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150万円の魔導アーマー

『FINAL FANTASYⅥ』のフィギュアが発売されるという。

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それも、魔導アーマーに乗ったティナという、よくあるモチーフだが、然し、値段は1,500,000円、世界限定600体の受注限定生産のシロモノだという。

これを見て、坂口博信氏が「これは、ないな。」とツィートしていた。
生みの親ですら、ないなと思うこのフィギュア、私も当然ないものと考え、実際に写真をよく見てみた。
確かに、1/6スケールの巨大なフィギュアとはいえ、これを150万円もの大金を出して買う人間は、そうはいないのではないかと思えた。
が、然し、「ティナ、かわいいな……。」、という、私の思いも事実である……。

無論、150万円もの大金を払うくらいならば、私は瑞風やななつ星、或いは四季島に乗ることを選ぶ人間ではあるが、こういうものに大枚を叩く人間がいるのも、また事実である。

天野喜孝氏が、このフィギュアのプロモーションビデオで嬉々と作品に関して語っている。


私はそれを眺めながら、天野喜孝氏の画業に関して、1人物思いに耽っていた。

天野喜孝氏は、喋る時に必ず頬に手を当てるが、その仕草が好きである。何よりも、80年代の写真髭面の青年で、若干の活動家風味の風貌が、非常に印象に残っている。

天野喜孝氏の作品で、一番好きな画集は『メルヒェン』である。

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『メルヒェン』は天野氏が描いた御伽噺作品を集めた作品集だが、その中で、ニューヨークを舞台にした『赤ずきんちゃん』の絵がいい。ニューヨークの都会を三白眼の美少女が行くのであるが、その色使いが堪らなく良い。

天野喜孝氏の幻想絵画は、思春期のサブカル乃至はオタク的熱病に浮かされた人間ならば、必ずや通過するものだ。
そして、初めはその絵の虜になり、アールビバンのことを識り、幻滅し、離れていく……。
然し、やはり天野喜孝氏の絵はいい。クリムトがどうだとか言われるが、クリムトよりもよっぽど漫画的で、コミカルであり、そして恐ろしく中二病的である。中二病を煩わせて、教室にテロリストが襲ってくる妄想に耽る少年には、天野喜孝氏の絵はあまりにも魅力的なのだ。

『FFⅥ』のティナの道化師めいた服装の色使い、デザインの素晴らしいこと。それをこのフィギュアを見ながら、改めて、やはり稀有な世界観を持った人だと感じ入る次第。

魔導アーマーとティナ、というモチーフはスチームパンク風味ではあるが、よくある、ロボットと美少女という、中二病アイコンの一つの王道をいくものであり、美少女が薄幸であればあるほど、そのいじらしさが輝き、それを受けて魔導の機械(乗り物だけど)の鋼の肉体もまた輝きを増す。

『FINAL FANTASY』シリーズのロゴは、Ⅳから天野氏のイラストが添えられるようになるが、その絵は幻想世界への入り口である。

天野氏の幻想世界は、血の匂いも、肌の体温も感じられない。然し、幼い頃、真夜中に恐る恐る手を伸ばして覗いたカーテン越しの夢の一瞬を見事に捉えている。その、とりとめのなさは、思春期の空想を拡張する、少年少女の恋人そのものである。


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