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虫愛づる姫君『エンブリヲ』と『風の谷のナウシカ』

『エンブリヲ』という漫画について。

とにかく、とんでもない事態が待ち受けています。

私がこの漫画を初めて読んだのは2008年、エンターブレインからの復刊全3巻を本屋さんでジャケ買いしたときのことである。
私はジャケ買いを行動原理に置いているのだが、学生時代でもそうである。
元々は、月刊アフタヌーンの作品のようで、言われてみると納得であるし、エンターブレインから復刊されるのも納得である。
コミックビームか、90年代ガンガンとかなら連載されていそうな感じである。

今作は、『風の谷のナウシカ』同様に、虫愛づる姫君のお話である。
まぁ、と言っても、今作は王蟲のようにある種チューニングされたかわいい芋虫ではなく、完全に気持ち悪い系のそれである。
いや、表紙の蝶々とかは美しいと思うが、流石にその幼体はなかなかくるものがある人も多いであろう。まず、アニメ化は不可能である(地上波では)。

然し、ヒロインは美少女で大変に愛らしい。虫愛づる姫君のお話というのは、ここが厄介なのである。
大抵の読者は美男美女が好きである。それは遥か古代から同様であり、その時代の美醜のトレンドはあれど、何れにせよ美しいものが好きなのである。

連載自体は1994年のため、絵柄のテイストもそんな感じである。
表紙を見て頂ければおわかえりかと思うが、ヒロインのえりこちゃんは美少女である。この表紙に騙されて、おっ、かわいいヒロインのなんか耽美的な感じの作品だぞ、と思って買ったのが運の尽き、その中はムシムシパニックホラー(しかも性的な描写も……)という少しばかりハードな展開が待っているわけだ。
ヒロインは可愛いのだが、絵柄が全体的に楳図かずおとか丸尾末広みたいなので、ああいうのが苦手な人は要注意である。

まぁ、物語としては初っ端から芋虫に刺されて卵を産み付けられるという、恐らく考えうる限り最も嫌な経験をするえりこちゃんであるが、彼女は宿った命は尊ぶ人なのである。
相当にぶっ飛んだストーリーなので、まぁ読んで頂きたいのだが、作者の小川幸辰先生は別名義で✗✗✗✗✗な漫画を描いており、それは私の趣味ではないが、絵柄の振れ幅に驚かされるばかりである。
然し、虫愛づる姫君作品を書く人は、宮崎駿にせよ、そういう資質がある、ということなのだろうか……。

王蟲はかわいい。


そして、なぜか数年前、再び小川幸辰に名義にて、虫ホラーではなく、河童ホラーの単行本を発売しており、それが新刊書棚に並べられていて、私は衝撃を覚えた。

全2巻で、購入しようかと逡巡したが、まだ読んでいない。絵柄も、以前ほどの90年代感、退廃感がないので、うーん、どうしようかなぁ、と未だになっているわけである。

解説によると、唯一無比の民俗学(フォークロリスティクス)ホラー!、とある。
ふぉー、ふぉーくろりすてぃくすほ、ほらー、一息で言えましぇん……。

『エンブリヲ』の精神的続編として頼まれて描いた、とのことであるが、編集者もまさか河童かよ……!と腰を抜かしたのではあるまいか。

私がこの漫画を忘れがたいのは、先程も描いたように、あの90年代感、『寄生獣』などが持つ(まさに同時代だ)の匂いのせいである。
そして、気持ち悪い、というのも、記憶に刺さる要素だということだ。
美麗な絵柄は美しいが、意外に心に残らない。不快なもの、傷つけるもの、気持ち悪いもの、度し難いもの、そういうトラウマこそが、人間には忘れがたい存在となって、いつまでも追いかけてくる。




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