見出し画像

ブルーピリオドは面白いなぁ。


先日『ブルーピリオド』の最新第10巻が発売されたので、早速購入して読んでみた。

基本的には以下、ネタバレを含む。

『ブリーピリオド』は高校2年生で美術に目覚めた主人公が、最難関の東京藝大を受験するお話で、現在、10巻まで発売している。
公式サイトで1話が読めるので、まだの方はぜひとも読んでいただきたい。

今秋10月からはテレビアニメもスタートするし、最近はアルフォートのCMとコラボしてCMソングもYOASOBIで、売る気満々なのが見て取れるが、ズバリ売れると思う。
美術漫画と言えば、『ギャラリーフェイク』のような画商を扱った作品や、同じ美大ものなら『ハチミツとクローバー』や『モディリアーニにお願い』などがある。

『ブルーピリオド』はそれらの漫画よりも、少年漫画的要素がより濃厚である。僅か1年で、美術素人が様々な人間の手を借りて、東京藝大現役合格のウルトラCを成し遂げようとするわけである。これはとても燃えるし、キャッチーな展開である。また、主人公の矢口八虎は天才ではあるが、然し、作中に出てくる天然の天才と異なり、手練手管を使ったり、八方美人な性格で如才ないのが特徴の、どちらかというと所謂、読者側が非常に共感できる人物像になっている。美術の素人の主人公だからこそ、同様の読者と同じ目線で美術の世界を見ることが出来る。

第10巻は第7巻から始まる藝大編の重要なポイント、なぜ描くのか、ということに一つの答えを明示する。主人公八虎の友人&ライバル未満の天才世田介(よたすけ)(この名前を見る度、『横道世之介』を思い出す)の抱える苦悩にフォーカスが当たり、それは鏡となって八虎に返ってくる。
正直、この漫画はこの二人のラブストーリーと言っても過言ではない。そして、その恋愛物語のピークがついにこの巻でやってくるのである。10巻の始め、コミュ障の世田介くんと仲良くする男の子が登場し、八虎は涙に暮れるのである……。然し、その後は二人は絵に関して二人だけの答えを見つけ出し、渋谷の街でオールする。一夜をともにして、ついには八虎が見た『青い朝の渋谷』を二人で共有する。その時の世田介君の目の輝きと言ったら…。

そして、この二人の若き芸術家はそれぞれの初心であることに誠実に向き合うのである。
「始めは、ただ欲しかった」という展開である。

画像1

物作りに関わる人は、最初は好きだったり、それが得意だったりで、始めるものだと思うが、それがだんだんと形を歪めていく。他者との競争や、承認欲求、賞賛、金、それらが次第に作品にまで波及していき、不本意な、「作りたくないことやもの」まで拵えていくことになる。
それがある種、講師の猫屋敷先生のように思えるが、無論、その熾烈な競争故に出てくる傑作もあるだろうという意見もあるだろうし、それが好きでやっている人もいる。然し、彼女はどうも笑顔の裏が追い詰められてるし、つらそうである。

どうせなら、名を成さなくても、幸福に物を作る人が、私は素敵だと思う。

『ブルーピリオド』は、登場人物を最初の印象とは異なるようにさせていることが多い。これは、八虎が「人間に興味がある」ことを踏まえても、よく出来た作劇だと思う。
今作でも、9巻で初登場した小野冴夏という現代アーティストが大物のように登場するが、意外や人間性は普通の人といった感じで、彼女にも様々な悩みがあることを今後描かれるだろうことが、予期される。

とにかく『ブルーピリオド』は面白いし、素敵な漫画だと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?