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書店パトロール29 欲しい本はいつだって買えないものだ

無論、金がないから。

私は以前より、斎藤昌三の『書痴の肖像』が欲しかった。だが、税抜5,500円もしたので手が出なかった。

ゲテ装丁、ということで、ゲテモノ本の大家であり、古書王である。
私は昨年、『少雨荘交遊録』の南方熊楠直筆ハガキ付きの本を買おうか真剣に迷っていた。でも、68,000円もしたので、とても手が出ない。

その後、熊楠の記念館に行って自筆の原稿をいっぱい見たので、まぁいいかとなり、最近調べるともう売り切れていた。

『少雨荘交遊録』はこのように、斎藤昌三宛の著名人のハガキが貼られていたり、他の造本でも凝った本をたくさん拵えている。
1冊1冊が美しいわけでもない、異様な造本だったりするようで、そういう話が盛りだくさんのこの本を、前述の5,500円を支払えば買えるわけであるが、然し、無理である。いや、無理ではないのだが、5,500円というのは、一つのボーダー、つまりは一葉を一葉差し出す必要性があるわけで、それはそれは大変な決断である。そう考えると、68,000円は諭吉が6人、一葉が1人、英世が3人と10人の大所帯である。

なので、泣く泣く諦めた。欲しい本はたくさんあるし、私は貧乏なのだ。

そしてこの記事を書いている時、何気なく検索していると、まさかのnoteの記事に、この本を買った御仁が。なので紹介させて頂く。いいなぁ。クマグスの字、いいなぁ。

さて、思えば欲しい本がたくさんあるものだ。

先日、少し立ち読みして、購入しようか逡巡して止めたのが、『M-1はじめました。』

M-1グランプリの生まれるまでのドキュメントみたいな本で、まぁ読みやすいし、こういう、制作の過程、という本は私は大変好きなのである。然し、止めた。私はM-1グランプリは欠かさず観て楽しませて頂いているが、然し、1,760円を支払う余裕がないのである……。

私は肩を下ろしていた。いつもだ。いつも欲しい本は買えない。全て物価高のせいである(そうなのか?)。最近はコンビニのおにぎりも、普通に190円とかするので、最早ブルジョワジーの食べ物になっている。昼飯500円〜600円の時代は終焉を迎え、今や800円〜900円の世界である。

さて、私は以前から欲しいなぁ、と思う本があって、それが『若き詩人たちの青春』である。

ここに紹介されている詩人のほとんどを、私は詳しくは識らない。然し、どのような藝術家にも、青春の、所謂誰もが共感し得るアオハルというものがあるのである。本も厚みがあって非常に宜しいのだが、1,485円というのは頂けない。私は貧乏であり、お金がないのだ。つまり、私もまだアオハルということである。人間はいつだって魂は若いままなのだから。と、言いたいところだが、そんなことはない。魂とは日に日に腐っていくものである。哀しいことだが。

そして、『宮武外骨伝』。

私は、宮武外骨を見るたびに、いつも波平を思い出す。波平をこれほどまでに体現した男はいないのではないだろうか。もちろん、海平だって構わない。

宮武外骨は編集者、ジャーナリストである。色々と発禁処分を受ける雑誌などを作りまくっていた。
以前、『別冊太陽』の宮武外骨特集を読んで、ええなぁ、骸骨と、思いながら、この評伝を買うのは見送る。10年ほど前の本だ。それが平積みのコーナーにあった。つまり、骸骨ファンがこの書店にはいる、ということなのだろう。いや、サザエさんの新刊と間違えておいたのかもしれないな……。

そして、次に私が見つけたのは新装版の『映画秘宝』である。

映画秘宝が復活したのである。二度目の復活である。私は、2005年から映画秘宝を購入していたのだ。はじめに買った秘宝はデヴォン青木が表紙の、首チョンパ特集号だった。凄まじい濃度で首チョンパ映画が紹介されていた。あれから幾星霜、いつの間にか秘宝は休刊し、復刊し、休刊し、また復刊したわけだ。
然し値段はあのデヴォン青木の頃の1050円よりも600円くらい高くなっている!しかもなんか情報量も薄い……。

まぁ、本、という媒体は最早限界なのかもしれない。それは、私の愛したファミ通だってそうだ。昔はあんなに面白かったのに……。
いや、まだまだ面白いのだろう、私の魂が腐ってしまっただけだ。ただ、それだけだ。

と、思う私の眼前に現れたのは、『棟方志功: 仏も鬼も人も花も愛おしい』。

これは、恐らく昨年の『メイキング・オブ・ムナカタ』の絡みなのだろうか。

棟方志功、といえば、やっぱり谷崎潤一郎の『鍵』を思い出す。あれは当時からウルトラに売れた本で、まぁ、あのカタカナ文体がムナカタ絵にとってもあってるよね。
別冊太陽は本当に好きだが、高いのが玉に瑕だ。まぁ、それだけの美しい装丁と、濃い内容だからしょうがないのだが。

まぁ、私はこれらの本、全て手にいれていないわけである、あるが、然し、こうして様々な本の存在を知り、それを反芻しながら飲む缶コーヒーは乙なものである。てか、缶コーヒーも高いよね。最近高いのだと170円くらいするんだけど……。


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