、ドミニク・サンダの教えるバレエ教室の白と青の画面構成も宝石よりもきれいだ。

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映画はモノクロも含めて、色彩を獲得している動画芸術であり、物語ることに有便なジャンルだが、私には物語などはどうでもいいと思えることがある。
無論、この映画はテーマ性、物語性も非常に富んでいて、それを色彩の魔術で包んでいるから今も名作として語り継がれているわけだが。

反対に、『ラストタンゴ・イン・パリ』は非常にシンプルだ。

男女の性的幻想が描かれる。いや、中年の男性の性的ファンタジーだろうか。撮影方法に問題があり、様々な議論を呼ぶ作品である。
ベルトリッチはこの作品において、蛇蝎のごとく嫌われることになった。
この映画には、フランシス・ベーコンの絵画、そして、ガトー・バルビエリのサックスが世界構成の重要な要素として登場する。

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この作品は暖色、オレンジを基調とした画面作りがなされているが、マーロン・ブランドが亡き妻の死体の前で語る独白、このシーンの妻を囲むヴァイオレットの花々とマーロンのコート、部屋の壁、ライトの色彩が一幅の絵のようで、たまらなく美しい。
マーロン・ブランドの声、この嗄声の魅力はたまらない。ああ、私はマーロン・ブランドが大好きである!

マーロン・ブランドはアカデミー賞を辞退した俳優だが、彼は、
「役者は芸術家ではない。芸術家とは彫刻家や音楽家のことを言うのであって、自分たちをそのように言う連中には笑ってしまう。連中がアカデミー賞を受賞した時のために、躍起になってスピーチの練習しているのを私は知っている」と、同業者を痛烈に批判していた。彼は問題も多い人物として語り継がれている。けれども、私には高潔な人物で、自分を曲げないところなど、素晴らしい人だと感じる。

さて、私は、小説、或いは文章に色彩を持たせたい。
美しく淡い、碧色、菫色、白色…。それらを文章として書き上げて、感覚を共有できるタペストリーとして綴りたい…。あなたがそれを手にした時に、あなたの瞼の裏側にきれいな星空が浮かぶように。いつかはー


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